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季刊・経済理論 第58巻第2号(2021年7月)特集◎21世紀社会主義を切り開くネット新世界
季刊・経済理論第58巻第2号

経済理論学会編

B5判/並製/120頁
ISBN978-4-905261-54-4
本体2000円+税
発行
2021年7月20日

目次

[特集◎21世紀社会主義を切り開くネット新世界]

  • 特集にあたって:インターネットの編成原理と21世紀社会主義  涌井秀行
  • ネット段階の資本主義経済と社会変革への展望  藤田 実
  • ITと金融での米国リーダーシップを支えた情報技術と政府政策:1970年代における萌芽と模索  井上弘基
  • 高度情報化社会における金融システム  相沢幸悦

[論文]

  • キャッシュレス決済の本質:信用論からの分析  李 暁黎

[研究ノート]

  • 価値概念についての一考察  西 淳

[書評]

  • 池上 惇著『学習社会の創造:働きつつ学び貧困を克服する経済を』  十名直喜
  • 木村雄一著『カルドア 技術革新と分配の経済学:一般均衡論から経験科学へ』  内藤敦之
  • 加藤光一著『グローバル東アジア資本主義のアポリア:日韓中台の「農村」的領域から考える』  涌井秀行
  • 伊藤 誠著『マルクスの思想と理論』  宮澤和敏

[書評へのリプライ]

  • 深澤竜人氏による拙著『新編 マルクス経済学再入門』(上・下巻)の書評へのリプライ  森田成也
  • 『人生のロマンと挑戦:「働・学・研」協同の理念と生き方』に対する和田幸子氏の書評へのリプライ  十名直喜
  • 『これからの経済原論』にたいする瀬尾 崇氏の書評へのリプライ  結城剛志
  • 張 忠仁氏の拙著『価値の理論 第三版』に対する書評へのリプライ  和田 豊

経済理論学会サーバ移転のお知らせ、およびこれまでのウェブによる会員ネットワーク構築の取組みについて  経済理論学会事務局

経済理論学会 第69回(2021年度)大会のご案内  大会準備委員会委員長 勝村 務

経済理論学会 第69回(2021年度)大会プログラム  大会準備委員会

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規程

編集後記  阿部太郎

特集にあたって

1991年ソ連・東欧の社会主義の放棄と1992年中国・全人代での「社会主義市場経済」化の決定。こうした「社会主義」から資本主義へのなだれをうった回帰は、国家的所有に社会的所有の内実を与えること、即ち、国・公有のもとでの生産力・生産性上昇の難しさを改めて我々に認識させてくれた。それはまた、生産と消費(需要と供給)の調整システムとしての「計画」の難しさを、そして計画経済をとおして所有を維持し拡大再生産することの困難さを再認識させてくれた。「社会の物質的生産諸力は、その発展のある段階で、それらがそれまでその内部で運動してきた既存の生産諸関係と、あるいはその法律的表現にすぎないが、所有諸関係と矛盾するようになる」(マルクス『経済学批判 序言』)。「生産の社会的性格と取得の私的・資本主義的性格」の矛盾は、20世紀「社会主義諸国」では、私的所有が廃棄され主要生産手段が国・公有へ移されて解決されたかに見えた。だが、解決されたかにみえた矛盾は、社会的所有(国・公有)からの労働者の疎外として、具体的には官僚機構による集権的・官僚的・命令的計画経済機構が、国民経済の効率的運用を阻害する問題として出現し、「社会主義」諸国民を苦しめ続けた。ユーゴスラビアの労働者自主管理計画化システムやソ連における自由化の部分的導入を進めようとしたコスイギン改革など、そうした二つの「ソガイ」(「疎外」と「阻害」)を克服しようとする試みはあったが、結局は「社会主義」の放棄・崩壊となって、失敗は周知の事柄となった。

こうした考え方のルーツはK・マルクスにある。マルクスは株式会社の中に私的所有を止揚する萌芽を見出していた。だが同時に、株式会社の限界にも気づいていたから、労働者たち自身が運営する協同組合生産に社会主義への通路、すなわち、結合・連合的生産を実現する鍵を見出していた。「資本主義的株式企業も、協同組合工場と同様に、資本主義的生産様式から結合生産様式への過渡形態として見られるべきものであるが、ただ、一方(株式企業―引用者)では対立が消極的に、他方(協同組合―引用者)では積極的に止揚されているだけである」(マルクス『資本論』)。マルクスは株式会社が達成したものを、協同組合化すればいい、連合的(associated)生産様式に変換すればよい、と考えたのである。こうした考え方は、その後エンゲルスに引き継がれることになる。1880年の自著『反デューリング論』のパンフレット『空想から科学へ』で、エンゲルスは次のように述べている。「産業の好況期は、信用を無制限に膨張させることによって、また恐慌そのものも、大規模な資本主義的企業の倒産をつうじて、各種の株式会社においてわれわれが見るような、大量の生産手段の社会化の形態に向かって推しすすめる」。つまり、好況時でも恐慌時でも社会の発展につれて、工場設備や原材料など生産のために必要な様々な財は、私的な形態から社会的・共同的な形態に変わらざるを得ない。「同一産業部門に属する国内の大生産者たちは相結んで、『トラスト』すなわち生産の規制を目的とする連合体をつくる。」私的に勝手にではなく、共同生産をせざるを得なくなる。「このようなトラストは、不況にあうと、たいていはたちまちばらばらになってしまうので、まさにそのためにトラストはいっそう集積度の高い社会化に向かって駆りたてられる。一産業部門全体がただ一つの大株式会社に変わり、国内の競争はこの一つの会社の国内的独占に席をゆずる。・・・・・・自由競争は独占に転化し、資本主義社会の無計画的な生産は、押しいってくる社会主義社会の計画的な生産に降伏する」。エンゲルスは「そのような巨大な株式会社を『国有化』すれば、社会主義はすぐに実現できると考えたのである。彼にとって、社会主義は資本主義経済を全体として計画的なものにすることだ。ここから、レーニンのように、社会主義とは、社会を『一つの工場』のようにするものだという考えが出てくる。以後、マルクス主義において、社会主義=国有化という考えは疑われたことがない。それはけっしてスターリニズムの所産ではない。むしろ、国有化がスターリニズムを生んだのである」(柄谷行人)。

