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日経連 もうひとつの戦後史

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日経連 もうひとつの戦後史

四六判/上製/296頁

ISBN4-921190-33-X

著者

ジョン・クランプ(John Crump)
スターリング大学教授でイギリスを代表する日本研究者の一人。惜しくも2005年3月逝去。本書のほかに日本での翻訳書に『八太舟三と日本のアナキズム』(碧川多衣子訳、青木書店、1996年)がある。

訳者

渡辺雅男(わたなべ・まさお)
一橋大学社会学研究科教授・社会学博士
著書
『階級! 社会認識の概念装置』彩流社、2004年ほか
訳書
エスピン-アンデルセン『ポスト工業経済の社会的基礎』(渡辺景子との共著)桜井書 店、2000年
エスピン-アンデルセン『福祉国家の可能性』(渡辺景子との共著)桜井書店、2001年   
J-C・ドロネ&J・ギャド『サービス経済学説史』桜井書店、2000年
J. ロゼンバーグ『市民社会の帝国──近代世界システムの解明』桜井書店、2008年 ほか

洪 哉信(ホン・ゼシン)
延世大学社会学科卒業
韓国外国語大学国際地域大学院日本学科卒業
現在:一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在学


本体2800円+税


発行

初刷:2006.1.20

《階級闘争》が激しくたたかわれていた時代

日経連は資本の前衛だった!

 

「闘う日経連」の異名をとった労働対策専門の使用者団体

の足跡をたどり、財界・階級・労働組合、そして戦後日本

資本主義の特質を浮き彫りにする、異色の日本研究。

著者の言葉

 本書の大部分は日経連についての実証研究である。それにもかかわらず、これらの諸章は資本主義一般と日本資本主義の本質をつかむために欠かせない問題群を浮かび上がらせている。これには、社会階級の本質や労働組合の役割などの問題が含まれている。

ジョン・クランプ

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者の言葉

本書はJohn Crump, Nikkeiren and Japanese Capitalism, RoutledgeCurzon, 2003の全訳である。

著者であるジョン・クランプはヨーク大学とスターリング大学で政治学の教鞭をとり、The Origins of Socialist Thought in Japan, Croom Helem, 1983や Hatta Shuzo and Pure Anarchism in Interwar Japan, Macmillan, 1993  (碧川多衣子訳『八太周三と日本のアナキズム』青木書店、1996年)、Adam Buickとの共著 State Capitalism : The Wages System under New Management, Macmillan, 1986、 Maximilien Rubelとの共編で Non-Market Socialism in The Nineteenth and Twenties Centuries, Macmillan, 1987 などの著書を残している。本書は、2005年3月に惜しまれながらこの世を去った著者の遺作である。

本書は日経連についての最初の通史的研究である。しかし、本書は、戦後日本資本主義の展開に照らして日経連の活動をたどっていくことで、一使用者団体の通史にとどまらず、財界研究や階級論、現代日本資本主義の性格の解明にかかわる多くの示唆を読者に与えてくれている。ここでは各章についての紹介は省略し、本書の示唆するところを中心にその特徴を述べておきたい。

本書の第一の特徴は、新しい財界研究としての側面である。

 これまでの財界研究は、そもそも財界の定義が定まっていないため、研究対象も財閥や大企業の首脳を中心とする経済的なパワーエリートであったり、業種別・地方別経済団体を統合する総合経済団体などであったりと、一様ではなかった。だが、近年の研究には少数の実力者の活動の場というよりは、組織や機構として財界にアプローチする傾向がみられる。研究の焦点もインフォーマルなネットワークを通じた影響力の行使よりは、公式意見書の発表や各審議会・調査会・懇談会への参加など、圧力団体としての活動に移行している。それにともない、研究方法もイッシュー分析が主流をなしており、政策形成や法の制定や改廃における自己利益の実現が、財界の力、つまり影響力を測定する尺度となっている。経団連や日経連、経済同友会の意見対立が浮き彫りにされたり、財界を一枚岩として捉える立場に対する批判が登場したりしているのも、そのためである。

本書は研究対象や焦点において近年の財界研究の特徴を共有しているといえる。著者は、櫻田武や鹿内信隆など日経連を率いた人物に注目しながらも、日経連という組織の活動に焦点を当てつつ、そのなかでもロビー活動を重点的に取り上げている。にもかかわらず、本書の目的は財界あるいは財界団体の影響力の測定ではない。著者がめざしたのは、個々の政策における利益実現の過程の分析ではなく、日本経済の浮き沈みにともない影響力の拡大や縮小を繰り返しながら日経連が果たしてきた役割の解明である。

