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季刊 経済理論 第52巻第2号(2015年7月)◎市場移行国における「国家資本主義」をめぐって
季刊・経済理論第52巻第2号

経済理論学会編

B5判/並製/132頁
ISBN978-4-905261-77-3
本体2000円+税
発行
2015年7月20日

目次

[特集◎市場移行国における「国家資本主義」をめぐって]

  • 特集にあたって  酒井正三郎
  • 移行経済と国家資本主義  山田鋭夫
  • ロシアにおける国家資本主義  溝端佐登史
  • ハンガリーが辿り着いた先:国家資本主義3.0  田中 宏
  • 政府能力と企業能力との関係からみる中国の経済成長  宋 磊
  • ベトナムの経済発展:国家資本主義からクローニー資本主義へ・・・・・ド・マン・ホーン

[論文]

  • 途上国における多国籍企業と地場企業の技術格差  武田壮司
  • 労働過程の変容と公平性理念の変化:経済実験によるアプローチ  宇仁宏幸・徳丸夏歌

[海外学界動向]

  • 第9回世界政治経済学会に参加して  横川信治

[書評]

  • J.A.クレーゲル著/横川信治監訳『金融危機の理論と現実:ミンスキー・クライシスの解明』  二宮健史郎
  • 菊本義治・西山博幸・本田 豊・山口雅生著『グローバル化時代の日本経済』  海野八尋
  • Hiroaki SASAKI著, “Growth,Cycles,and Distribution: A Kaleckian Approach” 西 洋
  • 相田愼一著『ゲゼル研究:シルビオ・ゲゼルと自然的経済秩序』 結城剛志
  • アラン・リピエッツ著/井上泰夫訳『グリーンディール:自由主義的生産性至上主義の危機とエコロジストの解答』
  •   山川俊和
  • 塩沢由典著『リカード貿易問題の最終解決:国際価値論の復権』  佐藤秀夫
  • 小西一雄著『資本主義の成熟と転換:現代の信用と恐慌』  建部正義

[書評へのリプライ]

  • 『市場経済という妖怪』に対する書評[評者=片桐幸雄氏]へのリプライ  永谷 清
  • 『価値論批判』に対する書評[評者=武田信照氏]へのリプライ  小幡道昭

経済理論学会第63回(2015年度)大会のご案内  大会準備委員長 石倉雅男

経済理論学会第63回(2015年度)大会プログラム  大会準備委員会

経済理論学会 第3回 若手セミナーのお知らせ  佐藤良一・大野 隆

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  姉歯 曉

特集にあたって

「国家資本主義」論は古くて新しいテーマである。古くはロシア革命当時、資本主義から社会主義への過渡期の政治経済体制としてレーニンらによって定義づけが行われたし、近年ではリーマン・ショックによる市場のメルトダウンの発生以降、政府が経済活動に介入し、コントロールする体制を意味するものとして盛んに使用されている。近年の「国家資本主義」論興隆の大きなきっかけとなったのは、イアン・ブレマー『自由主義の終焉―国家資本主義とどう闘うか』(日本経済新聞社、2011年)である。

ブレマーが「市場自由資本主義(Free Market Capitalism)vs 国家資本主義(State Capitalism)」というテーマのもとで描いた「国家資本主義」は、有効需要の創出や需給管理のために、政府が一時的な介入を行うケインズ主義的経済体制とは根本的に異なる。そこでは、企業は国家の庇護の下で政府当局による長期的戦略に基づいて運営され、国益あるいは支配層が自らの利益を最大化させる手段となっている。ブレマーは、こうした資本主義がいまや「湾岸」からロシア・中国・ブラジル・アフリカの一部地域までを席巻していると描いた。とりわけ、英『エコノミスト』誌(2012年1月21日号)が「国家資本主義」をその特集として取り上げて以来、非欧米的な国家主導の資本主義の典型と規定されたロシア、中国およびブラジルにおいては、21世紀に入って高成長が実現され、その躍進は世界経済の構造変化をリードして来たばかりでなく、ほかの発展途上国に対して一つの可能な開発モデルを示したとして大いに注目を集める存在となっている。

本特集は、市場移行国であるロシア・中東欧諸国・中国・ベトナムにおける「国家資本主義」の理論(論争)と実態を体系的にレビューし、そこから「国家資本主義」体制の現代世界経済システムにとってのインプリケーションを検証し、さらにこの「体制」そのものの持続可能性について考察しようとするものである。(以下略)

