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季刊 経済理論 第54巻第2号(2017年7月)◎制度の政治経済学のパースペクティブ
季刊・経済理論第54巻第2号

経済理論学会編

B5判/並製/128頁
ISBN978-4-905261-85-8
本体2000円+税
発行
2017年7月20日

目次

[特集◎制度の政治経済学のパースペクティブ]

  • 特集にあたって  西 洋
  •  
  • 制度主義の再生とその後:制度経済学のミクロ的側面を中心に  磯谷明徳
  • 産業別労使交渉をともなうメゾ的カレツキアン・モデルの構築  藤田真哉
  • 「競合的パラダイム論」から見た制度アプローチの展開とその理論的射程に関する一考  江口友朗
  •  
  • 資本主義の制度的多様性:どのようにしてそれを捉えるのか  遠山弘徳

[論文]

  • 高齢化時代における蓄積と社会サービスへの総労働配分と搾取:投下労働価値計測の応用  橋本貴彦・松尾 匡
  • マルクスの地代論草稿とその射程  羽島有紀
  • 不確定性への事前的対処としての組織化:産業資本における現金および信用取引に基づく組織化をめぐって  柴崎慎也

[書評]

  • 角田修一著『社会哲学と経済学批判:知のクロスオーバー』  松井 暁
  • 大黒弘慈著『模倣と権力の経済学:貨幣の価値を変えよ<思想史篇>』/『マルクスと贋金づくりたち:貨幣の価値を変えよ<理論篇>』  柴山桂太
  • 小倉将志郎著『ファイナイシャリゼーション:金融化と金融機関行動』  小林陽介
  • 井村喜代子著/北原 勇協力『大戦後資本主義の変質と展開:米国の世界経済戦略のもとで』米田 貢
  • 川上則道著『搾取競争が、格差を広げ、地球環境を破壊する:『資本論』にもとづく現代搾取社会論』  佐藤拓也
  • 安田 均著『生産的労働概念の再検討』  阿部浩之
  • 柴田コ太郎編『世界経済危機とその後の世界』  掛下達郎
  • 櫛田 豊著『サービス商品論』  飯盛信男

[書評へのリプライ]

  • 『国家とグローバル金融』に対する書評[評者=上川孝夫氏]へのリプライ  矢野修一
  •  

経済理論学会 第65回(2017年度)大会のご案内  大会準備委員長 米田 貢

経済理論学会 第65回(2017年度)大会プログラム  大会準備委員会

経済理論学会 第5回若手セミナーの開催について  田中英明・佐藤 隆

Article Summaries

第64回大会共通論題会場における大屋定晴会員の報告をめぐる質疑応答の補足  姉歯 曉

刊行趣意・投稿規定

編集後記  渋井康弘

特集にあたって

かつて制度の分析や制度による経済分析は、レギュラシオン派、ホジソン流の旧制度主義、資本主義の多様性論をはじめ、いわゆる政治経済学の独自性あふれる研究分野であった。他方で、数量経済史、開発経済学、経済成長理論の研究が進むにつれて、近年では分野を問わず経済現象やその国家間の差異を説明するうえで制度の役割が重視されてきている。さらに、市場理論をコアとする新古典派経済学における制度を踏まえた分析の欠如も、新制度派経済学の展開によって補完されてきている。ここに置かれるのは主体のインセンティブであり、これを行動原理として、制度を考え、制度や市場を創る方法が積極的に研究されつつある。経済分析において制度の重要性を捨象することができないことは、今日の経済学界において明白になっている。

それゆえ、政治経済学において制度とは何か、なぜ重要なのか、どのように分析できるのか、そして、政治経済学は制度を踏まえた研究を今後どのように展開していくべきか考える時期に差し掛かっている。そこで本企画では、ミクロ、マクロ、学説、実証の分野における記述的アプローチ、分析的アプローチ、実証的アプローチを基に制度の政治経済学のパースペクティブ(射程)を探りたい。

このテーマのアクセントは制度にも、政治にも経済学にもおくことが出来る。本企画では、政治経済学(political economy)、つまり、現代資本主義経済において、純粋市場領域における合理性にもとづく取引だけでなく、政治的、社会的、産業的領域における支配関係、利害関係、あるいは協調関係も踏まえた経済学に力点を置きたい。それは次のような理由による。

制度の政治経済学は、基本的に不確実な世界を分析の背景におく。こうした世界では、個人は合理的行動を意図しようとも、限られた範囲でしか合理性は発揮できない。そこで制度は、不確実性を削減し、主体の経済活動の可能性を広げたり制約したりする形で個人やクラスのインセンティブ形成に資する役割を果たす。制度は、ときにそれ自体としても定義される慣習、定型行動、ルールも生み出し、個人やクラスの経済活動を円滑に実現する。最適化はあくまで一つの行動の選択肢である。

制度はクラス間の利害・協調関係に左右されて形成され、各クラスの利害・協調関係を左右する機能を果たす。それゆえ制度の形成や機能はインセンティブだけでなく利害・協調を踏まえなければ理解できない。かくして形成された制度は、各主体の経済活動において、固有のインセンティブやコントロールを超えた社会的・政治的・産業的な原動力や制約を与える。このとき分析のレベルは主体といったミクロのレベルではなく、制度や産業といったメゾのレベルに設定すべきである。

