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現代世界経済と日本 岩田勝雄著

現代世界経済と日本 表紙

グローバル化と地域主義の台頭
人口の急増と食糧・資源問題の深刻化
富の偏在と格差拡大
そして地球温暖化・環境危機

今世紀の世界はどこへ向かっているのか?

現代世界経済を鳥瞰して問題群を摘出し、課題を探求する

  • 四六判/上製/240頁
  • ISBN978-4-921190-52-1
  • 本体2600円+税
  • 初刷:2008年9月10日

著者の言葉

20世紀の世界経済は激動の連続であった。20世紀は、2度の世界戦争と絶え間ない地域間・局地戦争、発展途上国の植民地支配・再編と独立、アメリカ覇権システムの確立、1929年恐慌と1974-75年恐慌の勃発、巨大企業の誕生、経済統合の進展、「社会主義」社会の成立と崩壊、人口の爆発的増大、労働運動の発展と停滞、環境汚染・地球温暖化などの諸現象が生じた。20世紀はこれまで資本主義が経験したことのない多大な経済変動があった。

経済学の歴史は、ジェームス・スチュアート、アダム・スミスの古典派経済学を祖とするならばたかだか250年にも満たない。経済学は資本主義の生産力拡大とともに理論・政策が発展し、さらに体系的に提示されるようになった。しかし経済学は理論・政策が精緻化されるとともに、他方で現実に適用・応用されない記号化あるいは空想化した理論が横行するようにもなった。経済学はいうまでもなく「人間の幸福」を求める社会科学である。「人間の幸福」とは、戦争・恐慌がなく、貧困や失業がなく、さらに病気・老後などの不安がなく、犯罪もない安定した社会を基盤として成り立つのである。こうした社会は政治の安定だけでなく、安心・安全な生活を営むことができ、一定の経済発展を前提とした社会である。資本主義社会は大量生産、大量消費にもとづく経済発展こそ「人々の幸福への道」として歩んできた。それが科学技術の発展、情報・通信手段の発展、交通・運輸の拡大などをもたらした。したがって経済発展は、大量生産、大量消費、大量廃棄を求める経済社会を形成してきたのであった。 20世紀の歴史は、経済発展の結果、資本主義の優位性を確立したが、同時に戦争の継続などの種々な問題を生み出し、「人間の幸福」とはほど遠い状況をもたらしたのである。

本書のテーマは「現代世界経済と日本」であるが、基本となる考え方は大量生産・大量消費・大量廃棄および生産力増大主義への批判である。私の主張は生産力の発展よりも分配の公平化の推進であり人口規模の適正化である。分配の公平化とはいわゆる「格差社会の否定」であり、今日の先進国の所得水準の維持は生産力発展によらなくても現在の生産力水準で十分可能である。また「人口規模の適正化」とは、端的にいえば現在の地球人口を大幅に減らすことである。大胆に提起すれば現在の地球人口の半減化が望ましいと考える。もちろん人口削減は短期間で遂行できるものではない。おそらく100年ないし200年単位で実現すべき課題になるであろう。そのためには世界経済のシステムを転換しなければならないし、現在のドルを中心としたアメリカ覇権システムの転換が必要であり、多国籍企業を中心とした国際分業・貿易システムの転換・行動規制を行うことが必要である。

従来の経済学は、資本主義システムの維持・拡大、あるいは資本主義システムそれ自体の否定などを基軸とした供給サイドか需要サイドからの理論体系・政策体系であり、いずれも生産力発展の増大を基軸に据えていた。こうした経済学の枠組みが、20世紀の経済社会を形成してきたのであった。したがって生産力発展、経済成長批判を基軸に据えるとすれば、従来の経済学体系とは異なった理論体系の構築が求められるのである。その追究は経済学研究者としての当然の責務であるが、現在の私の力量では不可能に近い。そこで私の主たる研究テーマである現代世界経済と日本の対外関係を通じて課題に迫れれば、とまとめたのが本書である。

