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季刊 経済理論 第53巻第2号(2016年7月)◎価値論研究の意義と可能性
季刊・経済理論第53巻第2号

経済理論学会編

B5判/並製/122頁
ISBN978-4-905261-81-0
本体2000円+税
発行
2016年7月20日

目次

[特集◎価値論研究の意義と可能性]

  • 特集にあたって  勝村 務
  • 価値論の正統性  奥山忠信
  • 価値概念の再考  岡部洋實
  • 商品価値の内在性:価値重心説批判  小幡道昭
  • 文化経済学における価値概念の役割:享受能力と価値形成過程  阪本 崇

[論文]

  • 生産価格形成の基本構造:固定資本を考慮した三種類の逐次転化手続き  川添正弘
  • 商業資本のもとにおける債務の集積  柴崎慎也

【研究ノート】

  • ベーム=柴田モデルと拡大再生産  西 淳

【海外学界動向】

  • 第24回国際フェミニスト経済学会報告記  足立眞理子

[書評]

  • 伊藤 誠著『経済学からなにを学ぶか:その500年の歩み』  宮澤和敏
  • エリック・へライナー著/矢野修一・柴田茂紀・参川城穂・山川俊和=訳『国家とグローバル金融』  上川孝夫

[書評へのリプライ]

  • 『米中経済と世界変動』に対する書評[評者=涌井秀行氏]へのリプライ  大森拓磨
  • 『マルクス「再生産表式論」の魅力と可能性』に対する書評[評者=宮川 彰氏]へのリプライ  川上則道
  • 『ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼』に対する書評[評者=森岡真史氏]へのリプライ  松尾 匡

経済理論学会第64回(2016年度)大会のご案内  大会準備委員長 後藤康夫

経済理論学会第64回(2016年度)大会プログラム  大会準備委員会

経済理論学会第4回若手セミナーの開催について  原田裕治・大野 隆

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  鳥居伸好

特集にあたって

今号の特集「価値論研究の意義と可能性」は、意外にも、経済理論学会の学会誌が季刊化して『季刊経済理論』となって以来、初めての価値論に関する特集である。「廣松物象化論と経済学」(第48巻第2号)、「マルクス商品論の現代的可能性」(第48巻第4号)、「置塩経済学の可能性」(第50巻第4号)、といった特集には価値論を扱う論考も収められているので、本誌の特集で価値概念が論じられてこなかったわけではないが、価値論を正面から採り上げた特集としては、今回が初めての企画となった。

価値概念は、言うまでもなく、マルクス経済学の根幹をなす基礎概念であり、それを論じる価値論は、マルクス経済学の基礎理論たる経済原論の枢要部分にあたるものと考えられる。

マルクス経済学の価値論は、労働価値論、ないし、投下労働価値説とされ、大きく3つの課題を解き明かすことが期待されていたものと整理することができよう。不断に変動する商品価格の資本主義経済における規制・決定の原理として、その上での搾取の存在を説明する原理として、そして、社会的再生産の資本主義経済における編成の原理として。この3つの原理が価値概念を基礎に説かれるものとされてきたのであった。

しかし、価値と生産価格との関係を問う転形問題は、価値と価格の「次元の相違論」をもたらし、その議論の行き過ぎをとがめる論者も含め、投下労働価値の価格への規制力が厳格に作用するものとはいえないものとみられるようになってきている。また、社会的再生産の投入・産出関係を物量体系で捉える研究によって、労働タームで翻訳した価値量で搾取や再生産を把握することが、必ずしも必要な手続きではないとされてきている。こうした研究動向によって、価値概念や価値論が、魅力的な概念装置とは考えられなくなってきたように思われる。

こうして、価値概念は、経済原論において最も基礎的な概念とされつつも、次第に理論における活躍の場が減じられ、価値論研究も、原論の商品・貨幣・資本を説く部分におけるものなど、特定の論点に重点が置かれるようになってきたのではないだろうか。

そうした中で、価値論を積極的に採り上げて論じようとするならば、マルクス経済学の、あるいは、古典派経済学以来の独特の概念装置としての価値概念の意義を再評価し、その解析力によってマルクス経済学ならではの新たな知見がもたらされるのを期待したいところである。その際、いくつかの点に留意するのが有効であろう。

第1に、価値論の総合性・体系性への留意である。商品・貨幣・資本を説く際に価値概念が重要な意味をもつことはたしかであるが、価値概念は、もともと経済原論のあらゆる場所に顔を出し、用いられてきたものであった。そもそも資本は「増殖する価値の運動体」と定義されるのであって、資本主義経済の構造を論じる以上、原論のどの箇所においても資本のこの定義は常に意識されねばならないはずである。このような視点にたって、たとえば、価値概念の彫?の過程として経済原論を捉え、商品の価値、貨幣の価値、資本の価値、企業の価値、などといった概念の展開を掘り下げていく価値論研究も考えられてよい。

第2に、労働タームや価値によって社会的再生産を語ることの狙いをはっきりさせることである。なぜ労働に関心を寄せるのか。また、価値の関係として再生産を捉えることにより、資本主義経済の「法則による原則の達成」という側面が浮き彫りにできるのかどうか。必ずしも、従来の労働価値論を維持する必要があるわけではないが、継承できる議論は見定めていきたいところである。

