- 季刊 経済理論 季刊・経済理論 第55巻第2号(2018年7月)特集◎現実主義的アプローチから見た経済成長と所得分配
- 目次
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[特集◎現実主義的アプローチから見た経済成長と所得分配]
- 特集にあたって 佐々木啓明
- 利潤率と経済成長率の関係:ピケティ理論の批判的検討 浅田統一郎
- 現代資本制経済に関する安定性分析:誘発的技術革新 吉田博之
- 所得分布の決定機構 村上弘毅
- 2000年代日本の経済停滞:カレツキアンの視点から 池田 毅
[論文]
- 資本蓄積と産業予備軍の長期的変動 宮澤和敏
[研究ノート]
- 労働者階級が社会運動に参加・団結する条件について:「社会的ジレンマ」ゲーム理論の応用可能性 大西 広
[書評]
- 石橋貞男著『現代の貨幣』 入江恭平
- 鍋島直樹著『ポスト・ケインズ派経済学:マクロ経済学の革新をもとめて』 薗田竜之介
- 代田 純著『日本国債の膨張と崩壊:日本の財政金融政策』 斉藤美彦
- 飯田和人著『価値と資本:資本主義の理論的基盤』 深澤竜人
- 岩佐 茂・佐々木隆治編著『マルクスとエコロジー:資本主義批判としての物質代謝論』 小松善雄
[書評へのリプライ]
- 『サービス商品論』に対する書評(評者=飯盛信男氏)へのリプライ 櫛田 豊
- 『社会哲学と経済学批判:知のクロスオーバー』に対する書評(評者=松井 暁氏)へのリプライ 角田修一
- 『世界経済危機とその後の世界』に対する書評(評者=掛下達郎氏)へのリプライ 柴田コ太郎
- 『大戦後資本主義の変質と展開』の書評(評者=米田 貢氏)へのリプライ 井村喜代子
- 『「他者」の倫理学:レヴィナス,親鸞,そして宇野弘蔵を読む』の書評(評者=沖 公祐氏)へのリプライ 青木孝平
経済理論学会 第66回(2018年度)大会のご案内 大会準備委員会 松尾 匡
経済理論学会 第66回(2018年度)大会プログラム 大会準備委員会
経済理論学会 〈第6回若手セミナー〉のおしらせ 田中英明/佐藤 隆
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規程
編集後記 安田 均
- 特集にあたって
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われわれは現実の経済社会をどう捉えるべきか。本特集では、規範的アプローチというよりは「現実主義的アプローチ」、すなわち、あるがままに現実を捉える立場から経済社会を分析する手法に着目する。
ここで規範的アプローチとは、主に新古典派経済学を指し、現実主義的アプローチとは、主にケインズ派、ポスト・ケインズ派の経済学を指す。新古典派経済学は、パレート基準に基づき、現状よりわずかでも経済厚生が改善されれば望ましい状態であるという規範を有しており、経済政策の効果を分析することに適している。これに対してケインズ派経済学、ポスト・ケインズ派経済学は、現実の客観的な記述、すなわち諸経済変数の運動法則を記述することを重視しており、経済活動を鳥瞰的に分析することに適している。
ケインズ派経済学、ポスト・ケインズ派経済学に対しては、効用最大化や利潤最大化といったいわゆるミクロ的基礎付けを有していないという新古典派経済学からの批判がある。しかし、例えばケインズ・モデルに登場する消費関数や投資関数といった諸関数には、すでに消費者や企業といったミクロ・レベルの経済主体の行動が織り込み済みであり、それら経済主体の思考が表出されたものとして消費関数や投資関数は定式化されている。
もちろん、ケインズ派、ポスト・ケインズ派の経済学者も、例えば、失業率の削減を目指すべき、あるいは所得の増大を目指すべき、といった各人の規範を持っているだろう。しかし、ケインズ派、ポスト・ケインズ派の経済学者は、現実に生じている経済現象や経済問題の本質を描出することを第一義としている。
本特集で扱う主題は「経済成長と所得分配の関係」である。これは経済学という学問が始まって以来、重要な研究対象であり続けてきた。所得分配の概念には、機能的所得分配と個人的所得分配がある。機能的所得分配の概念は、生産要素である労働、資本、土地にどのように所得が分配されるのかを扱う。それに対して、個人的所得分配の概念は、生産要素の所有に応じて経済主体に所得がどのように分配されるのかを扱う。
機能的所得分配は、主に新古典派経済学の概念であり、企業の収益最大化行動により、労働の限界生産性および資本の限界生産性が、実質賃金率および利潤率にそれぞれ等しくなると想定し、あたかも生産要素が単体として生産を行うかのように取り扱う。
個人的所得分配は、古典派、マルクス派、ポスト・ケインズ派が重視する概念であり、それぞれの生産要素の保有者に対して、労働者、資本家、地主といった階級を対応させ、所得分配の問題を階級間の問題として分析する。
