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季刊・経済理論 第59巻第3号(2022年10月)特集◎21世紀日本の構造変化
季刊・経済理論第59巻第3号

経済理論学会編

B5判/並製/114頁
ISBN978-4-905261-59-9
本体2000円+税
発行
2022年10月20日

目次

[特集◎21世紀日本の構造変化]

  • 特集にあたって  森本壮亮
  • 日本と世界の構造変化と日本産業・経済の衰退  村上研一
  • 日本型雇用解体過程の非正規雇用・半失業:21世紀日本の就業の特徴  伍賀一道
  • 新日銀法施行後の金融政策と財政構造の変化  建部正義
  • 21世紀日本の地域経済構造の変容  岡田知弘

[論文]

  • マルクス『資本論』における交替制と労働時間短縮闘争:日本における過労死の告発から考える  萩田翔太郎
  • 流通過程の不確定性と資本の部門間競争  川ア兼人
  • J. R. コモンズの適正価格論と適正価値論  宇仁宏幸

[書評]

  • 福田泰雄著『格差社会の謎:持続可能な社会への道しるべ』  森原康仁
  • 十名直喜著『サステナビリティの経営哲学:渋沢栄一に学ぶ』  中谷武雄

[書評へのリプライ]

  • 『マルクス経済学 第3版』に対する橋本貴彦氏の書評へのリプライ  大西 広
  • 『東アジア労働市場の制度改革とフレキシキュリティ』に対する李晨氏の書評へのリプライ  厳 成男

論文の要約(英文)

『季刊 経済理論』への投稿の呼びかけ  第59巻編集委員会

刊行趣意・投稿規程

編集後記  吉田博之

特集にあたって

日本経済は、時代によってその姿を変えてきた。戦前の日本経済は「軍事的半農奴的」性格を有し、帝国主義に転化していったともいわれる(山田盛太郎『日本資本主義分析』)。戦後はまずGHQによる「経済の民主化」とともに復興が進められた。そして旺盛な企業活動と国内需要によって支えられた高度成長期に、いわゆる「戦後の日本経済」が形成された。その特徴として一般的に、国家による企業への統制や規制、企業集団や系列システムに象徴される安定的な企業間取引関係に基づいた日本型企業システム、終身雇用・年功賃金・企業別組合としてまとめられる日本型雇用システム、「夫が働き妻は専業主婦」をモデルとして国民皆保険と国民皆年金に企業福祉が乗っかった「一億総中流」などが挙げられる。もちろんこれらに加われなかった企業や家計は多かったし、むしろその方が主流だったという話もある。しかし、多くの人がこれらの特徴を持った経済に生きているという共通認識を持っていた。

しかし、バブル崩壊と東西冷戦終結後の1990年代以降の経済の低迷とグローバル化の中で、国家による統制やケインズ政策の限界が露呈するとともに、低迷の中での成長を求めて、より資本に都合の良いシステムへと「構造改革」が指向されるようになった。この中で資本もまた改革を迫られ、都市銀行は再編されて企業集団や系列システムの解体が進み、安定的な企業間取引関係は崩れていった。これに歩を合わせるように、労働や生活の部面においても、非正規雇用やフリーランスが急速に拡大されて日本型雇用システムは崩壊し、平均賃金が低下していっただけでなく「一億総中流」も過去のものとなった。金融面では、従来は考えられなかったゼロ金利という状態が1999年以降「通常」となり、2013年からは「大胆な金融政策」という名で事実上の財政ファイナンスが行なわれるとともにバブルがつくり出されるのが常態化している。このような中、企業の本社が集中する東京への人口と富の一極集中が加速し、それ以外の地域経済は人口も産業も減衰し疲弊していく構図となっている。このように、この間の日本は,経済を起点とした地殻変動に直面している。

この状況を鑑みると、21世紀の日本経済は従来とは異なる新たな段階に入ったことは間違いない。1990年代までの日本には多少なりとも確実に存在していた「戦後の日本経済」は、今やもうその時代を生きたことのある人々の追憶の中にしか存在しない。そして、21世紀に入ってから生まれた現在の大学生以下の世代は、「戦後の日本経済」をもう知らない。

いつ「戦後の日本経済」が終わったのかは、難しい問題である。経済が成長していたこと、人々の暮らしが豊かになっていったことを「戦後の日本経済」の特徴とするならば、GDPと平均年収が低下し始めた1997年が転換点だったともいえる。以来「戦後の日本経済」は明白に崩れていき、新しい「21世紀日本」へと姿を変えていったといえる。我々は、この構造変化をどのように捉えるべきだろうか?

そして2020年初頭にコロナウィルスが襲来し、“stay home” が叫ばれ、労働も含めてあらゆるもののオンライン化が進み、日本経済は現在さらに大きく姿を変えようとしている。アフターコロナ、もしくはウィズコロナの2020年代の日本は、一体どのような姿に変わっていくのだろうか?

