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市民社会の帝国-近代世界システムの解明   J. ロゼンバーグ著/渡辺雅男・渡辺景子訳

市民社会の帝国-近代世界システムの解明

現実主義に対するラディカルな批判をとおして国際関係理論の再構築をはかる斬新な問題を提起!
1996年ドイッチャー賞受賞作品「The Empire of Civil Society」の全訳

  • A5判/上製/412頁
  • ISBN978-4-921190-50-7
  • 本体4300円+税
  • 初刷:2008年6月25日

著者と本書の紹介

本書はJustin Rosenberg, The Empire of Civil Society:A Critique of the Realist Theory of International Relations, London ; New York : Verso, 1994 の全訳である。本書はLSE(London School of Economics and Political Science)に提出された博士論文がベースになっている。また、本書は1996年のドイッチャー賞に選ばれ、その記念講演が雑誌『ニューレフト・レビュー』に発表されている('Issac Deutscher and the Lost History of International Relations', New Left Review 215, Jan./Feb. 1996)。著者は、その後、ブレアに率いられた労働党(New Labour)政権のイデオローグであるアンソニー・ギデンズに対する辛辣な批判の書The Follies of Globalisation Theory: Polemical Essays, London: Verso, 2000を出版している。現在、著者はイギリスのサセックス大学国際関係部門のリーダー(Reader)のポストに就いており(http://www.sussex.ac.uk/ir/profile102452.html)、ウェブ上に個人のホームページも開設している(http://homepage.ntlworld.com/j.rosenberg/)。

「訳者あとがき」より

著者の言葉

本書は幸運に恵まれてきた。1994年に出版されてから、年を経るごとに、国際政治の理解にとってマルクスの資本主義分析が有効であるという本書の中心テーマは、時事的な広がり以上の意味を持つようになっている。本書が書かれた時点で、新自由主義政策は世界を席巻しており、冷戦の相手としてのソビエトに対する資本主義社会の勝利を確固たるものにしていた。だが、この資本主義の勝利が、その結果として、米ソの二極支配の後に続くアメリカの「一極支配」をさえ凌駕するようになるとは、当時まだ誰も予想できなかった。1853年にマルクスは「アジアの社会状態の根本的な革命なしに人類がその使命を果たすことはできない」(「インドにおけるイギリスの支配」)と指摘していた。日本が19世紀に突破口を開き、その後ついに中国とインドが資本主義的工業化を開始したことで、この革命は劇的な展開を見せている。しかも、それがもたらす最大の成果のひとつは、間違いなく国際政治のバランスを回復させることであろう。つまり、200年以上にわたる西欧の覇権に終止符が打たれることである。資本主義が最終的にその西欧という発祥の地を脱却することで、 国際関係に対して資本主義が持つ意味はさらに強化されるだろう。

マルクス主義は国際理論に多くの貢献を行ってきた。その中で、本書が行った議論は二つの点において独自である。第一は、本書が理論的な出発点にレーニンの帝国主義論やグラムシの「ヘゲモニー」論を置かず、マルクス自身の資本主義社会分析と価値論を置いたことである。こうした直接的な「マルクスへの回帰」がマルクス主義の国際関係論に関する著作でなぜ一般的に行われてこなかったのか、私には分からない。本書を読んでいただければ分かると思うが、マルクスの著作は国際理論に根本的な前進をもたらすための利用可能である。第二に、マルクス主義が国際関係論を扱う際には当然のことながら、現実主義の「パワー・ポリティクス」論を受け入れることはないし、むしろ資本主義の世界市場が富と権力の国際的不平等をいかにして生み出しているかに焦点を当てようとする。だが、その結果、現実主義者の中心的な主張に対しては積極的に関与しないということになりがちである。これに対し、本書『市民社会の帝国』は現実主義の内在的批判を行い、 「主権」や「アナキー無政府性」といったその中心概念が資本主義社会に特有の社会政治的現象を反映したものにすぎないことを明らかにした。当時の私は、それが最強の現実主義批判であると考えていた(これに対し、現実主義は、自分たちの主張が歴史貫通的な適応可能性を持つと考えていた)。その後、私は、資本主義的な地政学の歴史的に独自なあり方をめぐるマルクスの議論がグローバリゼーション理論の自由主義的な幻想を批判する際にも利用できることを発見した(Rosenberg 2000, 2005)。