本特集は、現実主義的アプローチに基づき、このような機能的所得分配と個人的所得分配の問題に着目した分析を行っている研究を取り上げ、とりわけ経済成長と所得分配の関係に着目する。経済成長と所得分配の関係を分析する際には、経済成長が所得分配に影響を与えるのか、あるいは所得分配が経済成長に影響を与えるのか、というように、どちらか一方向の問題を分析するだけでなく、経済成長と所得分配における双方向のフィードバックも考慮する必要がある。
本特集の4論文は、このような経済成長と所得分配の関係を分析したものであり、浅田統一郎氏、吉田博之会員、村上弘毅会員、池田毅会員にご寄稿いただいた。(以下略)
(佐々木啓明)
- 編集後記
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編集委員会には一昨年暮れから参加しているが、未だに要領を得ているとは言えない。論文を担当する編集委員は、レフリーを2名選び、依頼した審査報告書を取りまとめ、編集委員会に対し独自の審査報告書を提出報告する。2名の指摘には共通する点が多いし、引用文献や関連文献にまで当たったうえで詳細なコメントを寄せて下さる方もあり、大いに助かっている。それでも揃って見落としているのではと思うこともあるし、何より両者の視角は異なるので、独自に書き込む必要も生じる。その場合、両者の指摘を超えてどこまで踏み込むべきか迷うことが多い。様々な立場の論稿が見解や手法を交える場である学会誌としては、立場、アプローチが異なる論稿についても、あくまで学術論文としての水準という点からの判断や改善点指摘に止めるべきであろう。実際、審査報告書は、採択を判定する総合評価以外に、独創性や首尾一貫性など6つの基準について判断が求められている。それを踏まえても、自分の見解に引きずられていないかと迷うことがある。逆に、投稿者は返送された報告書に戸惑うこともままあるのではないか。自分の経験を言えば、痛い点を突かれ、どう答えたら良いか悩んだり、論文のテーマを超えた指摘にとても1本の論文では応えきれないと戸惑ったりしたことがある(他方で、後になって詰めが甘かったと気付き冷や汗も)。
編集委員会に参加して再認識したことは、レフリーや担当者は、学術雑誌の質維持という点だけでなく、論文の完成度を高めるという観点からも改善点を指摘しているということである。不採択判定以外では、たとえ報告書の指摘に十分納得いかないとしても、各自の観点から指摘に応え、是非、改訂稿を作成、提出して貰いたい。
学術論文以外の例を持ち出して恐縮だが、ある小説家は文芸誌新人賞受賞後、併せて単行本にするために受賞後第一作の執筆を強く勧められた。バイト生活の傍ら書き上げた作品は様々な指摘を受け、書きなおすことになった。しかし、書きなおしてもまた別の指摘を受ける。指摘と書きなおしを幾度も経て結局ボツとなった。次の、別の作品も同様の経過が延々と続いた。「しかし私は、果てしなく続く書きなおしがだんだん楽しくなった。……無駄な部分、必要な部分、重要な部分が、立ち上がるように見えてきて、そのことに私は興奮した」(読売新聞4月15日付「始まりの一冊」)。角田光代さんのその後の活躍は周知の通りだ。改訂も研究の一コマとして臨みたい。
さて、今回の特集は「現実主義的アプローチから見た経済成長と所得分配」である。担当の佐々木啓明京大教授が編集委員会に提出した企画書によると、今回の特徴は経済を規範的にではなくあるがままに捉える現実主義的手法を集めた点にある。すなわち、分配と成長とを、一方が他を規定するものと規範的に決めつけず、双方向のフィードバック作用を重視する研究を取り上げる、とある。
実際に寄稿された論文のテーマは様々である。労働生産性内生仮定と成長循環の安定性、ピケティ不等式と所得格差拡大との関係および日本経済における所得格差の動向と政策の関連、所得分布のモデル分析、今世紀以降の日本経済の成長に対する3つのレジームの検証。並べてみると、分配と成長のあるがままの把捉にも様々な手法があることが分かる。投稿論文ではないので、担当者の指摘と書きなおしのループは課されていないものの、既にその内面化を身に付けられた方々ばかりである。われわれが多様な手法を突き合わせ、所得と成長の関係に検討のループを試みるべきなのであろう。
(安田 均)
- 編集委員
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委員長
- 黒瀬一弘(東北大学)
副委員長
- 新田 滋(専修大学)
編集委員
- 明石英人(駒澤大学)
- 佐々木啓明(京都大学)
- 佐々木隆治(立教大学)
- 渋井康弘(名城大学)
- 薗田竜之介(佐賀大学)
- 安田 均(山形大学)
- 山下裕歩(獨協大学)
- 結城剛志(埼玉大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。