目次

  • 目次
  • まえがき
  • 第1章 20世紀の世界経済と21世紀の課題
    • 1-1 アメリカ「覇権」システムの展開とグローバル化
    • 1-2 多国籍企業によるグローバル化の進展
    • 1-3 20世紀国際関係の諸特徴
      • 1-3-1 国際関係の拡大
      • 1-3-2 発展途上国問題
      • 1-3-3 諸国間の生産力格差および所得拡大
      • 1-3-4 恐慌の深刻化
      • 1-3-5 エネルギー・資源・食糧危機
      • 1-3-6 「社会主義」社会の誕生と瓦解
      • 1-3-7 国際通貨・貿易システムの動揺
      • 1-3-8 巨大企業・多国籍企業の活動
      • 1-3-9 科学技術の発展
      • 1-3-10 移民の拡大・人口の急速な増大
      • 1-3-11 交通・運輸,通信・情報手段の発展
      • 1-3-12 環境問題の悪化
      • 1-3-13 民族・宗教・地域間対立および戦争の継続
    • 1-4 20世紀世界と21世紀の課題
  • 第2章WTOと地域主義の進展
    • 2-1 WTO発足の意義
    • 2-2 WTOの新しいシステム
    • 2-3 WTOの展開と地域主義の台頭
  • 第3章 アメリカ経済の光と影
    • 3-1 アメリカ経済成長の軌跡
    • 3-2 1980年代のアメリカの対外政策
    • 3-3 経済成長の要因と影
    • 3-4 対外政策の転換と金融システムの転換
    • 3-5 アメリカの石油戦略と資源政策
      • 3-5-1 石油と戦争
      • 3-5-2 アメリカの石油戦略
  • 第4章 国際通貨システム改革
    • 4-1 国際通貨問題の現況
    • 4-2 ドル・国際通貨体制の変遷
    • 4-3 石油ショックとドルの弱体化
    • 4-4 国際通貨改革への道
  • 第5章 EU統合の進展
    • 5-1 EU改革条約の制定
    • 5-2 拡大EUの誕生
    • 5-3 EU統合の推進
    • 5-4 EUの共通政策の特徴
    • 5-5 EU統合の主体と今後の課題
  • 第6章 発展途上国の経済成長と政策課題
    • 6-1 発展途上国の開発
    • 6-2 発展途上国の「自立化」過程と政権の性格
    • 6-3 発展途上国問題の現況
    • 6-4 韓国の経済発展の軌跡:発展途上国からの離脱
    • 6-5 発展途上国問題の展開
  • 第7章 中国の経済発展と国際関係   
    • 7-1 WTOシステムと中国市場
    • 7-2 外資導入と経済成長
    • 7-3 開放政策の展開
    • 7-4 人民元の「切り上げ」とその経済的効果
    • 7-5 経済的諸課題の克服
  • 第8章 21世紀の日本の対外関係
    • 8-1 日本の対外関係の展開
    • 8-2 日本の対外関係の構造
      • 8-2-1 日本貿易の特徴
      • 8-2-2 貿易構造の転換
      • 8-2-3 新たな国際化の展開:海外生産の増大
    • 8-3 WTO体制下での外国貿易構造
    • 8-4 直接投資の拡大と経済圏形成
      • 8-4-1 直接投資の現状
      • 8-4-2 海外生産の目的
      • 8-4-3 海外生産の今後の動向
      • 8-4-4 日本企業の多国籍企業化と技術移転
    • 8-5 労働力移動の現状
    • 8-6 ODAの方向性
    • 8-7 世界経済における日本の位置
  • 第9章 東アジア経済共同体と日本の対外政策
    • 9-1 貿易の拡大と東アジア経済関係
    • 9-2 東アジア共同体への対応
    • 9-3 東アジア経済共同体の可能性

著者

岩田勝雄(いわた・かつお)

立命館大学経済学部教授

主要著書
  • 『増補・国際経済の基礎理論』(法律文化社,1994年)
  • 『反成長政策への転換』(新評論,1998年)
  • 『現代国際経済の構造:覇権への挑戦』(新評論,2002年)
  • 『現代国際経済分析論』(晃洋書房,2006年)
  • 『21世紀の国際経済』((編著)新評論,1997年)
  • 『グローバル時代の貿易と投資』((共編著)桜井書店,2003年)
  • 『全球化与中国的経済政策』((共編著)中国人民大学出版社,2006年)