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季刊・経済理論 第55巻第4号(2019年1月)特集◎貨幣的経済学の展開
季刊・経済理論第55巻第4号

経済理論学会編

B5判/並製/116頁
ISBN978-4-905261-91-9
本体2000円+税
発行
2019年1月20日

目次

[特集◎貨幣的経済学の展開]

  • 特集にあたって  結城剛志
  • 商品貨幣論の現代的展開  泉 正樹
  • 貨幣の名目性:表券主義の貨幣理論  内藤敦之
  • 「金融化」の現代的諸問題とマルクス経済学  吉村信之
  • 金融化の原理的考察のために:貨幣的経済学の批判的検討  清水真志

[論文]

  • 産業循環から見た2008年恐慌と長期停滞  平野 健
  • 価値形態論の再考:価値形態の移行過程を中心に  海 大汎

[海外学界動向]

  • 「第13回世界政治経済学会」(ベルリン)に参加して  佐中忠司
  • 政治経済学を推進する国際運動(IIPPE) 第9回大会に参加して  松井 暁

[書評]

  • 伊藤 誠著『入門 資本主義経済』  塩見由梨
  • 田中史郎著『現代日本の経済と社会:景気、人口、格差、原発』  柴崎慎也
  • 江原 慶著『資本主義的市場と恐慌の理論』  宮澤和敏
  • 植村邦彦・若森章孝著『壊れゆく資本主義をどう生きるか:人種・国民・階級2.0』  隅田聡一郎

[書評へのリプライ]

  • 『価値と資本:資本主義の理論的基盤』に対する書評[評者=深澤竜人氏]へのリプライ  飯田和人
  • 『日本国債の膨張と崩壊:日本の財政金融政策』に対する書評[評者=斉藤美彦氏]へのリプライ  代田 純

論文の要約(英文)

第55巻第3号掲載論文の正誤表  編集委員会

刊行趣意・投稿規程

編集後記  佐々木隆治

特集にあたって

政治経済学の中心課題は資本主義の解明である。本特集では、資本主義における貨幣の役割を意識的にか無意識的にかにかかわらず稀釈する無貨幣的アプローチではなく、貨幣の積極的な役割に着目する貨幣的アプローチを取り上げる。

資本主義ではあらゆる経済主体が貨幣を起点に行動する。貨幣が資本主義のダイナミクスを生み出すのである。このような資本主義の動態を把握するために、政治経済学は貨幣論を組み込んだ独自の理論体系を構築している。いわば貨幣的経済学という特徴を有するのである。この点が古典派以来の実物的な経済学からの決定的な跳躍点である。

貨幣的経済学は商品貨幣論と表券貨幣論という趣を異にする二つの理論によって展開されている。現代のマルクス学派とポスト・ケインズ学派は、ともに貨幣の重要性を認めながら、まったく異なる観点で貨幣を把握し、それぞれの立場から貨幣的経済学を構築している。両学派とも近年の貨幣論研究が盛んであり、相互の論争も活発である。そのため、理論研究の進展が非常に速い。それに対して、一般均衡論をベースに構築された新古典派経済学は、貨幣をヴェールと捉えたり、道具的に把握したりすることで、貨幣が積極的に果たす役割を評価しない、無貨幣的アプローチとなっている。マルクス学派とポスト・ケインズ学派は、資本主義の的確な分析のためには適切な貨幣論が必要であると主張して、メインストリームの経済学に対する批判を果敢に試みている。だが、新古典派からの反批判はまったくといっていいほどみられない。あるいは、貨幣論を換骨奪胎するような循環論(ブーツストラップ理論)や欲求の二重一致問題に拘泥するサーチ理論が提唱されるだけであり、貨幣についての歴史的な考察を深めてきた我々には物足りない。このような学派間の没交渉的な理論展開は、経済学全体の発展にとって有益であるとはいえない。この閉塞状況を打開するために、本特集で政治経済学の研究水準を示し、同じ土俵に上がって議論がなされることを期待するものである。

