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再論 資本主義の発見:マルクスと宇野弘蔵  重田澄男著
再論 資本主義の発見:マルクスと宇野弘蔵

「資本主義」はマルクスによって「発見」された。いかにしてか。
マルクスの「資本主義」と宇野弘蔵の「資本主義」、どこが違うのか。そして現代主義とは。
半世紀におよぶマルクス研究を総括・集成した書き下ろし。

A5判/上製/280頁
ISBN978-4-921190-67-5
本体3800円+税
発行
初刷:2010年7月15日

著者の言葉

2007年夏,アメリカのサブプライム・ローンの証券化の劣化による金融不安がひきおこされ,2008年9月,大手投資銀行および証券会社としてのリーマン・ブラザースの破綻に端を発した金融危機は,全世界の実体経済の危機に転じた。現代経済は危機を境にあきらかに変わってきている。高い失業率,拡大する経済格差,ひろがる経営破産のなかで,自律回復の条件をいかにしてととのえることができるのか,事態はけっして楽観を許さない。

明るい展望をもてそうにない状況のなかで,“資本主義の将来”をどのようにとらえるかが,各種のシンポジウムのテーマとなっている。いまや,人類的課題として,資本主義の歴史的限界とその克服が論じられはじめている。

資本主義経済の危機と軌を一にして,マルクスがいたるところで論じられるようになっている。もう過去の人と思われていたカール・マルクスが,現代社会の危機のなかで,資本主義の矛盾と展望を論じた最大の歴史的思想家・理論家としてよみがえっている。難解をもって知られる『資本論』が,世界のあちこちでまた売れ行きを伸ばしはじめている。

「資本主義」という用語は,疑いもなく現代社会を示すキー・ワードである。

(中略)

そのような時代状況のなかで,本書は,基本的には,マルクスの「資本主義」認識と,認識された「資本主義」範疇の基軸的な内容と特質を明らかにする,ということを中心的課題としたものである。

現実的世界において資本主義の歴史的限界があらためて問題になっているなかで,そもそもマルクスにおける「資本主義」範疇とはいかなるものであるかということを問題にしたのは,なによりも,危機的状況を示している現時点の資本主義のなかにあって,現実における危機的状況の規定的基礎を理解するためには,資本主義そのものの基軸的な規定的要因を明らかにして,資本主義的経済関係の構造的特質の基本的内容とその問題点を明確にすることが必要であるからである。

(中略)

ところで,本書においては,同時に,宇野弘蔵氏の理論を取り上げて,宇野氏の資本主義認識とその概念内容の基本的特質を,それと対照的なマルクスの資本主義認識と対比させながら明らかにして,そのことを通じて,そもそも「資本主義とはなにか」ということについて明示的に示そうとしている。

端的にいえば,マルクスの資本主義範疇の基軸的要因は,生産の近代社会に特有の歴史的形態たる「資本制生産様式」によって示されている。それにたいして,宇野弘蔵氏の資本主義範疇は,「労働力商品化」を基軸的要因とした「商品関係の全面化した社会」としてとらえられているものである。

このようなマルクスと宇野弘蔵氏との資本主義範疇についての基軸的要因の規定的性格の理解の違いは,資本主義的経済関係の理論体系についての理解と,そして,現実的事態の把握において,いかなる相違をもたらすことになるのかということ,このことが本書の主たる内容となっている。

ところで,資本主義的なものの基軸的要因の規定的性格と内容は,21世紀の現代資本主義における資本主義的労働強化をはじめとするさまざまな社会的・経済的な惨状をひきおこしている現実的状況をとらえる視角と,そのままつながるものである。そのように,資本主義範疇の基軸的要因の規定的性格が,現時点の現代資本主義における現実とどのように関連し,世界的危機とどのようにかかわるものであるのか,そして,そのことが資本主義の歴史的限界と将来的展望にいかなるかたちで結びつくものであるのか,具体的現実に照らしながら明らかにしていく必要があるところであろう。

本書においては,マルクスと宇野弘蔵氏との理論的対比によって,資本主義認識の方法とその概念内容の特徴を明らかにしようとしているところであるが,そのことによって,近代社会の社会体制をとらえるものとしての資本主義概念とその認識方法はより明確になるであろう。

なお,本書の内容理解の参考のために,それぞれの章のはじめに,そこでの議論のエッセンスを「梗概」として示しておいた。そのようなものとしての各章の「梗概」を拾い読みして,取り上げている基本的内容の概略に見当をつけ,そのうえで,本論の議論をフォローするのも,ひとつの読み方であろう。

マルクス理解についても,宇野理論の理解についても,本書のなかで示した見解にたいして,さまざまな意見があるであろう。率直な批判を期待するところである。

(中略)

顧みると,これまでほぼ半世紀にわたってマルクスにかかわってきたのは,ひとつには,それぞれの時点における現代資本主義の局面とそれにたいするマルクスの資本主義理論による把握をおこなう必要,もうひとつは,マルクスそのもののオリジナルにおける「資本主義」概念とその表現用語の明確化の必要を感じつづけてきたこと,この2つのことによるものであった。

