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季刊 経済理論 季刊・経済理論 第55巻第3号(2018年10月)特集◎軍事技術と現代資本主義
季刊・経済理論第55巻第3号

経済理論学会編

B5判/並製/98頁
ISBN978-4-905261-90-2
本体2000円+税
発行
2018年10月20日

目次

[特集◎軍事技術と現代資本主義]

  • 特集にあたって  渋井康弘
  • 技術、軍事、そして資本主義:デュアルユースと戦争ビジネスをどうとらえるか  田中史郎
  • DARPA 軍民両用技術が寄与する米国軍産学の際限なき増強循環  井上弘基
  • 戦後日本資本主義における軍需の民需化と民需の軍需化  藤田 実
  • 米国が実践した新軍事革命の影響:イラク・中東戦争と朝鮮半島のゆくえ  藤岡 惇

[論文]

  • 商業組織論の課題とその展開  柴崎慎也
  • 「課業」概念の再考とその適用の現段階:ブレイヴァマンによるテイラーの科学的管理分析を通して  三家本里実

[書評]

  • 河西 勝著『宇野理論と現代株式会社:法人企業四百年ものがたり』  石井 徹
  • 青木達彦著『金融危機は避けられないのか:不安定性仮説の現代的展開』  鍋島直樹
  • Luigi L. PASINETTI, Keynes and the Cambridge Keynesians: A ‘Revolution in Economics’ to be Accomplished(渡会勝義監訳、内藤敦之・黒木龍三・笠松学訳『ケインズとケンブリッジのケインジアン:未完の「経済学革命」』)  Kazuhiro KUROSE
  • 渡辺憲正・平子友長・後藤道夫・蓑輪明子編『資本主義を超える マルクス理論入門』  佐々木隆治

[書評へのリプライ]

  • 『信用機構の政治経済学:商人的機構の歴史と論理』に対する書評(評者=柴崎慎也氏)へのリプライ  田中英明

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規程

編集後記  黒瀬一弘

特集にあたって

フォード・システムの技術的基礎である互換式製造法が、銃器生産のための技術として開発され、南北戦争中に発展したものであったことや、肥料製造との関連で開発されたハーバー=ボッシュのアンモニア合成法が、第1次世界大戦中、ドイツにおける火薬製造の必要から発展させられたことなどに象徴されるように、軍事技術が産業技術と結合することは資本主義の歴史の中で繰り返されてきた。

資本主義の本格的確立を道具の機械への転化→機械制大工業の成立との関係で捉え、技術の資本主義的利用を重要な研究課題の1つとしてきたマルクス経済学は、軍事目的で開発・利用される軍事技術(と資本主義との関係)についても、これまで一定の研究蓄積を積み上げてきた。だが今日、軍事技術と資本主義との関係は、従来の研究だけでは捉えきれないほど複雑かつ多様な内容を持つに至っている。

第2次世界大戦を契機として、軍事技術と資本主義経済との関係はそれまで以上に極めて密接となった。大戦中は、航空機、自動車はじめ各種機械工業、金属加工業、化学工業、建設業等、数々の産業の技術が軍事に総動員され、産業の最先端技術が軍事技術へと転用されていった。大戦後は、戦中に開発された軍事技術が戦後の資本主義経済に大きく影響していくこととなる。原子力の平和利用と称して原爆が原子力発電に姿を変え、(大小さまざまな)原発事故が繰り返される一方で、戦中から弾道計算や原爆製造のための計算用に開発されてきたコンピュータは、戦後にミサイルの制御を目的として開発された半導体・集積回路(IC)や、軍用ネットワークとして登場したARPANET(後のインターネット)などと結びついて、情報技術革命と呼ばれる大変化をもたらすこととなった。生産過程や流通過程は情報技術によってその構造を劇的に変貌させ、金融部門は情報技術を基礎として、実体経済の動向と乖離しながら資金をグローバルに移動させつつ飛躍的に拡大していったのである。つまり情報技術革命、グローバリゼーション、金融部門の異常な膨張、地球環境問題といった現代資本主義の抱える根本問題がことごとく軍事技術と関わっているわけで、まさに現代資本主義の基本的特徴は、軍事技術との関連抜きには把握できないと言えよう。