(酒井正三郎)

編集後記

『季刊 経済理論』第52巻第2号の特集は、世界経済のなかで、急速にそのプレゼンスを強めている中国をはじめ、ロシア、ハンガリー、ベトナムといった「市場移行国」をとりあげ、「国家資本主義」という視点からこれらの国々の性格付けを行おうとするものです。「国家資本主義」をめぐる議論の変遷については、山田鋭夫会員の「移行経済と国家資本主義」で追うことができます。

かつてソ連崩壊というイベントを経験した当時、それが「資本主義の勝利」を示すものなのかが議論の的となりました。さらに、「あのソ連時代」をどう位置付けるのかをめぐって議論が交わされ、そしてその決着はいまだについていないと私は理解しています。あれから20年以上の時を経て、私たちは、現在の「市場移行国」に対して「資本主義か社会主義か」といった単純な問いかけを行うだけに終わらせず、もっと丁寧にこれらの国々、地域の現状を歴史的視点から分析する必要があること、そこに混在する様々な要素とその絡み合いを分析するべきであることを、ロシア(溝端佐登史会員)、ハンガリー(田中宏会員)、中国(宋磊会員)、ベトナム(ド・マン・ホーン氏)の分析は示しています。それぞれの国は、たった一つの性格に収斂させられない複合的性格を内包しているのであって、その実態を明らかにするためには歴史分析が欠かせないことを、それぞれの論文は明らかにしています。

2年前に日本学術会議の「参照基準」で「国際的通用性」なる言葉が用いられたことは記憶に新しいところです。しかし、「国際的」とは何を想定しているのか、いわゆるグローバルスタンダードとはどこの、そして誰のためのものなのか?これだけ多種多様な歴史と現状を呈する地域が混在しているなか、こうした疑問を持たなくなった時点で経済学は思考停止状態に陥り、やがて科学ではなくなるわけです。

今年度、一橋大学で開催される第63回大会のテーマは「資本主義の今後と政治経済学の課題」です。「今後=どこへ行くのか」を予測するためには「どこから来たのか」を検証する、その作業はいわば社会科学の「科学」たる根本です。

2008年に表面化した金融危機、これを発端として世界中に広がったオキュパイ・ムーブメントのさなか、集会で「99% 対1%、We are 99%」という有名なフレーズとともに衆目を集めた言葉は「資本主義の終焉」でした。当時、UCバークレイにいた私の周りでは、公民権運動を含めて、かつて集会で「資本主義」という言葉が発せられたことはないのではないかとささやかれていました。「99% 対1%」の理論的根拠を提示したのがバークレイのサエズとピケティの研究だったことは周知の事実です。長期時系列統計それも多国間にまたがる統計分析で組み立てられたピケティの著書『21世紀の資本』は世界中でベストセラーとなりました。彼が提示した「格差解消のための策」については、マルクス経済学の側からも新古典派経済学の立場からも様々な批判検証があるとはいえ、多くの人々があの金融危機を経験し多様な形での貧困の拡大と深化を前にして現代の「資本」論を渇望していたからこその、その販売部数であったことは明らかです。政治経済学が真正面から取り組むべき現実課題は多く、その意味でも経済理論学会の存在意義はますます大きくなっていると考えます。

一方、戦後70年を経て歴史修正主義的圧力にさらされている日本の歴史研究者に向けて、ジョン・ダワーやロナルド・ドーアなど海外の著名な日本研究者による支援の「声明」が出され、多くの研究者がこれに署名しました。大学の自治、学問の多様性が脅かされている現在、海外の研究者との連帯は極めて重要となっており、その意味でも、アジア、アフリカ諸国の研究者を含む交流がさらに広範に拡大していくことが望まれます。

  (姉歯 曉)

編集委員

委員長

  • 竹内晴夫(愛知大学)

副委員長

  • 坂口明義(専修大学)

編集委員

  • 姉歯 曉(駒澤大学)
  • 大野 隆(立命館大学)
  • 勝村 務(北星学園大学)
  • 酒井正三郎(中央大学)
  • 田中英明(滋賀大学)
  • 西 洋(阪南大学)
  • 藤田真哉(名古屋大学)
  • 矢吹満男(専修大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。