- 季刊 経済理論 第53巻第4号(2017年1月)◎『資本論』刊行150年と現代
- 目次
-
[特集◎『資本論』刊行150年と現代]
- 特集にあたって 宮田惟史
- 『資本論』と「労働を基礎とする社会把握」:マルクスの経済学批判の理論的基礎について 佐々木隆治
- 『資本論』と現代の労働:いまマルクスの労働時間論をどう読むか 森岡孝二
- 『資本論』の恐慌・信用の理論と現代 小西一雄
- 『資本論』のエコロジーから考えるマルクスとエンゲルスの知的関係 斎藤幸平
- 『資本論』とアソシエーション 大谷禎之介
[論文]
- 広義の経済における労働の同等性:家事労働論争をふりかえって 中馬祥子
- 労働過程論における自律性概念の再解釈:ブレイヴァマンの労働過程分析を通して 三家本里実
[海外学界動向]
- 世界政治経済学会(WAPE)第11回フォーラムに参加して 平野 健
[書評]
- 泉 弘志著『投下労働量計算と基本経済指標』 大西 広
- 西 洋著『所得分配・金融・経済成長』 原田裕治
- 松尾 匡著『この経済政策が民主主義を救う:安倍政権に勝てる対案』 海野八尋
- 松尾 匡・橋本貴彦著『これからのマルクス経済学入門』 山本孝則
- 佐々木隆治著『カール・マルクス――「資本主義」と闘った社会思想家』 吉田文和
- セバスチャン・ルシュヴァリエ著/新川敏光=監訳『日本資本主義の大転換』 平野泰朗
- 繁著『現代グローバリゼーションとアメリカ資本主義』 萩原伸次郎
[書評へのリプライ]
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記 佐々木啓明
- 特集にあたって
-
マルクスの主著『資本論』は2017年に初版刊行150周年を迎える。本特集は記念すべきこの年にあたり、『資本論』を中心としたマルクスの学説の理論的および現代的意義をあらためて問いなおすことを意図して組まれることになった。「マルクス経済学を、現代における経済学(ポリティカル・エコノミー)のもろもろの流れの基幹的な部分として位置づけ、その資本主義批判および経済学批判の精神を受け継ぐ」(本学会HP)とする経済理論学会にとっても、また労働環境の劣化や格差拡大、低成長などにあえぎ、「行き詰まり」の様相を見せている資本主義の現状からみても、資本のシステムを徹底的に分析した『資本論』の意義を問いなおす試みの必要性は増しているといえよう。
ところで、『資本論』刊行から150年を経たいま、「『資本論』はもう古くなった」という見方や、資本主義の新しい「段階」の把握のためには『資本論』では不十分で、あらたなもろもろの段階論――独占資本主義段階、国家独占資本主義段階、グローバル資本主義段階、等々――が必要であるとして、段階に段階を次々に上乗せすることによって『資本論』の理論的な妥当性を相対化する議論、さらには実質的に否定してしまうような議論は少なくない。
しかし本特集は、『資本論』では現代の資本主義社会は説明できなくなったといった論議をいくつもの視角から繰り返すことを意図するものではない――もちろん、マルクスの時代には見られなかった資本主義経済の新たな現象を考察することの重要性を否定するものではないが――。本特集では、むしろ『資本論』での理論的把握の骨格そのものは現在もなお妥当していること、『資本論』の理論を土台としなければいわゆる「現代的な」諸問題は解明できないということを、各々の論点に即し明らかにすることに主眼をおいた。なぜなら、『資本論』の主題は、資本主義の経済法則ないしその本質の解明を目的としている点で、まさに「現代」とまったく共通の土台をもつのであり、むしろその理論は、ときどきに移り変わる現象をこえて、資本主義の現実分析に不可欠のツールを提供してくれると考えるからである。そこで、本特集は『資本論』の多岐にわたるテーマのなかから論点をしぼり、5名の方にご執筆をお願いした。
(中略)
