本号は、2020年度の経済理論学会第68回大会の特集号である。当初、第68回大会は北星学園大学において開催の予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、オンラインによる開催に変更された。パンデミックという困難な状況下においても、大会が中止されることなく、新しい形で成功裏に開催することができたのは、関係する多くの方々のご尽力のたまものである。報告者、司会者、大会主催者、学会幹事および代表幹事の方々には、この場を借りて心より御礼申し上げたい。
第68回大会の共通論題は「少子化と現代資本主義」であった。現代資本主義の下で進行する少子化が、体制の存続を危うくしているという問題意識のもと、実証的および理論的な報告が行われ、白熱した議論が展開された。考えてみれば、人口減少は、資本蓄積を制約する重大な要因である。ところが、過去の大会の共通論題をみると、少子化や人口規模を取り上げた大会はない。そこには、マルクス蓄積論の問題関心が関係しているのではないか。もともとマルクスの資本主義的人口法則論は、資本蓄積との関係で相対的過剰人口を重視する理論構成をとり、絶対的な人口の変化は与件とする傾向があった。従来は理論的に取り扱われてこなかった人口規模の問題が、現実の生活の中で深刻な危機をもたらすようになり、理論的焦点として浮上しているのである。
2021年度の第69回大会は、対面を基本としつつ、オンラインでも参加可能とするハイブリッドな形態での開催が予定されている。その共通論題は、「コロナ禍と現代資本主義」である。現在、コロナ・パンデミックは、人々の生活に大きな困難をもたらしながら、社会のあり方を大きく変容させつつある。それは資本主義そのものに起因する問題とはいえないかもしれない。とはいえ、それは人間と自然の物質代謝のなかで行われる生命の再生産に深くかかわり、そのことによって社会的再生産に大きな影響を及ぼす問題となっている。共通論題には各時代の問題意識が現れるが、第68回大会と第69回大会の共通論題をみると、生命の再生産との関係のなかで資本主義に現れる困難が、時代の問題として強く意識されるようになっている。それを受け、経済理論の焦点も変化していく可能性がある。
(宮澤和敏)