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国際経済論   秋山誠一(國學院大学栃木短期大学教授)

国際経済論 表紙

ドル体制=アメリカの国際通貨国特権のもとで過度に外需に依存した特化型貿易構造を追求する日本経済の危うさと世界経済がその基底部で抱える諸問題を理論と現実の両面から分析する。

  • A5判/上製/228頁
  • ISBN978-4-905261-12-4
  • 本体3000円+税
  • 初刷:2013年4月25日

著者の言葉

日本は第2次大戦後、今日までインフレーション政策と輸出によって経済成長をとげてきた。この2つの限界が、2007/08年のサブプライムローン証券問題に端を発する世界経済危機によって明らかになりつつある。

アメリカの金融危機に始まる世界経済の景気後退は、世界の貿易を縮小させた。日本の輸出は、対米、対東アジア向けで急減し、輸出産業は大きな打撃を受けて、株価を下落させ、日本経済は、貿易面から大きな影響を受けて不況に陥り、派遣切りをまねき、大きな社会的混乱も起こった。日本の貿易収支は、2008年度には1980年度以来28年ぶりに赤字を計上することとなった。アメリカの景気動向はいまだ不安定であり、また対外純債務が増大しているなかで、これまでのようにアメリカへの輸出を梃子として景気を回復し、経済を維持することは難しくなっている。これは過度に外需に依存する日本経済の問題点が現れたといえよう。

日本は戦後特定部門の生産性を急速に上昇させることで、特化型貿易構造をつくりあげ、輸出主導型の経済成長をとげてきた。国際競争力強化の名のもとで、賃銀を抑制し、剰余価値率を高め、労働分配率を下げて、資本の強蓄積を進めてきた。他方で、生産性を上げてきたのではあるが、輸出部門に比べ生産性を上昇させることができなかった農業や繊維産業等は輸入圧力にさらされ、次つぎ貿易自由化されて衰退していった。これがさらに国内需要を縮小させ、このため日本経済は貿易自由化政策を実施することでますます輸出に依存する体質を強めてきた。集中豪雨的輸出といわれる、少数の産業部門と企業で、全輸出の大きな割合を占めている日本の輸出構造をつくりあげてきた。

他方で、財政赤字にもとづく国債の累積は、バブル崩壊以後の景気対策で膨れあがり、2012年度末には普通国債残高690兆円を超え、国債残高は812兆円に達して、もはやこれ以上放置できるものではなくなり、財政赤字が経済成長に対する制約要因となっている。時あたかもギリシャの財政危機でユーロが動揺し、財政赤字に対する世界の関心が高まっている。財政赤字にもとづく有効需要創出政策が限界になりつつあるといえる。アメリカにとっても同じ状況が生まれている。アメリカはドル体制のもとで、国際通貨国特権を使い、債務にもとづく過剰な消費を行い、輸入を増大させることで、結果として国際的なケインズ政策、スペンディング政策を遂行し、世界市場を拡大させてきた。その結果、大きな経常収支赤字と、巨額の対外純債務をまねいており、アメリカへの輸出にもとづく経済成長が限界になりつつある。

本書の課題は、第1に、このような日本の過度に外需に依存する特化型貿易構造を、国際価値論のツールを使って理論的に分析することである。そのなかで国民所得と労賃の国際間での大きな格差、国際競争力の基礎、各国の経済力の変化、直接投資・工程間分業の契機等、グローバル経済の最基底にあるものを考察する。いわばグローバル経済の理論を対象とする。

第2に、これを前提として、現実の経済問題を日・米・東アジアを中心に見ていく。日本の集中豪雨的な輸出にもとづく貿易摩擦と、それが円高を生むなかで、日本の製造業は、東アジアを中心として、直接投資を開始する。東アジア内で工程間分業を行いつつ、域内貿易を増大させたが、最終市場としては依然アメリカであった。ドル体制のもとでアメリカの結果としての国際的なケインズ政策に依存することの意味と問題を取り扱う。いわばグローバル経済の現実を対象とする。

目次

  • 第1章 金と価値規定:平均原理,限界原理,「優良」原理
  • 第2章 国際価値と金:国民的平均生産力および部門別生産性の対外格差
  • 第3章 国民所得と労賃の国際的格差:1970年から90年の日・米・英・西独・仏製造業を事例とし
  • 第4章 世界市場の拡大とドルの減価
  • 第5章 グローバリゼーションと1人当たりの国民所得の格差、賃銀格差
  • 第6章 ドル体制と日・米・東アジア貿易
  • 第7章 世界金融危機から世界経済危機へ:日本の産業構造と貿易構造の問題点

著者

秋山誠一(あきやま・せいいち)

國學院大学栃木短期大学日本文化学科教授、立教大学博士(経済学)
1954年,神奈川に生まれる
1977年,立教大学経済学部卒業
1986年,國學院大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学
1990年,國學院大学栃木短期大学商学科助教授
2001年,國學院大学栃木短期大学商学科教授を経て現職
専攻:国際経済論、貿易論

共著 編著
  • 秋山誠一・吉田真広編『ドル体制とグローバリゼーション』(駿河台出版社,2008年)