どの本もそうだが、本書でも、積極的に取り組んだ問題もあれば、語られなかった問題もある。本書は、国際関係に対する資本主義の意義を明らかにする議論は行ったが、資本主義に対して国際関係が持つ重要性に関してはほとんどなにも語っていない。最近では、この後者の問題が私の研究の中心テーマとなっている。私は、トロツキーの「複合的不均等発展」論の批判的検討を通じて、このテーマを追究している(Rosenberg 1996, 2006)。幸いなことに、これまでのところ本書での議論と基本的に矛盾するような問題点は現れてきてはいない。最後に、本書を日本の読者に届けるうえで努力してくれた翻訳者の渡辺夫妻と出版社の桜井書店に謝意を表したい。

ブライトンにて 2008年2月

Rosenberg, 1996
‘Isaac Deutscher and the Lost History of International Relations’,New Left Review, Jan/Feb 1996, 3-15. (The 1995 Deutscher Memorial Lecture).

Rosenberg, 2000
The Follies of Globalisation Theory: Polemical Essays, London, Verso 2000.

Rosenberg, 2005
‘Globalisation Theory: a Post-Mortem', International Politics, Vol. 42, Issue 1, March 2005, 2-74.

Rosenberg, 2006
‘Why is There No International Historical Sociology?' European Journal of International Relations, 2006 12: 307-340

目次

  • 日本語版への序文
  • 謝辞
  • 序論
  • 第一章 現実主義の難点
    • 記述的な現実主義-E・H・カーと国家の視点
    • 規範的現実主義-モーゲンソーの「政治の法則」
    • ウォルツの理論的な現実主義-事故は起こるもの
    • イデオロギーとしての現実主義
    • 結論-なにが欠けているのか
  • 第二章 社会構造と地政学的システム
    • 一七一三年のユトレヒト条約
    • ワイトによる現実主義的歴史解釈の限界
    • 社会理論と社会構造
    • 社会構造と地政学的なシステム
  • 第三章 国家の隠された起源
    • 現実主義の歴史的正当化
    • ルネッサンス期のイタリア
    • 古典期ギリシャ
    • 国家理性の構造的基礎
    • 現代の国際関係論にとっての意味
    • 結論
  •  
  • 第四章 初期近代ヨーロッパの貿易と領土拡張
    • ポルトガル領インド
    • ニュー・スペイン
    • 結論
  • 第五章 市民社会の帝国
    • 市民社会の構造的基礎
    • 資本主義的政治形態としての主権
    • 主権国家システム
    • 絶対主義的主権の問題
    • バランス・オブ・パワーを歴史の中で理解する
    • カール・マルクスの無政府状態(アナーキー)の理論
  • 第六章 こんなにも骨の折れる仕事
    • -国際システムのもう一つの歴史についての概要
    • 方法
    • データ
    • 結果
    • 結論
  • 訳者あとがき
  • 人名索引
  • 事項索引
  • 文献
  • 市民社会の帝国 近代世界システムの解明

著者

J. ロゼンバーグ(Justin Rosenberg)

著者と本書の紹介を参照

訳者

渡辺雅男(わたなべ・まさお)

一橋大学社会学研究科教授・社会学博士

著書
  • 『階級!社会認識の概念装置』(彩流社,2004年)
  • 『市民社会と福祉国家』(昭和堂,2007年)
  • ほか
訳書

渡辺景子(わたなべ・けいこ)

一橋大学社会学研究科博士課程単位取得

訳書