また、制度は経済活動の過程において形成され、持続するものの、ときに変化し、やがて消滅する。制度の政治経済学は、この過程における変化の不均等性や累積的変化に関心をもち、個人やクラス、組織、そしてマクロ経済的結果との円循環的な相互作用にも注目する。そして、この相互作用から生み出される意図しない集計的現象、つまり創発も重視する。それゆえ還元主義的方法や均衡概念に依拠した純粋経済理論ではなく、行動や相互作用を支える仕組みを理解する経済理論が必要になる。こうした理由からも制度の政治経済学は、メゾレベルも重視する。

制度は市場経済領域のみならず、政治的、社会的、産業的領域においても重要な役割を果たしている。資本主義の多様性論に代表される実証分析は、このことを強調している。実証研究によって、制度のあり方は普遍的なものではなく、それぞれ固有なものであることが明らかにされている。そして、諸制度の組み合わせ、すなわち制度的補完性が各国固有の資本主義の特徴や技術に関する比較優位、成長体制を作りだす。このように、現実の経済を理解するためには、純粋市場領域以外も含めた制度分析が必要になる。

制度(それはいかなる定義や役割を与えたとしてもまた別の定義や役割がでてくるいわばコントロヴァーシャルなワードではあるが)の政治経済学を強調するのはこうした理由による。制度とはなにか、批判を恐れず企画者なりの最小限の定義を与えれば、それは個人やクラスといった様々なレベルの主体が行動において参照するものである。これを分析の基準とすることで、均衡と最適化に依拠する経済学では理解が難しいことを理解することに制度の政治経済学の意義がある。

いささかスピリッツと方法を強調したが、これらだけでは制度の政治経済学は発展しない。そこから説得的な概念の構築、モデルの構築、実証分析につなげられなければ、制度の政治経済学の将来は明るくないと企画者は判断する。記述的アプローチ、分析的アプローチ、実証的アプローチを取りあげるのはこうした理由により、この企画に対して磯谷明徳氏、藤田真哉氏、江口友朗氏、遠山弘徳氏に寄稿いただいた。(以下略)

(西 洋)

編集後記

現代資本主義が『資本論』のような一般理論に依拠するだけで解明しきれるものでないことは、おそらく多くの論者が認めるところであろう。自らの研究に『資本論』をどう位置づけるかは、その研究者の方法論、スタンスによって異なる。だがそれでも、ますます複雑化し、その構造を容易には捉えられなくなっている現代資本主義を分析しようとするならば、『資本論』の意義は十分に認識しながらも、その限界を痛感せざるを得ない。それほどまでに資本主義は複雑に変化し、多様な様相を見せながら、今日の世界に広がっているのである。

制度を踏まえた経済分析、制度の政治経済学を研究する諸論者は、複雑、多様な現代資本主義を、ミクロ的側面においてもマクロ的側面においても、制度に注目し、制度の要因を議論に取り込むことにより解明しようとしている。

編集責任者の西洋氏が「特集にあたって」で述べられているように、そもそも「制度」という用語それ自体が「コントロヴァーシャルなワード」である。各論者はその用語を用いて、それぞれの方法で複雑、多様な現代資本主義を分析してゆく。その結果、そこから導き出される議論や結論も、極めて多様な視点からの、多様なものとなっていく。複雑、多様な現代資本主義の現実を解明しようとする議論自体が、また多様な論点、方法、分析結果を提示するのである。

社会科学の発展にとって、多様な視点、論点、方法があることは極めて重要である。特に今日の複雑化、多様化した資本主義を分析するとなれば、そのことの意義はより一層際立ってくる。しかしながら今日の経済学をめぐる状況は、日本学術会議の「参照基準」問題に象徴されるように(「参照基準」自体はある程度多様性を認めるものに修正されたが)多様性を抑制する方向へと向かっている。特定の方法に基づいて、特定の方向へと議論が誘導され、定められた結論に収斂することが期待されているような状況である。このような学問状況に毅然として立ち向かうことは、経済理論学会の重要な役割の一つではなかろうか。そして本誌は、複雑、多様な現代資本主義の解明に取り組む多様な議論を紹介し続けることで、そうした学会の姿勢を公に示す場でもあると思われる。

ただし、多様な議論が相互に関わることなく、バラバラに提示されているだけでは、社会科学としての説得力は得られない。それぞれの論者が互いに批判し合い、反論し合うことが必要である。論争の中で、受け入れるべき批判は受け入れ、誤りは素直に自己批判し、しかし納得のいかぬ批判に対しては徹底的に反論して自説を死守する。こうした営みの中で、理論、学説を批判に耐えうるものへと鍛え上げていく。本誌の存在意義は、そうした営みの場になりうるかどうかにかかっているとも言えよう。

本号に掲載された諸論文についても、その有効性について、読者諸氏の判断に基づき、建設的な批判や反論が投稿されることを期待する。そして今号の執筆者諸氏が、それらに対する反批判や再反論を提示することで、本誌が論争の場となって行くならば、本誌の学界における存在意義はさらに明確なものとなるであろう。

(渋井康弘)

編集委員

委員長

  • 松尾秀雄(名城大学)

副委員長

  • 黒瀬一弘(東北大学)

編集委員

  • 佐々木啓明(京都大学)
  • 渋井康弘(名城大学)
  • 関根順一(九州産業大学)
  • 鳥居伸好(中央大学)
  • 西 洋(阪南大学)
  • 宮田惟史(駒澤大学)
  • 安田 均(山形大学)
  • 結城剛志(埼玉大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。