- 季刊 経済理論 季刊・経済理論 第54巻第3号(2017年10月)特集◎グローバリゼーションと地域戦略
- 目次
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[特集◎グローバリゼーションと地域戦略]
- 特集にあたって 鳥居伸好
- アジアインフラ投資銀行設立の背景と中国の戦略 西村友作
- イギリスのEU離脱(Brexit)にみるグローバル化とローカル化:BrexitがEUおよび世界経済に及ぼす影響をも含め 田中素香
- 「仁川経済自由区域」に対する批判的考察:反グローバリズム的な地域戦略の端緒としての「企業主義的」地域政策の本質 梁 峻豪
- 北海道仮想地域通貨:進化主義的制度設計に基づく戦略的地域活性化政策 西部 忠
[論文]
- N. W. シーニアの経済学方法論と1834年報告書 藤村哲史
- 金融資産の蓄積による金融化と経済の不安定性 二宮健史郎・得田雅章
[書評]
- 五味久壽編『岩田弘遺稿集:追悼の意を込めて』 後藤康夫
- 大谷禎之介著『マルクスの利子生み資本論 全4巻』 建部正義
- SGCIME編『グローバル資本主義と段階論(マルクス経済学の現代的課題 第U集第2巻)』工藤 章
- SGCIME編『グローバル資本主義と新興経済(グローバル資本主義の現局面 U)』 平川 均
- イサーク・イリイチ・ルービン著/竹永 進編訳『マルクス貨幣論概説』 鈴木和雄
- 山本泰三=編著『認知資本主義』 中原隆幸
[書評へのリプライ]
- 『投下労働量計算と基本経済指標』に対する書評[評者=大西 広氏]へのリプライ 泉 弘志
- 『自由のジレンマを解く』に対する書評[評者=玉手慎太郎氏]へのリプライ 松尾 匡
- 『これからのマルクス経済学入門』に対する書評[評者=山本孝則氏]へのリプライ 松尾 匡
Article Summaries
刊行趣意・投稿規定
編集後記 渋井康弘
- 特集にあたって
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イギリスにおけるマーガレット・サッチャー、アメリカにおけるロナルド・レーガンによる新自由主義政策が、1970年代におけるスタグフレーションにみられる資本主義経済の閉塞状況を打開する方策として導入され、資本主義の潮目を変える一つの契機となった。その新自由主義政策の世界規模での展開を、グローバリゼーションと捉えるならば、まさにイギリス、アメリカは、グローバリゼーションの旗手といってよいであろう。グローバリゼーションの推進役を担ってきたイギリスが、2016年6月の国民投票によりEU離脱へと舵を切り、アメリカでは、「アメリカ第一主義(アメリカ・ファースト)」を掲げたドナルド・トランプが2017年1月に第45代アメリカ合衆国大統領に就任したことは、両国における「排外主義」、あるいは一種の「地域主義」の台頭を予感させる現象と捉えることができる。その現象を生み出した担い手が、グローバリゼーションの産物である経済格差の一端を形成する労働者階級を中心とする貧困層であったことは、皮肉としかいいようがない。
新自由主義的政策の地球規模での波及とそれに伴う規制緩和、とりわけ金融の自由化の推進によって特徴づけられるグローバリゼーションの動きが、各国あるいは各地域での経済格差や地域間格差を拡大させ、資本主義は、グローバル化を牽引する投機的金融活動によってますます不安定化の様相を呈している。そのような資本主義の方向性は、グローバリゼーションとその動きに対抗する反グローバリゼーションとのせめぎ合いによっても示される。反グローバリゼーションの動きは、グローバリゼーションによってもたらされる諸問題を解決する、あるいはその影響を排除するというねらいで、先進国においても、労働者の低賃金や失業をもたらすものとしての自由貿易協定への反発や国内経済や地域経済の自律性を確保するための排外主義的傾向や地域主義的傾向などとして、様々な形で展開される。
本特集のテーマとして掲げる「グローバリゼーションと地域戦略」は、反グローバリゼーションとしての地域政策あるいは地域戦略を取り上げるものではないが、グローバル化が地域に及ぼす影響およびその諸問題、グローバル化と地域経済との諸関連などを、地域の枠組みを違えて検討することで、様々な角度からグローバリゼーションと地域との関連を捉え、地域から見たグローバリゼーションの変容を明らかにすることが可能となり、そのことによって、反グローバリズムの見地と重なる論点も浮き彫りにされるにちがいない。(以下略)