この点において、本書はこれまでの財界研究とは異なる側面を明らかにする。それが第二の特徴、階級論としての側面である。

本書は、日本における資本家階級の実在とそのイデオロギーに同時に迫っている。まず、著者は、日経連のロビー活動が政府や世論だけではなく、使用者一般に向けられていたことを指摘している。日経連は、個別企業の利害関係を超える使用者としての集団的な利害関係を自覚し力を結集するよう、各企業の使用者に訴えかけていた。その結果、日本の使用者たちは、売上げを伸ばすチャンスを放棄してまで、争議に巻き込まれたライバル会社の操業維持に協力した。このような使用者側の団結により、日産争議や三井・三池争議は「総労働対総資本」の戦場と化したのである。

本書は、日本に階級は存在しないという日経連のイデオロギーに対しても真正面から反論している。「階級なき社会」論を支える論拠として動員されてきた、相対的に少ない所得格差や組合幹部出身役員の比率の高さなどの主張に対して、著者は「重要なのは、誰が会社役員になるかではなく、彼らが何をするかである」と強調する。著者は、日経連が経営者と称した人たちが、彼らの出自にもかかわらず、生産手段をコントロールすることで利潤を創出し資本蓄積を遂行する役割を担ってきたことを指摘している。階級を機能的に捉えることによって、日経連が描く「階級なき社会」の虚像を暴いているのである。

しかし、本書は、日本の資本家階級(日経連自らの歴史がその存在を物語っている)の発見にとどまらず、現代日本資本主義そのものの性格を明らかにすることを目的としている。それが本書の第三の側面、つまり現代日本資本主義論としての側面である。

著者は、日経連のいう日本型資本主義は存在しないと主張し、日本資本主義の特殊性に対しては否定的である。資本主義が労働者から剰余価値を引き出し、資本の蓄積を推し進める過程だけではなく、労働者を社会や国家のシステムに統合する過程をも含むものであるとしたら、各社会の特殊性はその統合の軸になる。つまり資本主義に普遍的に存在するメカニズムを支えるものとして特殊性が動員されるのである。日経連が人間尊重を謳った「第三の道」などを掲げ、日本型資本主義を主張してきたのも、その一環とみることができる。著者は、日経連が日本型資本主義を強調することが、逆説的に、現代日本資本主義の特殊性の否定を意味すると指摘する。いわゆる日本型資本主義とは、日本における資本主義の展開をさすものであり、特殊性を掲げて統合を試みる点で、ほかの社会における資本主義と区別されるどころか、普遍性を帯びているというのが著者の主張である。

 本書は、また、現代日本資本主義をめぐるこれまでの解釈に対する反論としての性格ももっている。著者は、これまで海外での日本研究がややもすれば日本資本主義の成功あるいは失敗の原因の解明に走るあまり、労働者の不安や苦痛には目をつぶってきたと批判する。本書は、日経連の活動の分析をとおして、日本の労働者が他の地域の労働者同様、強制や操作、すり替えにさらされていることを明らかにすることで、いわゆる成功と失敗の狭間に埋もれていた生身の人間の苦しみに光をあてている。この点において、本書は、労働組合の役割など議論を呼ぶ内容が含まれているにもかかわらず、海外での日本資本主義論に対する視角の転換を迫る研究としての意義をもっているといえる。

訳者を代表して 洪 哉信

                  

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目 次

まえがきにかえて 渡辺雅男

 

第1章 日本資本主義の本質――理解と現実

第2章 1945年の日本のボスたち――打撃は受けたが打倒はされなかった

第3章  いまや、われわれはみんな勤労者――イデオロギーと組織の防衛(1945〜47年)

第4章 反撃――労働者に誰がボスなのかを教えてやれ(1948〜60年)

第5章  アクセルとブレーキを同時に踏み込む
     ――高度成長と賃上げ抑制の試み(1961〜73年)

第6章 機会をつかむ――オイル・ショックをボスたちの利益に(1974〜80年)

第7章 確信にあふれて――特殊な存在としての日本(1981〜91年)

第8章  景気後退とその結果――労働運動の停滞と日経連の消滅(1992〜2002年)

第9章 結論――日経連と日本資本主義

文献表

訳者あとがき 洪 哉信

 

事項索引
人名索引

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