- 季刊 経済理論 季刊・経済理論 第54巻第4号(2018年1月)特集◎政治経済学の経済政策論
- 目次
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[特集◎政治経済学の経済政策論]
- 特集にあたって 関根順一
- 民主的改革論の「失敗」とマルクス派の経済政策論 大西 広
- 反緊縮のマクロ経済政策理論 松尾 匡
- 原発災害の復興政策と政治経済学 除本理史
[論文]
- ケインズ的失業を伴うグレアム型貿易モデル:国際価値・賃金率・雇用量の同時決定 佐藤秀夫
- 価値形態論における計算貨幣 江原 慶
- 世界金融反革命とアメリカ株価資本主義 涌井秀行
[書評]
- 八木紀一郎著『国境を越える市民社会 地域に根ざす市民社会:現代政治経済学論集』 宇仁宏幸
- 萩原伸次郎著『新自由主義と金融覇権:現代アメリカ経済政策史』 松橋 透
- ロベール・ボワイエ著/山田鋭夫監修、横田宏樹訳
『作られた不平等:日本、中国、アメリカ、そしてヨーロッパ』 鍋島直樹 - 大西 広編著『中成長を模索する中国:「新常態」への政治と経済の揺らぎ』 厳 成男
- 田中英明著『信用機構の政治経済学――商人的機構の歴史と論理』 柴崎慎也
- 岡田徹太郎著『アメリカの住宅・コミュニティ開発政策』 樋口 均
[書評へのリプライ]
- 『この経済政策が民主主義を救う』に対する書評[評者=海野八尋氏]へのリプライ 松尾 匡
第8回(2017年度)経済理論学会奨励賞 奨励賞選考委員会
Article Summaries
刊行趣意・投稿規定
編集後記 渋井康弘
- 特集にあたって
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2008年のリーマン・ショックとそれに続くグローバル金融危機に対し、主要国は非伝統的金融政策や大規模な財政政策をはじめ政策を総動員して事態の収拾を図った。今やリーマン・ショックから10年近くが経過して、主要国の経済は表向き、平静を取り戻したかに見える。しかし、米連邦準備理事会(FRB)は2015年12月、事実上のゼロ金利政策を解除したものの、なお金融政策の正常化の途上にあり、欧州中央銀行(ECB)は2014年6月以来、マイナス金利政策を続けている。日本でも2012年12月の政権発足以来、第2次安倍政権は、金融緩和・財政出動・成長戦略からなる経済政策「アベノミクス」の推進に努めてきたが、日本銀行は2016年2月、「量的・質的金融緩和」の「物価安定目標」を達成できないまま、マイナス金利政策に踏み込んだ。主要国の市場経済は、はたして自律的な回復を遂げたのだろうか。
主要国の市場経済は経済政策への依存を強める一方で、経済政策を巡る議論も活発になってきている。日本でも近年、多くの政治家・官僚・エコノミスト・ジャーナリスト・学者が盛んに経済政策を論じ、経済理論学会でも多数の会員が日本経済の現状を分析し、経済政策の妥当性を議論してきた。
本特集では改めて、マルクス経済学をその基幹部分とする政治経済学における経済政策論の研究課題を論じたい。そもそも政治経済学における経済政策論の研究課題は何か。本特集は、おそらくは多くの政策研究が暗黙の前提としている事柄に光を当てる。(中略)
(本誌収録の)3つの特集論文はいずれも重要な問題に取り組み、貴重な問題提起を行った。特集論文を読んだ後、読者は、その分析結果や見解に必ずしも合意できないと感じるかもしれない。しかし、何か政策上の問題に関して最終的な解決を提示することが本特集の目的ではない。むしろ本特集の目的は研究課題を確認することである。各論文に関して異論を持つ読者には、ぜひ経済理論学会で報告を行い、あるいは『季刊 経済理論』に論文を発表し、政治経済学の経済政策論の研究に貢献されることを望む。
(関根順一)
- 編集後記
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『季刊 経済理論』第54巻第4号の特集テーマは「政治経済学の経済政策論」です。「特集にあたって」は、グローバル金融危機後の財政金融政策を通じて、主要な資本主義国が「自律的な回復を遂げたのだろうか」との問いを発しています。まさに時宜を得たテーマであり、この特集を設定した関根順一委員の慧眼です。関根委員が簡潔に整理しているように、政治経済学は@階級間の対立を認め、政府の中立性を認めない。A資本主義の歴史的諸条件を問う。B経済政策の各階級に与える影響を分析する。C代替的な経済政策を構想する、という特徴を持ちます。いずれの特徴も新古典派経済学との間に明確な境界線を引くものであり、経済学のリアリティをめぐって吟味されなければならないものです。
大西論文は「『マルクス派経済政策論』として研究されるべき、論じられるモノは何か」、「何がマルクス的な理論であるか」という問題を提起しています。そこで、「民主的改革論」と「経済整合性論」の反省を踏まえ、「政府政策」に問題を収斂させてはならないと注意を促しています。また、「長期法則の認識」の下での政策評価を求めてもいます。そして、「新古典派的なもの」「新自由主義」を再評価しながら,政策主体としての国の問題をクローズアップしています。「学者の関心は『政府』にのみ向きすぎている」との指摘には大いに首肯したいところですが、マルクス主義の歴史的文脈からいえばアナーキズムとの関係の再評価も期待したいところです。
松尾論文は、反緊縮的な財政金融政策が「安倍自民党の国政選挙の圧倒的五連勝を説明する基本原因になっている」と既存のマルクス経済学を痛烈に批判しています。その背景には、経済成長論の欠落を問うだけでなく、経済政策さえ支持されれば、左翼でも極右でも政権の座についてしまうことへの懸念があるのではないかと推察します。この点について、マルクス派内部での合意形成のために必要であると思われることは、「民意を代表する政府が公益のために」政策を実施するという見方への懐疑と「日銀のバランスシートの数値が悪化したからといって本来、何の問題もないのだが,気にする人もいる」ことへの対処ではないでしょうか。
除本論文は「人間の復興」の観点から、実物タームと貨幣タームを区別する「政治経済学的方法」によって原発災害を分析しています。被害実態と賠償制度の乖離を明らかにしたうえで、最終的には国の社会的責任に加えて法的責任をも問わなければならないと指摘しています。素材面での分析は、近年解明が進む新MEGAの物質代謝論的なアプローチとどのように共鳴するのでしょうか。
大西論文と除本論文に通底しているのは、国家への批判的なまなざしと民間(人民)の自己解決能力に信頼を寄せている点であり、それは関根会員が提起したように、政府が「国民の総意を受けて」いるという擬制と、政策における階級的な利害対立の隠蔽を明らかにするという視点でもあるでしょう。松尾論文の指摘が政治経済学者の琴線に触れるものであるだけに、政治経済学的な方法との整合性をめぐって今後も活発な論争が行われることを期待します。
(結城剛志)
- 編集委員
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委員長
- 松尾秀雄(名城大学)
副委員長
- 黒瀬一弘(東北大学)
編集委員
- 佐々木啓明(京都大学)
- 渋井康弘(名城大学)
- 関根順一(九州産業大学)
- 鳥居伸好(中央大学)
- 薗田竜之介(佐賀大学)
- 宮田惟史(駒澤大学)
- 安田 均(山形大学)
- 結城剛志(埼玉大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。