A・スミス(1723-1790年)の生きた時代は、18世紀の黎明期の資本主義社会であった。ピンの製造で知られたスミスは、道具を使った分業に生産力の「主要な要素=基軸」を見た。生産力の基軸、生産力発展のカギは、道具を使用する共同労働・一般的(肉体)労働であり、生産力上昇の鍵は「分業」である、と。しかしスミスと交代するかのように資本主義の生成・発展期に登場したK・マルクス(1818-1883年)はこのスミスの議論を批判的に摂取し、分業の重要性を認めつつ、労働手段=機械に生産力発展のカギを見出した。機械が生産力発展のカギとなり、機械が「労働過程の主要な要素」となり、「労働過程の編成基軸」は道具・分業から機械・協業へと遷移した。機械こそが社会の生産力の根源であり、これによって膨大な商品群が生み出される。機械は人間の限界を打ち破り、機械は機械体系〔動力機―伝動機―作業機〕へと発展した。A・スミスからおよそ100年後のK・マルクス、それからおよそ100年後の今、ネット新世界が広がりつつある。社会の編成原理の主軸が、機械体系からネット体系へと遷移しつつある。それはニュートン力学から量子力学への遷移とも言えよう。例えば機械制大工業の申し子のような自動車。機械・機構部品もさることながら、今の自動車は電子化が進み、車載用半導体デバイスがなくては動かず、走行制御ではその数が1台100個を超えるという。電気自動車への転換は、インターネットの重要性がさらに増す。エンジンのピストン運動はモーターの回転運動に代わり、自動運転となれば、衛星と地上局の通信(5G)とGoogle 3次元マップ(GPS)の組み合わせというインターネットが必要不可欠な構成要素となる。エンゲルスの言う「大量の生産手段の社会化の形態」が現実となる可能性が見えてきた。

アントニオ・ネグリとマイケル・ハートは著書『帝国:グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』で、グローバル時代の民主主義の在り方を世に問いかけた。それは「絶対的民主主義」である、と。今から30年も前の1990年のことである。ネグリとハートは、ネットワーク社会においては、多様な価値観や利益の違いをもつマルチチュード=群衆・大衆が、差異を認めあいながら共に働き、自らが自らを統治する、と。そしてそういう社会の政治形態を「絶対的民主主義」社会としたのである。今、そうした社会編成の原理が、だれの目にもはっきりと映るようになってきたのではないだろうか。

イギリスのジョンソン首相は、コロナウイルスに感染し、死の淵から救出された。その時、イギリス国民に次のような感謝のメッセージ送った。治療にかかわった医療スタッフ一人一人に名前で呼びかけ「まぎれもなくNHS(国民保健サービス)のおかげで命拾いをしました。……みんなのNHSはこの国の脈打つ心臓で、この国の最も良い部分で不屈です」。そして自己隔離中に「社会というものが存在する」とツイッターに投稿した。

医療費無料のNHSは、イギリスでは単なる医療システム以上の意味がある。社会の在り方として、国民はNHSを誇りとし信奉してきた。すなわち、市場経済=資本主義では解決できない「欠乏、病気、無知、不潔、怠惰」という「五つの巨悪」から、すべてのイギリス人を解放するという社会の理念をNHSが象徴している。だからコロナとの闘いで、最前線のNHS医療従事者・職員へ感謝を伝えることが、国民の「正義」となっているのである。「鉄の女」サッチャー首相の後継者、「市場原理主義者」「新自由主義の申し子」のジョンソン首相をして、「NHSはこの国の脈打つ心臓で、この国の最も良い部分で不屈です」。そして「社会というものが存在する」と言わしめたのである。市場は万能ではない。市場に任せれば、すべてうまく行くなどということは幻想でしかない。