第3に、需要の側面の適切な勘案である。価値論には、主として供給条件の面から価値を規定したり、価値内在説を採るなど、需要と供給の出会うところで価格が決まるという市場像を問い直す面があるが、さりとて、価値実現の契機や「市場の胃の腑」論など、市場に価値表現・価値規定が受け容れられるという側面が忘れられてよいわけではない。需要の契機はどのように価値に影響を与えるものと考えるのが適切であるのか。また、効用価値論への批判としての文化経済学の知見にみられるように、需要・享受のありかたの変容を考慮に入れた場合、価値論にはどのような影響が考えられるのか。

思いつくままの留意点の最後の4点目は、指摘するまでもないことではあるが、学史的検討や諸学派の知見との連絡である。スラッファ以来の研究が、マルクス経済学の価値論の有効性に大きな課題を突きつけたように、他の理論の知見に学ぶ必要はあるし、文化経済学や開発・環境などの分野で理論的に考えられていることが有効な補助線を提供することも考えられる。しかし、とりわけ重要なのは、マルクス価値論に至る古典派の価値論が含みもつ豊かな理論的可能性の再評価や、ラスキンなどによる同時代の批判への着目であろう。

このような諸点を踏まえつつ、価値論を再評価し、検討を進めていくことにより、マルクス経済学は、資本主義経済とその市場の構造の解明をより深化させることができるのではないだろうか。(以下略)

(勝村 務)

編集後記

『季刊 経済理論』第53巻第2号の編集後記を執筆するにあたりまして、すべての掲載原稿を拝読しましたが、それぞれの内容の豊富さに驚かされました。編集委員になりましてから、まだ1年にも満たない未熟者で、しかも学会誌にこれまで目を通すことのなかった怠慢者にとりましては、驚きとともに新鮮な刺激を得ることができました。

特集「価値論研究の意義と可能性」は、各執筆者のそれぞれの特徴が窺えまして、言及された内容の豊富さだけではなく、様々な方向での価値理論研究のさらなる展開・展望が示されています。資本主義経済の重要な構成要素となる商品、貨幣、資本が、価値に焦点を当てますと、商品の価値、価値の塊、自己増殖する価値の運動体としてのつながりで捉えられることから、価値理論が経済理論体系において重要な意味をもつことは、疑いの余地はないものと思われます。マルクスの価値理論につきましては、「価値概念を証明する必要がある、などというおしゃべりができるのは、問題とされている事柄についても、また科学の方法についても、これ以上はないほど完全に無知だからにほかなりません。…価値法則がどのように貫徹されていくかを、逐一明らかにすることこそ、科学なのです」(1868年7月11日付マルクスのクーゲルマン宛の手紙『マルクス=エンゲルス全集』大月書店第32巻454頁)というマルクスの意向が気になるところですが、この点も含めて、価値理論研究の進展が期待されます。

マルクスの主著『資本論』初版が刊行されまして、今年で149年になりますので、本年10月15日(土)・16日(日)に福島大学で開催されます経済理論学会第64回大会は、共通論題が「21世紀の世界とマルクス―『資本論』150年を迎えるにあたって―」となっています。マルクスの目をもって21世紀の世界を見るならば、どのように見えるのかが問われているものと思われます。資本蓄積と地球環境問題、経済格差の問題、金融危機など、21世紀に入ってますます深刻化する諸問題に直面して、どのような対処療法を提示することができるかは、区切りとしての150年を振り返るとともに、今後の150年の展望を示すうえで非常に重要な意味を持つものといっても過言ではありません。

150年を振り返り、150年先を見通すうえで、足元をしっかりと見据えることは必要不可欠なことがらといえます。本年5月26日・27日に開催されました伊勢志摩サミットの共同宣言では、世界経済の現状について、「回復は続いているが、成長は引き続き緩やかでばらつきがあり、世界経済の見通しに対する下方リスクが高まってきている」と指摘されています。また、「新たな危機に陥ることを回避するため、適時にすべての政策対応を行う」とされ、「すべての政策手段、金融、財政、構造政策を個別に、総合的に用いる」ことが明記されています。その諸政策の具体的な内容として、市場に出回るお金の量を増やす金融緩和、政府が公共事業などにお金を使う財政出動、規制緩和などの構造改革という「3本の矢のアプローチ」の役割が再確認されていますが、いずれも現代資本主義が不安定な状況にあるということの裏返しにほかなりません。

21世紀に入り、ますます資本主義の不安定性が強まっている状況において、現代資本主義の構造分析の真価が問われているといってよいでしょう。それだからこそ、「マルクス経済学を、現代における経済学(ポリティカル・エコノミー)のもろもろの流れの基幹的な部分として位置づける」本学会の役割が、よりいっそう重要な意味を持つこととなります。この学会誌の影響力にも期待しつつ、『季刊 経済理論』第53巻第2号をお届けいたします。

(鳥居伸好)

 
編集委員

委員長

  • 坂口明義(専修大学)

副委員長

  • 松尾秀雄(名城大学)

編集委員

  • 勝村 務(北星学園大学)
  • 佐々木啓明(京都大学)
  • 渋井康弘(名城大学)
  • 関根順一(九州産業大学)
  • 田中英明(滋賀大学)
  • 鳥居伸好(中央大学)
  • 西 洋(阪南大学)
  • 宮田惟史(駒澤大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。