いうまでもなく本特集で取り上げられたのは、『資本論』の諸々のテーマのなかのごくわずかにすぎず、当然に個々の論文への評価も読者によってわかれるであろう。また、『資本論』の「現代的意義」を示すという点についても十分であるとはいえないし、現在にあっては新古典派経済学を中心とした主流派にたいして、マルクス経済学がどのような意味で対抗軸となりうるのかを明確に示すことが求められてもいる。さらに、マルクスそのものを再考するという研究についても、近年刊行中のMEGAを通じてその理論を正確により深く読み解くことが必要とされている。このように、すこし敷衍するだけでも、マルクス研究者が、したがってまた本学会が担うべき課題は山積しているといえる。本学会の2016年度(第64回)全国大会の共通論題も「21世紀の世界とマルクス――『資本論』150年を迎えるにあたって」であり、本特集と関連するテーマではあったが、これらがきっかけとなってマルクス経済学への関心が高まり、その研究が活性化していくことを期待してやまない。
(宮田惟史)
- 編集後記
-
第53巻第4号の特集は、宮田惟史編集委員の担当による「『資本論』刊行150年と現代」である。執筆者は、掲載順に、佐々木隆治氏、森岡孝二氏、小西一雄氏、斎藤幸平氏、大谷禎之介氏の5名。2017年で『資本論』は刊行150周年を迎える。本特集は『資本論』の現代的意義をあらためて問いなおすことを意図している。より具体的には、『資本論』での理論的把握の骨格そのものは現在もなお妥当しており、『資本論』の理論を土台としなければいわゆる「現代的な」諸問題は解明できないということを、各々の論点に即し明らかにすることを意図している。各論文の論点は順に次のとおり。佐々木氏は、マルクスによる経済学批判の理論的基礎をなす「労働を基礎とする社会把握」の現代的ないし実践的意義を述べている。森岡氏は、『資本論』の「労働時間」章を読みなおし、マルクスの考察は150年後のいまも精彩を失っていないことを論じている。小西氏は、マルクス離れを危惧しつつ、『資本論』における恐慌と信用の理論の真髄はどこにあるのか、またそれは現代資本主義分析においていかなる意義をもつのかを論じている。斎藤氏は、これまで西欧マルクス主義によって無視されてきたマルクスの自然科学への取り組みを『資本論』との関連で検討することにより、エンゲルスとの差異を考察している。大谷氏は、マルクスはアソシエーション(資本主義社会自身が生み出す新社会)をどのように捉えたのかについて,『資本論』におけるマルクスのアソシエーションについての叙述を正確に読み解きながら、その到達点と現代的な意義を明らかにしている。以上、本特集を通じて浮き彫りになるのは、現代において『資本論』の理論的意義は色褪せるどころかむしろ高まっているということである。
本号の投稿論文は、中馬祥子氏、三家本里実氏による2本の論文である。中馬論文は、家事労働論争における労働一元論と二元論の相違点、両者の意義と問題点を再確認した上で、ルービンの抽象的労働概念にまで立ち返り、その批判的検討を通じて人間労働の同等化の根拠を問い直している。三家本論文は、資本主義的に編成された労働過程において、労働者の発揮する自律性とは何かについて、ブレイヴァマンの労働過程分析を通して考察している。
最後に、これまで1年と少々,編集委員を経験して思ったことおよび考えたことを述べさせていただきたい。『季刊 経済理論』の編集委員会は、投稿論文に対してきわめて真摯な態度で臨んでいます。適切なレフェリーの選定、レフェリー・コメントのとりまとめ、審査結果の確定、これらを編集委員が一堂に会して合議で決めております。このような形態は他の学術誌ではあまり見られないと思います。その分、編集委員の責任および負担は軽くはないのですが、やりがいのある仕事だと言えます。今後、編集委員を担っていくのは、現在若手の会員です。したがって、『季刊 経済理論』の発展にとっては、若手の会員が増えていくことが重要です。そのためには、経済理論学会が若手の方にとって魅力ある学会となる必要があります。それと同時に、『季刊 経済理論』の魅力を高めていく必要もあります。これには、編集委員の努力はもちろん、投稿論文自体の質を高めていかなければなりません。とくに若手の方は、『季刊 経済理論』に掲載された論文は自動的に奨励賞の対象となるので、積極的な投稿をお待ちしております。
(佐々木啓明)
- 編集委員
-
委員長
- 坂口明義(専修大学)
副委員長
- 松尾秀雄(名城大学)
編集委員
- 佐々木啓明(京都大学)
- 渋井康弘(名城大学)
- 関根順一(九州産業大学)
- 田中英明(滋賀大学)
- 鳥居伸好(中央大学)
- 西 洋(阪南大学)
- 宮田惟史(駒澤大学)
- 結城剛志(埼玉大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。