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増補改訂 総説 現代社会政策 成瀬龍夫著

増補改訂 総説 現代社会政策 表紙

社会政策の原理、歴史と現状、その存在意義と課題を、経済社会の変容を踏まえて総合的に論じた基本テキスト。各種統計と関連する記述を更新し、「長期雇用保障と正規労働市場の再確立」・「ワーク・ライフ・バランス」・「ベーシック・インカム」に関する論述を増補。

  • A5版/上製/236頁
  • ISBN978-4-905261-02-5
  • 本体2600円+税
  • 初刷:2011年4月20日

著者の言葉

本書の初版が刊行(2002年)されたから10年近くを経たが、21世紀に入ってから世界と日本の社会経済情勢は大きく変貌した。

残念ながら、20世紀末にあわせて国連、ILO等から21世紀の課題として提起された平和、環境、人権、貧困撲滅、雇用保障などは世界的にそれほど成果をあげていない。日本を見ると、勤労者の雇用不安と所得水準の低下、年金制度や医療制度の改革の遅れと老後不安の強まり、子育て問題の深刻化などが顕著となり、「貧困」という言葉がすっかり定着した感がある。

しかし、前世紀の80年代以降世界をリードしてきたグローバリズムや市場原理主義、規制緩和の路線は、各国の国民の生活に安定をもたらさず、弱肉強食の生存競争と格差、不平等を強めるものとして、さまざまな批判と見直しを招いている。

本書のテーマである社会政策の役割は、国際的にも国内でもますます重要になっている。とりわけ国民生活の不安を解消し質を向上させる社会政策の位置づけについて、経済政策との連携あるいは補完するものという従来型理解から脱し、さらに進んで経済政策を主導する位置にあるものとしなければならないことを強く感じている。

このたびの本書の改訂の内容についてふれておこう。

社会政策の原理をのべた第1章は手を加えていない。第2章は、日本が批准した ILO条約の一覧表を更新した。社会政策の歴史を概略した第3章は、最後に「21世紀と社会政策の新たな展開」という短い節を加えた。労働時間に関する第4章、賃金に関する第5章、労働市場に関する第6章、社会保障に関する第7章、少子高齢化社会に関する第8章、福祉国家を総括した第9章、21世紀の社会政策を展望する第10章などでは、統計的なデータをできるだけ近年のものに更新し、それにあわせて記述を訂正した。さらに、この間に社会政策のトピックスになっている「長期雇用保障と正規労働市場の再確立」「ワーク・ライフ・バランス」「ベーシック・インカム」について、関連する章で項目を加えた。

目次

  • 初版まえがき
  • 増補改訂版の刊行にあたって
  • 第1章 社会政策の原理
    • 第1節 社会政策とは
    • 第2節 市場の限界と社会政策
    • 第3節 社会政策の種類と対象領域
    • 第4節 経済政策と社会政策
  • 第2章 社会政策の公準
    • 第1節 憲法に規定された社会権
    • 第2節 ILOの国際労働基準
    • 第3節 ナショナル・ミニマムとソーシャル・オプティマム
    • 第4節 機会の平等と結果の平等
    • 第5節 ノーマライゼーション
  • 第3章 社会政策の歴史:初期立法から福祉国家体制まで
    • 第1節 初期資本主義の社会政策
    • 第2節 原生的労働関係と近代社会政策
    • 第3節 資本主義の独占段階と社会政策
    • 第4節 両大戦間期の社会政策
    • 第5節 戦後福祉国家体制の成立と動揺
    • 第6節 日本における社会政策の展開
    • 第7節 21世紀と社会政策の新たな展開
    • 第8節 社会政策の歴史的教訓
  • 第4章 労働時間と社会政策
    • 第1節 時間は人間発達の場
    • 第2節 労働時間の単位と法定労働時間
    • 第3節 労働時間の限度と時間短縮の要因
    • 第4節 世界と日本の労働時間の現状
    • 第5節 労働時間をめぐる近年の政策動向
    • 第6節 余暇生活とゆとり社会への転換
  • 第5章 賃金と社会政策
    • 第1節 最低賃金制度の意義
    • 第2節 最低賃金の設定方法
    • 第3節 最低賃金制度のあり方と課題
    • 第4節 賃金の男女平等原則の実現
  • 第6章 労働市場と社会政策
    • 第1節 労働力人口と労働市場
    • 第2節 雇用・失業対策の仕組みと変遷
    • 第3節 労働市場の変化と失業問題
    • 第4節 雇用・失業対策の新たな動向と課題
  • 第7章 社会保障の原理と制度
    • 第1節 社会保障制度の仕組み
    • 第2節 社会保険と公的扶助
    • 第3節 日本の社会保障の特質と現状
    • 第4節 社会保障と地方自治
    • 第5節 わが国の社会保障制度改革の動向
    • 第6節 社会保障の再構築
  • 第8章 少子・高齢社会と社会政策
    • 第1節 少子・高齢化のインパクト
    • 第2節 高齢社会と福祉政策の枠組み
    • 第3節 少子化の原因と対策
    • 第4節 高齢社会と国民負担の増大
  • 第9章 福祉国家と福祉社会
    • 第1節 福祉国家の意味したもの
    • 第2節 福祉国家の限界と見直し
    • 第3節 福祉社会と福祉多元主義
    • 第4節 中央・地方の政府間関係
  • 第10章 21世紀の社会政策
    • 第1節 持続可能な社会の構築
    • 第2節 グローバリズムとグローバル・ガバナンス
    • 第3節 21世紀社会政策のグローバルな課題
    • 第4節 持続可能な社会の構築と社会政策
  • 参考文献
  • 事項索引

著者

成瀬龍夫(なるせ・たつお)

1944年,中国(旧満州国)生まれる
1973年,京都大学大学院経済学研究科博士課程単位取得
1973年,京都府立大学女子短期大学部講師。1975年,同助教授
1981年,滋賀大学経済学部助教授。1989年,同教授
2004年,滋賀大学学長
2010年,同名誉教授
学位,京都大学経済学博士
専攻,財政学・社会政策論

著書
  • 『家族の経済学』(共著)(青木書店,1985年)
  • 『生活様式の経済理論』(御茶の水書房,1988年)
  • 『福祉改革と福祉補助金』(共著)(ミネルヴァ書房,1989年)
  • 『日本型企業社会の構造』(共著)(労働旬報社,1992年)
  • 『くらしの公共性と地方自治』(自治体研究社,1994年)
  • 『人間発達の政治経済学』(共著)(青木書店,1994年)
  • 『国民負担のはなし』(自治体研究社,2001年)
  • 『人間発達と公共性の経済学』(共著)(桜井書店,2005年)
  • ほか
翻訳
  • 『労働と管理』(共訳)(啓文社,1990年)
  • 『働きすぎのアメリカ人』(共訳)(窓社,1993年)
  • 『浪費しすぎのアメリカ人』(共訳)(岩波書店,2000年)
  • 『窒息するオフィス』(共訳)(岩波書店,2003年)