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季刊 経済理論 第53巻第3号(2016年10月)◎フェミニスト経済学の最前線
季刊・経済理論第53巻第3号

経済理論学会編

B5判/並製/128頁
ISBN978-4-905261-82-7
本体2000円+税
発行
2016年10月20日

目次

[特集◎フェミニスト経済学の最前線]

  • 特集にあたって  田中英明
  • フェミニスト経済学の現在:「金融化とジェンダー」をめぐる方法的考察  足立眞理子
  • 「マルクス主義とフェミニズムの不幸な結婚」を乗りこえて  梅澤直樹
  • ポスト構造主義 vs. 社会的存在論?:フェミニスト経済学の哲学的基礎をめぐって  山森 亮

[論文]

  • 競争と商業組織  柴崎慎也
  • 『資本論』第3部草稿における「歴史的考察」の再検討:新旧「移行論争」を題材にして隅田聡一郎
  • 活動様態としての資本主義と体系としての資本主義:20世紀特有の用語「資本主義」はどう使われてきたか  高良倉成
  • 日本経済における資本蓄積の様式の変化の要因:日本の非金融・保険業の金融化に着目した実証分析  嶋野智仁

[書評]

  • 鶴田満彦・長島誠一編『マルクス経済学と現代資本主義』  福留久大
  • 程 恩富・胡 楽明編著『経済学方法論(上)(下)』  張 忠任
  • トマ・ピケティ著/山形浩生・守岡 桜・森本正史=訳『21世紀の資本』  宇仁宏幸
  • 堀内健一著『現代日本における銀行資本の蓄積』  小西一雄
  • 諸富 徹編『岩波講座 現代3 資本主義経済システムの展望』  山田鋭夫
  • 松尾 匡著『自由のジレンマを解く:グローバル時代に守るべき価値とは何か』  玉手慎太郎

[書評へのリプライ]

  • 『家事労働とマルクス剰余価値論』に対する書評[評者=佐藤拓也氏]へのリプライ  森田成也
  • 『米中政治経済論』に対する書評[評者=藤木剛康氏]へのリプライ  関下 稔
  • 『再生産・蓄積論草稿の研究』に対する書評[評者=大野節夫氏]へのリプライ  谷野勝明

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  関根順一

特集にあたって

本特集は「フェミニスト経済学の最前線」と銘打っている。この領域に通じているとは言い難い編集担当委員が、なぜこの特集テーマを選択したのか。自らの思考過程を再現するのもなかなか困難だが、2013年に日本学術会議経済学委員会の参照基準検討分科会が公表した「経済学分野の参照基準」素案に対して、日本フェミニスト経済学会幹事会が発表した意見書から受けた感銘が一つの契機となっていることは否めない(本号編集後記で関根委員もこの意見書に言及されている)。

フェミニスト経済学が「新古典派経済学が前提とする合理的選択を行うと仮定される人間観そのものが、すでにジェンダーバイアスを含んでいるという根本的な批判の視点から、伝統的経済学を批判、再構築しようとする試み」であるとするこの意見書は、国際フェミニスト経済学会(IAFFE)成立以降の国際的視野に立った新たな視点を紹介し、「主流派」とされる経済学を相対化しうる多面的な幅広い視点の獲得が大学での経済学分野の教育に不可欠であり、「批判という学問における根本的な力の養成は、それなくしては困難である」と説いている。

これに対して、「主婦」の表記を「主婦(主夫)」と改める程度にしかジェンダーバイアスを理解せず、参照基準の初期の素案では、「合理的経済人」を方法的仮説の域を超えて、むしろ合理的な資産配分に励む「経済人」養成に用いることを経済学教育の「副次的側面」と無邪気に書き連ねる主流派経済学の現状にも、ある種の感銘を受けたものである。

ともあれ、フェミニスト経済学による伝統的経済学の批判、再構築の現場、その最前線は今どこに、どのようにあるのか。そして本学会に集う様々なアプローチはその批判に耐えうるのか、はたまた再構築の共同戦線を形成しえているのか。そうした問いから、本学会の会員として活躍されるとともに、日本フェミニスト経済学会にも貢献してこられた3人の方に執筆をお願いした。(以下略)