それらに加えて今日では、戦争の様相を劇的に変貌させるような軍事技術が次々と実用化されている。宇宙衛星とコンピュータ・ネットワークを駆使しながら、ドローンや精密誘導ミサイルが戦地を飛び交い、戦闘ロボットの開発も急速に進められている。そしてそれらの開発がまた産業技術へと応用されていく。米国はデュアルユース(軍民両用)技術の開発を推進することで、軍事技術開発を梃子にしつつ産業技術の覇権を狙い、かつては軍事技術開発から距離をおいていた日本財界も、景気停滞を打破する方策として米軍との共同開発や武器輸出の増大を望むようになっている(2015年9月に発表された、武器輸出を「国家戦略として推進すべき」との日本経団連の提言などを参照)。

以上の事実を踏まえるならば、今日の諸々の軍事技術と資本主義経済との関係を解明することは、現代資本主義の研究者にとって避けて通れない課題であり、また、本学会において活発に議論されるべきテーマであると言えよう。しかしながら本学会は、こうした問題をメインテーマとする大会を久しく開催してこなかったし、近年においてその種の特集号が発行されるということもなかった。こうした観点から本号は、特集のテーマとして「軍事技術と現代資本主義」を掲げ、4人の執筆者に、それぞれの観点から上の諸問題を論じて頂くこととした。4氏の議論を出発点として、本学会においてこれらの問題に関する論争を喚起しようというのが、編集者の目論見である。

編集後記

『季刊 経済理論』第55巻3号をお届けします。今号の特集は、渋井康弘編集委員の企画により「軍事技術と現代資本主義」というテーマとなっております。寄稿されている4本の特集論文は、いずれも軍事技術と資本主義経済の結びつきに鋭く切り込もうとするものであり、本誌の性格にふさわしい刺激に富んだ内容となっているのではないかと思います。

巻頭言でも述べられているように、近年の日本では多くの大学で予算削減による研究環境の悪化が進行する一方で、デュアルユースの名目の下、「軍学共同」の動きが強まっています。学問と軍事のあり方について、ただ単に理念を唱えるだけではなく、喉元に突きつけられたリアルな現実として再考していくという重い責任が、現代の研究者には課せられています。その責任を果たすべき存在の中には、技術開発の最前線にいる自然科学の研究者のみならず、人文・社会科学者も含まれるのは言うまでもないでしょう。本号の特集が全ての本誌読者にとって、学問と軍事研究の関係という問題に改めて真剣に向き合う契機となれば、編集委員の一人としてこれに勝る喜びはありません。

今号に限らず本誌で組まれる特集は、そのテーマ設定、寄稿論文の内容ともに、毎号高いクオリティを維持しています。本誌のバックナンバーがお手元に揃っている方は、表紙を並べて眺めていただければお分かりかと思いますが、本誌の特集で扱われるテーマは、現代資本主義の諸問題から、伝統的なマルクス経済学研究の最先端、マルクス経済学以外の非新古典派理論の紹介まで非常に幅広く、それでいていずれのテーマも現実的な問題意識に根差した本誌らしいものとなっています。3ヶ月に1度のペースでこうした特集号を発刊できていることは、誇るべきことかと思います。

このような良質な特集を実現し続けることは、決してたやすいことではありません。特集テーマは各号の担当委員が企画立案し、編集委員会での審議を経て決定されますが、過去の特集号との重複を避けつつ、現代的な意義を有するテーマを設定し、その趣旨にふさわしい執筆者を選定して寄稿の依頼をするという一連の作業には、多くの困難が伴います。私も目下、自身の担当号の特集企画の立案に取り掛かっているところですが、この仕事の難しさと、優れた特集を生み出してきた編集委員の先輩方の偉大さを痛感しております。

そしてもちろん特集の成功は、多大な労を費やして論文を寄稿してくださる執筆者の方々によって支えられています。特集の趣旨に賛同し、本誌読者に向けて優れた論文を発表される方を毎号確保できていることは、本学会にとって非常に心強いことです。

本誌の特集は、こうした多くの方々の尽力によって実現していますが、どれほど優れた特集原稿であっても、それが新たな知見の創出に結びつかなければ意義がありません。読者の皆さんが、毎号の特集をご自身の思考の糧とし、そこから生み出された研究成果を投稿論文という形で本誌へとフィードバックしてくださることを、願ってやみません。

(薗田竜之介)

編集委員

委員長

  • 黒瀬一弘(東北大学)

副委員長

  • 新田 滋(専修大学)

編集委員

  • 明石英人(駒澤大学)
  • 佐々木隆治(立教大学)
  • 渋井康弘(名城大学)
  • 薗田竜之介(佐賀大学)
  • 二宮健史郎(滋賀大学)
  • 安田 均(山形大学)
  • 山下裕歩(獨協大学)
  • 結城剛志(埼玉大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。