主として〈数学的〉方法に依って研究を進める者と,主として〈実証的〉方法に依って研究を進める者。もちろん両者が截然と分離していると断ずるわけではない。ここに収められた4編の特集論文は理論/理論史専攻者に執筆されてはいるが,数理的/理論的分析と実証分析を架橋するような実りある議論が今後さらに展開されるようになれば,という思いから今回の特集が企画された。
経済学が採用すべき〈方法〉は分析対象とする経済現象あるいは分析目的に依存して決定される。〈数学的〉方法,〈実証的〉方法あるいは〈歴史的〉方法。因果関係という観点から現象を見ると,AがBを規定し,BがCを規定し,……,というように単線的構造になっている場合がある。単線構造であれば,Aを初発の原因と定め,BからCへと順をおって,叙述的に因果関係を追求できるだろう。ところが,レオンティエフ体系での単位労働価値決定の問題に見られるように,多くの場合は規定関係が複線的構造になっている。生産技術条件が与えられていても,特殊な生産構造でない限り,第1財の価値が決定され,次に第2財,次いで第3財, ……,というように,順序よく財の単位労働価値を求められない。因果の順序を追えないのである。ここに連立方程式という〈数学的〉形式を要請する根拠がある。そして経済量が時間の経過のなかで変化していく変動過程(成長・循環)の分析には,微分方程式,差分方程式という〈数学的〉方法が採られてきた。
経済現象の〈量〉的側面を分析していくためには,数学は不可欠な要素である。しかし政治経済学が強く主張してきたように量的連関の分析に終始するのではなく,さまざまな経済量の量的関係を成り立たせている制度的前提あるいは量的運動の制度依存性も分析されねばならない。制度の分析・構造変化の分析・〈質〉の分析も不可欠であり,そしてその方法が問われる。例えば,進化的方法が採用されるべきなのか,それとも,……。
経済現象にあらわれる諸変数が数量化されることが数学的方法援用の大前提であるが,それが十全に満たされているとは必ずしも言えない。例えば,現実の経済量が連続的に変化することはほとんどなく,通常は一個,二個というように離散量でしかないが,数学的形式に沿って連続量と想定されてしまう。同時決定の体系で現実世界を模写できるとしても,現存する商品の数,労働の異質性,多様な生産技術等々を斟酌すれば,体系の次元はきわめて大きくなり,じっさいの計算は不可能になってしまうという計算量の問題もある。
論理の始点にAが選びとられるためには,現象の〈実証的〉分析が不可欠だろう。さまざまな出来事は連続的に流れる時間軸に沿って生起している。資本制経済という〈大文字の制度〉も○○年△△月□□日の午前0時から始まったというように初期点が確定できるわけでもない。微分方程式で運動を記述するためには初期条件が与えられねばならない。歴史的事実からの抽象,概念化という操作がなければならない。はたして,(政治)経済学において〈数学的〉方法,〈実証的〉方法,〈概念的〉方法はどのような姿をとるべきなのだろうか。(以下略)
(佐藤良一)