(田中英明)

 
編集後記

本号の特集テーマは「フェミニスト経済学の最前線」である。本学会全国大会には毎年、ジェンダーに関する分科会が設けられ、また、これまでの本誌の特集でも福祉や家族、ジェンダーなどフェミニスト経済学に関連の深いテーマが取り上げられたことはあっても、正面からフェミニスト経済学を論じた特集はなかった。多様なフェミニスト経済学の一部の潮流はジェンダー視点から経済学のパラダイムそのものを見直し、その見直しの対象には新古典派経済学はもちろん既存の非主流派経済学も含まれるのかもしれない。それでもフェミニスト経済学との対話を閉ざすことは望ましくない。フェミニスト経済学の主張を正当に評価した上で、問題点があれば、十分な根拠を示して議論することが経済理論の発展にとって有益ではなかろうか。ともあれ、フェミニスト経済学が切り開いた諸問題について積極的な対話と議論が進められるよう、斬新で意欲的な特集を企画された田中英明編集委員に敬意を表したい。

2012年12月、日本学術会議経済学委員会の下に「経済学分野の参照基準検討分科会」が設置され、経済学分野の「参照基準」の作成が始まると、本学会を先頭に多数の学会が意見表明を行い、さらに分科会案の是正を求める署名運動が開始された。是正要求の結果、「参照基準」は経済学教育における多様性を容認する形に修正されたが、本学会に続いて意見表明した学会の中でフェミニスト経済学会は経済学の多様性を否定する動きに強い危機感を表す意見書を発表した。経済学教育における多様性は経済学の多様性に通じる。もっとも、経済学の多様性は決して異なる見解の間での相互批判の否定を意味しない。経済学にはなお未解決な問題があり、問題が解決されない限り、その問題に関して多様な見解の間での対話と議論を認めることが多様性の意味するところであろう。

アベノミクスやTPP、消費増税など時事的な経済問題についても未解決な問題は少なくないが、近年のマスコミ報道を見ていると、多様な見解の表明を封殺するような傾向が強くなっているように感じる。とりわけ私が、その点を強く意識したのは2012年の本学会全国大会の場においてだった。愛媛大学で開かれた第60回大会の共通論題では「大震災・原発問題と政治経済学の課題」をテーマとし、2011年の東日本大震災と福島原子力発電所事故、さらに福島に始まる市民運動について報告がなされた。私は、そこでの報告と討論から、特に原子力発電と原発事故を巡るマスコミ報道がどれほど偏っているかを知ることになった。マスコミ報道は必ずしも正確な事実を伝えておらず、場合によっては「不都合な真実」を隠し、また、実際には多様な見方が可能であるにもかかわらず、一方的な見方のみが存在するかのように説明する。昨今の報道の現状を鑑みるとき、正確な事実に基づいて事実誤認や一方的な見方に反論し、また政府見解や産業界の要請とは異なる多様な見方が存在することを示すことも本学会の重要な役割の1つであるように思う。

最後に編集委員として1年余り、周囲の方々に支えられて、なんとか仕事を続けることができた。特に投稿論文の査読者には電子メールでの事務的な依頼にもかかわらず、快く査読をお引き受け頂いたことに深く感謝申し上げたい。改めて査読者の方々を始め多数の学会員の献身的な貢献により「経済学における批判的研究の公器」は、その任務を果たすことができることを痛感する。

(関根順一)

編集委員

委員長

  • 坂口明義(専修大学)

副委員長

  • 松尾秀雄(名城大学)

編集委員

  • 佐々木啓明(京都大学)
  • 渋井康弘(名城大学)
  • 関根順一(九州産業大学)
  • 田中英明(滋賀大学)
  • 鳥居伸好(中央大学)
  • 西 洋(阪南大学)
  • 宮田惟史(駒澤大学)
  • 結城剛志(埼玉大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。