フレドリック・ジェイムソンは、「資本主義の終わりを想像するよりも、世界の終わりを想像することのほうが容易だ」と。そうだろう。地球環境破壊や自然災害、そして疫病。農業は、常にこの危機にさらされている。資源と環境の有限性を自覚し、これを制約条件としつつ需要の増大への対応を考えざるを得ない。だから地球温暖化・格差社会・1992年リオ・アースサミットから99年シアトルへと高まる反グローバリズム運動が地球規模で広がっていくのである。無秩序な自然環境・生態系への介入の結果生まれたウイルスによる人間破壊が、パラダイム転換を迫っている。これが、資本主義社会の限界と未来社会への展望を見出そうとする運動を組織している。そして昨年(2020年)発生したコロナ・パンデミックで、我々はこのことを改めて思い知らされた。「資本主義が唯一の存続可能な政治・経済制度であるのみならず、今やそれにたいする論理一貫した代替物を想像することすら不可能だ、という意識が蔓延した状態(=資本主義リアリズム)」(フィッシャー)は、打ち破られつつあるのではないか。資本主義の〔集中=私有=独占〕の「集中を計画」に、「私有=独占を国有(国家独占)」に代えただけのソ連・東欧型の、資本主義のアンチテーゼとして「20世紀社会主義」のトラウマから人々は解放されつつある。インターネットの編成原理〔分散=共有=公開〕は、〔21世紀社会主義〕社会の編成原理と言えないか。

(涌井秀行)

 
編集後記

今号の特集は「経済理論とインターネット」です。特集の全体像を簡単に紹介しておきます。

現在インターネットは、企業活動はもちろん、人々の生活に欠くことのできない社会インフラになっており、インターネットを制する者は世界を制するといった様相を呈しています。当然、国家や企業、民衆は各々これを取り込もうとするわけですが、前者は利益の最大化を狙い、後者は運動を地球規模で組織しようとします。

米国が典型ですが、インターネットは、金融・情報通信関連の1%の億万長者と99%の人々との格差を生み出し、この強烈な格差問題などへの反応として、世界社会フォーラムや反グローバリズム運動、反緊縮運動、Fridays For Futureなど90年代以降から現在に至るまで、民衆による様々な国際的統一行動が継続的に行われてきました。特集の根底には、このような国家や企業対民衆の対抗の中でネット社会が形成されてゆくという分析視角があります。

涌井論文は、この特集の屋台骨となっており、インターネットの「分散=共有=公開」といった編成原理に、資本主義の「集中=私有=独占」のアンチテーゼとしての21世紀社会主義の可能性を見ています。

藤田論文は、ネット世界の取り込みをめぐる資本と民衆の間の対抗関係を歴史的事実から後付けながら、民衆によるネット世界を利用した社会変革の可能性について述べています。

井上論文は、1970年代の米国におけるITと金融に関する産業界と政府の動きを辿ることによって、資本によるネット世界の取り込みの源流について論じています。

相沢論文は、フィンテックのようなインターネットを利用した「金融革新」の登場を戦後の世界経済史の中に位置づけ、こういった資本によるネット世界の取り込みによって生じた貧富の格差や環境破壊といった問題を指摘しています。

現実の日本に目を転じてみますと、マイナンバー制度やデジタル庁創設など、個人情報保護が後退しかねない事態が生じています。これらは国家や企業によるネット世界の取り込みの一環とも言え、本特集における分析視角の現実性を確認することができます。

世界的なパンデミックの中で、貧困や格差など様々な問題が顕在化し、オールタナティブな経済社会を求める声が国内外で高まっています。今後も資本主義経済を大きく捉え、民衆の側に立ったオールタナティブを示すような特集を組んでいきたいものです。

さて、編集委員を務めて一年が経ちましたが、大変有意義な経験をさせていただいています。編集委員会は、コロナ禍の中で対面を避け、全てインターネットを通じて行われています。投稿論文や書評、特集の検討といった話し合いの中で、時折垣間見られる様々な諸潮流の研究動向に大きな刺激を受けています。また、この学会には経済学における多元主義的な価値観を共有している方々が集っているということを、改めて感じる機会となっています。編集委員会は、編集の仕事だけではなく、学会内の研究動向に触れたり、人的交流という機能も併せもっていますので、できるだけ多くの方に務めていただきたいと考えています。

難しいのは、編集委員だけではカバーしきれない専門領域に関する投稿論文の査読者や書評者の選定です。査読者や書評者の方々には様々な無理をお願いする場合もありますが、ご協力をお願いすると共に、忌憚のないご意見をお寄せいただけると幸いです。可能なものに関しては、改善を図っていければと考えております。         

(阿部太郎)

編集委員

委員長

  •  宮澤和敏(広島大学)

副委員長

  • 鍋島直樹(名古屋大学)

編集委員

  • 阿部太郎(名古屋学院大学)
  • 柴崎慎也(北星学園大学)
  • 田添篤史(三重短期大学)
  • 羽島有紀(駒澤大学)
  • 星野富一(富山大学)
  • 森本壮亮(立教大学)
  • 村上研一(中央大学)
  • 吉田博之(日本大学)
  • 涌井秀行(明治学院大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。