本企画をはじめに考えたのは、今から10年ほど前のことである。ただ、このように特集企画担当となる機会はなかなかなく、企画が実現するまで約10年もの歳月を要してしまった。この間にも日本経済は着実に変化し、新たに追究すべき課題も多く生まれている。特に、上述のようなコロナウィルスの影響による経済の変化は、2008年のリーマンショックを上回る規模で進行中である。その意味では「10年遅い」という批判も当然あるだろう。しかし筆者(森本)は、この10年に進行したドラスティックな変化は、90年代末からの変化の延長上のものであると考えており、「21世紀日本の構造変化」として一括して考察した方が、理論的に意義あるように思われるのである。

(中略)

  かつて本学会では、日本資本主義の構造とその変化について活発な議論が展開されていた。しかし、近年そのような議論は下火になりつつあるように感じられる。国際経済や農業についてなど、紙幅の関係もあり本特集で扱いきれなかったテーマも多い。経済・社会において大きな地殻変動が進み、新しい「21世紀日本」がその姿を現してきている今、本特集をきっかけとして、本学会において再度活発な議論がわき起こることを期待したい。

(森本壮亮)

編集後記

 

最初の村上論文では、衰退しつつある日本経済を再建するためには、新自由主義的な短期志向の利潤原理から脱却し、中長期視点からの投資や生産能力の計画的調整による成長を通して、地域衰退・貧困と格差・環境に関する問題を解消していくことの重要性が主張されている。次の伍賀論文では、日本型雇用解体過程の非正規雇用・半失業が論じられている。度重なる新自由主義的労働改革を経て、日本は「非正規大国」となり、労働者の過労死や貧困の世代間連鎖が生まれていることが指摘されている。さらに、建部論文では、新日本銀行法が施行された1998年4月以降の金融政策が批判的に検討されている。現行の物価安定目標に関する2%設定と量的・質的金融緩和政策から脱却し、金利政策への復帰を日銀が明示的に宣言することの重要性が主張されている。そして、最後の岡田論文では、地域経済構造の変容について論じられている。グローバル化の中で地域を再生し、持続可能とするためには、圧倒的多くの中小企業や農林漁家、協同組合、地方自治体といった地域経済・社会の担い手の地域内再投資力を高める政策の重要性が指摘されている。

編集に携わっていると、ときに心にさざ波が立つことがある。投稿者の強い情熱を感じつつも、残念ながら掲載拒否(リジェクト)となる場合である。この機会にGans and Shepherd (1994) “How are the mighty fallen (ああ勇士らは倒れた): Rejected classic articles by leading economists”に改めて目を通してみた。この論文は“Journal of Economic Perspectives”の第8巻に掲載されており,ノーベル経済学賞受賞者を含む、多くの著名な経済学者に対するアンケート調査から生まれている。Krugman、Tobin、そして、Samuelsonなど、ほとんどすべての経済学者がその経歴の中で掲載拒否の憂き目に会っているが、一度掲載拒否された論文でも最終的には別の学術論文誌や論文集などに掲載されていることが紹介されている。さらに、Keynesが“Economic Journal”の編集者であったときのエピソードが独立の項目として立てらており、Ohlin,Hotelling、Harrod、Friedman、Wicksell、そして、Kaleckiによって“Economic Journal”に投稿された論文がKeynesの判断により掲載拒否となったことが述べられている。もちろん、その後、彼らの論文のほとんどが別の学術誌に投稿され、掲載されていることは言うまでもない。GansとShepherdの論文では、狭小かつ無知な査読者によって軽率に悪い評価が下される可能性があるという制度上の欠陥も指摘されているが、このことは本筋ではない。彼らの主題は、一度の「掲載拒否」通知がその論文を抹殺するのでないということである。多くの例が明らかにしているように、掲載拒否された論文でも、論文に残る大小の瑕疵を修正して自らの論考を再彫琢するという研究者の努力を経て、どこか他の学術誌に掲載されている。ご興味のある方はどうぞご一読下さい。投稿者・査読者・編集者の一体となった協働作業により『季刊 経済理論』がこれからも優れた学術論文を掲載し、長きにわたり、経済学における「自己増殖する運動体」であり続けることを願って止みません。

(吉田博之)

編集委員

委員長

  • 鍋島直樹(名古屋大学)

副委員長

  • 宮嵜晃臣(専修大学)

編集委員

  • 阿部太郎(名古屋学院大学)
  • 泉 正樹(東北学院大学)
  • 田添篤史(三重短期大学)
  • 羽島有紀(駒澤大学)
  • 森本壮亮(立教大学)
  • 村上研一(中央大学)
  • 吉田博之(日本大学)
  • 吉村信之(信州大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。