(鳥居伸好)
- 編集後記
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『季刊 経済理論』第54巻第3号の特集は、「グローバリゼーションと地域戦略」です。とりわけ1980年代から現在に至り、新自由主義的な政策が跋扈し、規制緩和や金融自由化による投機的金融活動の拡大などに特徴づけられるグローバリゼーションが世界を席巻しています。現在のグローバリゼーションの主体は本質的に「資本」であり、グローバル化とは、利潤最大化やメガ・コンペティションなど、資本の論理による世界的な支配を意味します。そのなかで、各国間、あるいは各国内における地域間格差は急速に拡大しています。そのひとつとして昨年のイギリスのEU離脱も、イギリス国内の地域間格差の広がりにひとつの大きな起因があったと考えられます。このことは、イギリスの貧困層が多く住む都心部以外の地域住民からの離脱支持率が高く、また実際にもそこでの失業率が都心に比べて高い点などからみても明らかです。イギリスのみならずアメリカなどでも地域間で経済格差は拡大し、人びとの分断や対立、さらにはトランプ政権の誕生という予期せぬ出来事まで生んでいます。
こうした現状を念頭におき、本特集は、グローバル化が地域経済に及ぼす影響、ならびにグローバル化と地域経済との諸関連などをあらためて問うことを課題として組まれました。本特集は、対象地域としては、日本、中国、韓国、そしてEUとの関連におけるイギリスを取りあげています。もちろんこの特集には限界もあり、たとえばアメリカや南米などのより広範な地域も対象に入れる必要がありますし、また、グローバリゼーションと地域経済との関連を考えるさいの理論的視座を明確化することも求められます。とはいうものの、本特集のいずれの論考も、各地域とグローバリゼーションとの関係を強く意識した内容となっており、現在の資本主義を分析するうえで豊かな材料を提供してくれる、大変興味深いものばかりです。
2017年は『資本論』刊行150年、2018年はマルクス生誕200年の年にあたります。本学会でも昨年は「21世紀の世界とマルクス――『資本論』150年を迎えるにあたって」、今年は「『資本論』150年・『帝国主義論』100年と資本主義批判」が共通論題となり、また本会誌でも「『資本論』刊行150年と現代」(第53巻第4号)が特集されるなど、それを意識した企画が組まれております。今日のグローバル化のなかでの格差拡大や労働環境の劣化、さらには低成長にあえぎ「行き詰まり」の様相を呈している資本主義の現状などからみても、マルクスの資本主義分析の意義をあらためて問いなおす必要性は増していると思われます。また、「マルクス経済学を、現代における経済学(ポリティカル・エコノミー)のもろもろの流れの基幹的な部分として位置づけ、その資本主義批判および経済学批判の精神を受け継ぐ」(本学会HP)とする経済理論学会にとっても貴重な機会です。これらがひとつのきっかけとなってマルクス経済学への関心が高まり、その研究が活性化し、現実の変革に活かされていくことを期待してやみません。
なお、本号の特集テーマを企画・立案し、さまざまな手配をしたのは編集担当者の鳥居伸好委員でした。副担当者である私は、ほんの一部の仕事をしたにすぎません。編集委員長はいつもハードな仕事を担い、また編集委員の方々は投稿論文の審査報告書の取りまとめや、委員会での長時間にわたる審議など、そのご苦労には頭が下がる思いです。また、投稿論文、書評、レフェリーなどにかかわる会員、校正から出版にいたるまで、あらゆる労を一身にお引き受けてくださっている桜井書店の桜井香氏には心より感謝申し上げます。
(宮田惟史)
- 編集委員
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委員長
- 松尾秀雄(名城大学)
副委員長
- 黒瀬一弘(東北大学)
編集委員
- 佐々木啓明(京都大学)
- 渋井康弘(名城大学)
- 関根順一(九州産業大学)
- 鳥居伸好(中央大学)
- 薗田竜之介(佐賀大学)
- 宮田惟史(駒澤大学)
- 安田 均(山形大学)
- 結城剛志(埼玉大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。