この半世紀のあいだの,戦後の混乱から高度成長へ,国際通貨制度の変動相場制への転換とスタグフレーション,エレクトロニクス革命と IT 化による企業行動と産業構造の変化,バブル経済とその崩壊,企業の海外移転,多国籍企業化とその展開,新自由主義的規制緩和と非正規労働者の増大といった,資本主義世界と日本経済の有為転変は,解決をせまる新しい問題を突きつけつづけてきたところであって,それにたいするマルクスの理論による対応については,たえず気になりつづけたところであった。現時点での現局面の現代資本主義の歴史的位置づけとその基本的特徴については,本書の「終章」に触れているところである。

他方,マルクスの理論そのものについては,マルクス自身においても,それなりの不十分さや時代的制約性をもちながらも,「未知」から「知」にいたる認識のステップのなかでその研究成果を達成しているところであって,プロセスの途中での未熟で不十分な内容を明らかにすることによって,その後の研究によるあらたに達成された成果が明確化されることになるものである。そのようなものとして,マルクスの理論にかんするさまざまな視角からの論議についても,自説にひきよせた『資本論』の恣意的な解釈によることなく,オリジナルな原典にもとづく点検をおこなうことが必要であった。そのことは,たとえば,「資本主義」範疇を表現する用語としての「ブルジョア的生産(様式)」から「資本制生産(様式)」への転生の追究にみられるように,なんとか確定することができて,本書のなかで論じられたところもある。

それにしても,いずれにおいてもおのが力量と時間の不足を今更ながら感じているところである。

目次
  • 第1部 マルクスの資本主義認識
    • T 初期マルクス--疎外論的「市民社会」把握--
      • 1 初期3論文と「市民社会」
      • 2 『経済学・哲学草稿』と疎外論的社会把握
    • U 唯物史観の確立--疎外論から歴史的形態把握への転換--
      • 1 唯物史観へのステップ
      • 2 『ドイツ・イデオロギー』における唯物史観の確定
      • 3 “導きの糸”としての唯物史観の役割
      • 4 唯物史観の規定的内容
    • V 「ブルジョア的生産様式」--資本主義範疇の認識--
      • 1 「生産のブルジョア的形態」の確定
      • 2 確定された資本主義範疇
      • 3 近代社会の経済的諸関係の解明
    • W 「資本制生産様式」--資本主義範疇の厳密化--
      • 1 経済学理論体系の形成
      • 2 これまでのわたしの見解における問題点
      • 3 『経済学批判要綱』における資本主義範疇
      • 4 「資本にもとづく生産様式」から「資本制生産様式」への結晶化
      • 5 『1861-63年の経済学草稿』
    • X マルクスの資本主義範疇--『資本論』における商品形態と資本制生産--
      • 1 『資本論』の構成
      • 2 商品としての労働力の売買と資本制生産
      • 3 「資本制生産様式」の規定的内容
  • 第2部 宇野弘蔵氏の資本主義認識
    • T 宇野弘蔵氏の唯物史観理解
      • 1 唯物史観と経済学
      • 2 土台・上部構造論としての唯物史観
    • U 資本主義範疇の認識
      • 1 純粋化傾向にもとづく資本主義認識
      • 2 「資本主義」認識における認識論的悪循環
    • V 「原理論」的資本主義
      • 1 「原理論」基準による純粋化傾向
      • 2 商品経済関係の全面化した社会
      • 3 繰り返し的運動をおこなう「自立的運動体」
      • 4 純粋化傾向の「極点」
    • W 原理論の構築とその特質
      • 1 「資本主義の一般的原理」
      • 2 資本主義の歴史性
      • 3 宇野「原理論」の逆投影としての「純粋化傾向」
    • X 純粋化傾向の「逆転」
      • 1 金融資本の時代における純粋化傾向の「逆転」
      • 2 「不純の状態」としての金融資本の時代
      • 3 「逆転」から「鈍化」への修正
    • 終章 現代資本主義と資本主義範疇
      • 1 資本主義の発展についてのマルクスの見解
      • 2 宇野理論と現代資本主義
        • (1)資本主義消滅論--降旗節雄・関根友彦両氏の見解
        • (2)逆流する資本主義--伊藤誠氏の見解
      • 3 現代資本主義の現局面
著者
重田澄男(しげた・すみお)

1931年生まれ。
1954年,京都大学経済学部卒業。
静岡大学名誉教授・岐阜経済大学名誉教授。経済学博士。

著書
  • 『マルクス経済学方法論』(有斐閣,1975年)
  • 『資本主義の発見』(御茶の水書房,1983年)
  • 『資本主義と失業問題─相対的過剰人口論争』(御茶の水書房,1990年)
  • 『社会主義システムの挫折─東欧・ソ連崩壊の意味するもの』(大月書店,1994年)
  • 『資本主義とはなにか』(青木書店,1998年)
  • 『資本主義を見つけたのは誰か』(桜井書店,2002年)
  • 『マルクスの資本主義』(桜井書店,2006年)