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雇用身分社会の出現と労働時間:過労死を生む現代日本の病巣   森岡孝二(元関西大学名誉教授)著

雇用身分社会の出現と労働時間:過労死を生む現代日本の病巣

規制緩和の果てに労働基準の底が抜けた!

まともな働き方(ディーセントワーク)の実現を目指して雇用と労働時間を問いつづけ、「過労死防止法」の成立に尽力した著者が遺した警世の書。

  • 四六判/上製/312頁
  • ISBN978-4-905261-40-7
  • 本体2700円+税
  • 初刷:2019年2月13日

著者の言葉

わが国では労働法制の改悪と雇用・労働の規制緩和がずっと途切れることなく続いてきて、雇用形態の多様化という名の雇用の非正規化が図られてきた……その結果、雇用形態間の格差が広がって、雇用形態がある意味で上下の序列のある雇用身分になって、労働社会全体が多様な雇用身分に引き裂かれる社会になりました。……雇用の非正規化の帰結は、企業内の雇用身分制が企業の枠を越え出て、社会の階層構造を形づくる「雇用身分社会」の出現であったとも言えます。雇用身分の違いによって雇用の安定性の有無、給与所得の大小、労働条件の優劣、法的保護の強弱、社会的地位(ないし評価)の高低、などにおいて身分的差別ともいえる深刻な格差が存在する社会になったのです。

森岡真史(立命館大学教授)「父 森岡孝二のこと:あとがきにかえて」より

森岡孝二は、2018年8月1日夕刻に自宅で倒れ、救急病院に搬送されて救命治療を受けたが、意識を取り戻すことなく、そのまま74年の生涯を終えた。森岡は1983年と86年の2回にわたって心臓弁膜症の手術を受け、2度目の手術以降は心臓に人工弁を入れていた。日常生活にはほぼ支障はなかったとはいえ、慢性心不全の持病を抱えており、それが何らかの事情で急速に悪化したことによる突然の死であった。

本書は、森岡が『職場崩壊:規制緩和の果てに』というタイトルで桜井書店から出版を計画していたもので、2010年以降に発表した論文や講演記録からなっている(書名は出版社の希望で改題した)。ただし、死の直前までさまざまな活動に追われていたこともあって、実際の準備は章の構成を考えるところまでに留まっていたようである。少なくとも、パソコンに残されたデータから確認できる限りでは、もとになった原稿をその後の状況にあわせて修正・加筆する作業や、章と章の間の関係を整理する作業には、ほとんど手がつけられていなかった。そのため、形式的な面での最小限の編集を除いて、基本的に発表時点のままであることをお断りしておく。

(中略)

森岡の執筆活動は、晩年に向かうほどいっそう精力的なものとなっていった。またその研究は常に、過労死防止や株式会社改革の運動と結びついていた。長時間労働を規制する有効な対策がとられてこなかった日本で、ついに「過労死防止法」が制定された事実は、森岡の研究が新しい社会運動の結び目となって、世論やメディアを変え、法律を変え、行政を変える力強いうねりをつくりだしたことを示している。

経済学と社会運動への森岡の貢献を評価することは、これからの課題である。しかし、労働者の働き方、とりわけ労働時間の問題について、森岡が研究と運動の両面で巨大な足跡を残したことは、疑う余地がない。あえて私見を述べれば、1990年代以降の森岡の一連の著作は、『資本論』に源流をもつ批判的な経済学の伝統における最もすぐれた達成の一つに数えるべきものである。家族としてのひいき目を一切ぬきに、一人の経済学者として、私はそのように考えている。

目次

  • 序章 新自由主義の席捲は雇用関係に何をもたらしたか:ブラック企業と雇用身分社会
  • 第1部 現代日本の雇用と労働
    • 第1章 労働者派遣制度と雇用概念
    • 第2章 企業社会論の分析枠組みを問い直す
    • 第3章 日本資本主義の現局面と雇用・労働問題
    • 第4章 相次ぐ大企業の品質不正とその背景
    • 第5章 シェア経済は「未来の働き方」か
  • 第2部 日本資本主義と労働時間
    • 第6章 いま『資本論』の労働時間論をどう読むか
    • 第7章 日本資本主義分析と労働時間
    • 第8章 労働時間の性別二重構造と二極分化
    • 第9章 労働時間の決定における労使自治と法的規制
    • 第10章 安倍内閣の「働き方改革」と「時間外労働規制」
    • 終章 過労死110番の30年と過労死防止運動:新しい社会運動の歩み
  • 父 森岡孝二のこと:あとがきにかえて 森岡真史(立命館大学教授)

著者

森岡孝二(もりおか・こうじ)
  • 1944年3月24日 大分県大野郡大野町(現在・豊後大野市)に生れる
  • 1962年4月 香川大学経済学部に入学
  • 1966年3月 香川大学経済学部を卒業
  • 1966年4月 京都大学大学院経済学研究科に入学
  • 1969年9月 京都大学大学院経済学研究科博士課程を退学
  • 1969年10月  大阪外国語大学助手、のち講師
  • 1974年4月 関西大学経済学部講師
  • 1976年4月 関西大学経済学部助教授
  • 1983年4月 関西大学経済学部教授
  • 1986年6月〜1992年7月 基礎経済科学研究所理事長
  • 1996年2月 〜2014年8月 株主オンブズマン代表
  • 1998年4月 〜2001年3月 経済理論学会代表幹事
  • 2004年10月 〜2006年9月 関西大学経済学部長
  • 2006年9月〜2013年7月 働き方ネット大阪会長
  • 2010年3月〜2018年8月 大阪過労死問題連絡会会長
  • 2011年3月 関西大学を定年退職
  • 2011年4月 関西大学名誉教授,引き続き特任契約教授として教鞭をとる
  • 2013年7月〜2018年8月  NPO法人働き方ASU-NET代表理事
  • 2014年3月 関西大学を退職
  • 2015年5月〜2018年6月 過労死防止学会代表幹事
  • 2018年8月1日 死去
著書
  • 『独占資本主義の解明:予備的研究』(新評論,1979年(増補新版1987年))
  • 『現代資本主義分析と独占理論』(青木書店,1982年)
  • 『企業中心社会の時間構造:生活摩擦の経済学』(青木書店,1995年)
  • 『日本経済の選択:企業のあり方を問う』(桜井書店,2000年)
  • 『働きすぎの時代』(岩波新書,2005年)
  • 『貧困化するホワイトカラー』(ちくま新書,2009年)
  • 『強欲資本主義の時代とその終焉』(桜井書店,2010年)
  • 『就職とは何か:まともな働き方の条件』(岩波新書,2011年)
  • 『過労死は何を告発しているか:現代日本の企業と労働』(岩波現代文庫,2013年)
  • 『教職みちくさ道中記』(桜井書店,2014年)
  • 『雇用身分社会』(岩波新書,2015年)
共訳書
  • J.B.ショア『働きすぎのアメリカ人:予期せぬ余暇の減少』(窓社,1993年)
  • J.B.ショア『浪費するアメリカ人:なぜ要らないものまで欲しがるのか』(岩波書店,1993年)
  • J.A.フレーザー『窒息するオフィス 仕事に脅迫されるアメリカ人』(岩波書店,2003年)
  • J.M.ホジソン『経済学とユートピア』(ミネルヴァ書房,2004年)
  • D.K.シプラー『ワーキング・プア:アメリカの下層社会』(岩波書店,2007年)
  • J・B・ショア著『プレニテュード:新しい〈豊かさ〉の経済学』(監訳)(岩波書店,2011年)