本特集は、貨幣的経済学の原理的研究を、商品貨幣論と表券貨幣論のそれぞれの立場から示し、貨幣に着目して資本主義を分析することでどのような示唆が得られるのか、またそもそもなぜ貨幣的アプローチが必要なのかを明らかにする。そして、貨幣の原理的な理解を踏まえつつ、金本位制から不換銀行券制度への移行に代表される、貨幣・信用制度の歴史的変容についての具体的な分析も必要である。さらには、貨幣論的なアプローチが、道具的な貨幣観に留まる貨幣数量説に基づいてやや捻れたかたちで主張される近年の金融政策に対して、どのような批判的な分析を行うことができるのかを明示する、政治経済学の現状分析が提示されるのである。(以下略)

  (結城剛志)  

編集後記

今号の特集テーマは「貨幣的経済学の展開」です。本特集ではとりわけ宇野派の立場からのマルクス貨幣論・信用論の現代的可能性の検討、さらには非主流派経済学の表券主義および信用貨幣論の関連の検討がなされています。いずれの論文も先行研究を明確に位置づけつつ、新たな理論的フロンティアを開拓しようとするものであり、会員諸氏に大きな刺激を与えてくれるでしょう。

結城剛志編集委員が巻頭言で指摘されているように、新古典派の道具的な貨幣論の欠陥は明らかですが、にもかかわらず非主流派の貨幣論の意義、とりわけマルクスの貨幣論の意義は十分に理解されていない状況にあります。もちろん、マルクスが指摘したように、「経済学の領域では……人間の胸中のもっとも激しくもっとも狭小でもっとも悪意に満ちた情念を、私的利害というフリアイを戦場に呼び寄せ」ますし、転倒した資本主義的生産様式の内部では転倒した意識である物神崇拝の発生は必然的です。資本主義社会においてマルクスの経済学批判の意義が一般に理解されないのは必定だと言えるでしょう。

しかし、現在の日本におけるマルクス派の後退はそのような一般論だけでは説明できません。というのも、マルクスの経済学批判の意義をマルクス自身の意図に従って正確に理解し、それを専門外の方にもわかるように明確に示すという試みじたいが、いまだ不十分にしかなされていないからです。もちろん、これまでも優れた研究は数多くありましたが、資料的制約や時代的制約のために、この課題を十分に遂行することは非常に困難でした。しかし、新マルクス・エンゲルス全集の第II部門の刊行が完了し、かつての「マルクス主義的」政治運動の破綻が明らかになった現在、政治的な思惑に縛られずに、最新の資料を用いてマルクスを「復元」し、その理論的意義を明らかにすることが可能になってきています。

もちろん、このような原典研究だけではマルクス派の後退を食い止めることは難しいでしょう。現代資本主義の分析においてマルクス理論の意義を実証する必要がありますし、現代的な視点からマルクス自身の理論的不十分性を克服していく必要もあります。最近、シルヴィア・フェデリーチ『キャリバンと魔女』を読む機会があったのですが、労働力再生産のために女性から生殖管理能力を剥奪していくプロセスが本源的蓄積論において欠落しているという指摘は非常に説得的でした。とはいえ、これらは原典研究と対立するものではありません。むしろ、原典研究によるマルクス解釈は、マルクス理論の意義とその不十分性を正確に理解し、より鋭い現状分析を行うための理論を創造することを可能にするのです。マルクスの経済学批判にはそれだけの生命力があると確信します。

いまや日本では社会運動のなかでさえ、マルクスの理論的影響力が低下し、リフレ、ベーシックインカム、消費税増税による普遍的給付、立憲主義など、世間受けしそうなスローガンや政策ばかりが持て囃されています。反グローバリゼーション運動以降の、ヴァージョンアップした世界の階級闘争にいかに合流するか、マルクス研究にとっても正念場を迎えています。

 (佐々木隆治)

編集委員

委員長

  • 黒瀬一弘(東北大学)

副委員長

  • 新田 滋(専修大学)

編集委員

  • 明石英人(駒澤大学)
  • 佐々木隆治(立教大学)
  • 薗田竜之介(佐賀大学)
  • 二宮健史郎(滋賀大学)
  • 安田 均(山形大学)
  • 山下裕歩(獨協大学)
  • 結城剛志(埼玉大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。