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総説 現代社会政策  成瀬龍夫著
総説 現代社会政策

-社会政策の過去と現状、そしてこれから-

少子・高齢化など経済社会の変容、市場優先・規制緩和への政策転換
いま社会政策の存在意義は?政策効果は? 

A5判/上製/232頁
ISBN4-921190-19-4
本体2600円+税
発行
初刷:2002年10月3日
第2刷:2005年3月15日
第3刷:2006年3月20日
第4刷:2007年3月30日
絶版:増補改訂版2011年4月刊行

著者の言葉

1980年代以降、社会政策の諸分野ではそれ以前とはいちじるしく性格の異なる改革が進められてきた。社会政策の変貌を目にして、その存在意義と政策効果をあらためて再評価する必要性を強く感じたことが、本書の執筆の動機である。

社会政策の変貌の背景には、一方で少子・高齢化社会の進展、高度情報化、グローバリゼーションといった社会経済構造の変化があるが、他方でソ連・東欧圏の社会主義体制が崩壊し、「福祉国家」体制の見直しが進められるようになったこと、それにともなって国家政策全般において市場原理主義と規制緩和の強まりという政治・政策パラダイムの転換が推進されてきたことがあげられる。

社会政策は、元来、市場経済の限界や市場経済が生み出す弊害から、労働者を保護し、国民生活のリスクを社会的に軽減、防止する目的で発達してきたので、1980年代以降の市場原理主義と規制緩和への政策パラダイムの転換は、社会政策の歴史的な後退、変質という印象さえ与えてきた。しかし、市場原理主義と規制緩和は、従来の社会政策の原理や公準に取って代われるほどの政策効果をあげているかといえば、必ずしもそうとは思われない。むしろ、これまで社会政策によって規制を受けていた市場経済の限界と弊害を増幅し、労働者保護や国民の生活リスク防止を弱体化させている側面がはるかに強いといわざるをえない。現在は、21世紀に入って間もない時期であり、社会政策の過去と現状、そして将来を展望するのに良い時期である。本書における社会政策の再評価も、政策の過去と現状にとどまらず、21世紀の課題を見据えて論じている。

2002年9月:成瀬龍夫

目次
  • まえがき
  • 第1章 社会政策の原理
    • 第1節 社会政策とは
    • 第2節 市場の限界と社会政策
    • 第3節 社会政策の種類と対象領域
    • 第4節 経済政策と社会政策
  • 第2章 社会政策の公準
    • 第1節 憲法に規定された社会権
    • 第2節 ILOの国際労働基準
    • 第3節 ナショナル・ミニマムとソーシャル・オプティマム
    • 第4節 機会の平等と結果の平等
    • 第5節 ノーマライゼーション
  • 第3章 社会政策の歴史 -初期立法から福祉国家体制まで-
    • 第1節 初期資本主義の社会政策
    • 第2節 原生的労働関係と近代社会政策
    • 第3節 資本主義の独占段階と社会政策
    • 第4節 両大戦間期の社会政策
    • 第5節 戦後福祉国家体制の成立と動揺
    • 第6節 日本における社会政策の展開
    • 第7節 社会政策の歴史的教訓
  • 第4章 労働時間と社会政策
    • 第1節 時間は人間発達の場
    • 第2節 労働時間の単位と法定労働時間
    • 第3節 労働時間の限度と時間短縮の要因
    • 第4節 世界と日本の労働時間の現状
    • 第5節 労働時間をめぐる近年の政策動向
    • 第6節 余暇生活とゆとり社会への転換
  • 第5章 賃金と社会政策
    • 第1節 最低賃金制度の意義
    • 第2節 最低賃金の設定方法
    • 第3節 最低賃金制度のあり方と課題
    • 第4節 賃金の男女平等原則の実現
  • 第6章 労働市場と社会政策
    • 第1節 労働力人口と労働市場
    • 第2節 雇用・失業対策の仕組みと変遷
    • 第3節 労働市場の変化と失業問題
    • 第4節 雇用・失業対策の新たな動向と課題
  • 第7章 社会保障の原理と制度
    • 第1節 社会保障制度の仕組み
    • 第2節 社会保険と公的扶助
    • 第3節 日本の社会保障の特質と現状
    • 第4節 社会保障と地方自治
    • 第5節 わが国の社会保障制度改革の動向
    • 第6節 社会保障の再構築
  • 第8章 少子・高齢社会と社会政策
    • 第1節 少子・高齢化のインパクト
    • 第2節 高齢社会と福祉政策の枠組み
    • 第3節 少子化の原因と対策
    • 第4節 高齢社会と国民負担の増大
  • 第9章 福祉国家と福祉社会
    • 第1節 福祉国家の意味したもの
    • 第2節 福祉国家の限界と見直し
    • 第3節 福祉社会と福祉多元主義
    • 第4節 中央・地方の政府間関係
  • 第10章 21世紀の社会政策
    • 第1節 持続可能な社会の構築
    • 第2節 社会政策のグローバル・ガバナンス
    • 第3節 21世紀社会政策のグローバルな課題
    • 第4節 持続可能な社会の構築と社会政策
  • 参考文献
  • 事項索引
著者
成瀬龍夫(なるせ・たつお)

1944年,中国(旧満州国)生まれる
1973年,京都大学大学院経済学研究科博士課程単位取得
1973年,京都府立大学女子短期大学部講師。1975年,同助教授
1981年,滋賀大学経済学部助教授。1989年,同教授
2004年,滋賀大学学長
2010年,同名誉教授
学位,京都大学経済学博士
専攻,財政学・社会政策論

著書
  • 『家族の経済学』(共著)(青木書店,1985年)
  • 『生活様式の経済理論』(御茶の水書房,1988年)
  • 『福祉改革と福祉補助金』(共著)(ミネルヴァ書房,1989年)
  • 『日本型企業社会の構造』(共著)(労働旬報社,1992年)
  • 『くらしの公共性と地方自治』(自治体研究社,1994年)
  • 『人間発達の政治経済学』(共著)(青木書店,1994年)
  • 『国民負担のはなし』(自治体研究社,2001年)
  • 『人間発達と公共性の経済学』(共著)(桜井書店,2005年)
  • ほか
翻訳
  • 『労働と管理』(共訳)(啓文社,1990年)
  • 『働きすぎのアメリカ人』(共訳)(窓社,1993年)
  • 『浪費しすぎのアメリカ人』(共訳)(岩波書店,2000年)
  • 『窒息するオフィス』(共訳)(岩波書店,2003年)