- 季刊 経済理論 第51巻第4号(2015年1月)◎脱工業化・サービス化と現代資本主義
- 目次
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[特集◎脱工業化・サービス化と現代資本主義]
- 特集にあたって 原田裕治
- サービス化の理論的メカニズムとその経済成長への含意 佐々木啓明
- 脱工業化の理論と先進諸国の現実:構造変化と多様性 植村博恭・田原慎二
- 先進諸国における1980年代以降の雇用構造変化:サービス化と管理・専門職化 宇仁宏幸
- サービス経済化と所得分布の変化 山口雅生
[論文]
- シルヴィオ・ゲゼルの社会主義論と地域通貨の思想 伊藤 誠
- 金融化が日本経済の資本蓄積に与える影響に関する実証分析:日本企業における「株主価値志向」浸透の観点から 嶋野智仁
- 負債荷重、確信、金融の不安定性と循環 二宮健史郎
[書評]
- サミュエル・ボウルズ著/佐藤良一・芳賀健一訳『不平等と再分配の新しい経済学』 佐藤 隆
- 涌井秀行著『ポスト冷戦世界の構造と動態』 増田壽男
- 八尾信光著『21世紀の世界経済と日本:1950‐2050年の長期展望と課題』 鶴田満彦
- 大谷禎之介・平子友長編『マルクス抜粋ノートからマルクスを読む:MEGA第IV部門の編集と所収ノートの研究』 田畑 稔
- 村上和光著『経済学原理論を読む:宇野原理論体系の構造と問題点』 栗田康之
- アンドレ・オルレアン著/坂口明義訳『価値の帝国:経済学を再生する』 海老塚 明
[書評へのリプライ]
- 『ひと・まち・ものづくりの経済学』に対する書評(評者:村上研一氏)へのリプライ 十名直喜
- 『労働証券論の歴史的位相』に対する書評(評者:伊藤 誠氏)へのリプライ 結城剛志
- 『続・ワルラシアンのミクロ経済学』に対する書評(評者:山下裕歩氏)へのリプライ三土修平
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記 大野 隆
- 特集にあたって
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日本における製造業の比重はこの四半世紀ほどで着実に低下している。その雇用シェアを見てみると、1980年から1990年代初頭までは22〜23%程度を安定して占めていたが、その後は徐々に低下し2009年には16%程度となっている。他方第3次産業(サービス業)の雇用シェアは、1980年代以降ほぼ一貫して上昇し 2009年には70%を超えるまでになっている(内閣府)。
このような製造業の比重低下は、脱工業化 de-industrializationと呼ばれ、その裏面の変化として生じるサービス業部門の比重上昇は、サービス化と一般的に呼ばれる。両者は先進諸国に共通して観察される現象である。ヨーロッパでは、脱工業化をめぐる議論が70〜80年代に活発に繰り広げられた。当時、同地域では脱工業化が進行する一方で、資本蓄積の停滞や失業率の上昇といった経済パフォーマンスの悪化が見られ、両者の関係を問う議論が多く提起されたのである。
日本において脱工業化が顕著に進行した90年代以降を振り返ると、経済成長率の低下や失業率の上昇といったマクロ経済指標の悪化に加えて、所得格差の拡大や非正規雇用の増加といった経済問題に直面している。しかしながら、こうした問題を脱工業化・サービス化といった構造変化の問題を明確に結びつけて分析する議論は、日本において十分展開されてこなかったように思われる。
こうした状況を受けて本特集は、資本蓄積の動態、職業や雇用の形態、そして所得分配と、脱工業化・サービス化(構造変化)との関係を、政治経済学の視点からどのように理解できるかを問うべく、4つの論考を寄せていただいた。(以下略)
(原田裕治)
- 編集後記
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第51巻第4号をお届けします。
本号の特集は、脱工業化・サービス化の影響について、理論的、実証的なアプローチから様々な検討を行っています。特に、戦後先進国経済におけるサービス化への移行が、生産性の低下や構造的停滞をもたらしたと指摘されつつも、近年、学会の論題としてあまり議論されていない印象もありましたので、非常に興味深い特集論文になっています。
さて、編集後記で学会幹事でもない私が以下のようなことを書くのは憚れるかもしれませんが、現在、経済理論学会の大きな課題の一つとして、会員数の減少があげられます。私が大学院生の頃は1000人を超えていた会員数は、先日の学会の報告では900名を切り、若手育成が急務になっています。この最中、経済理論学会本大会の前日行われる「若手セミナー」の企画運営に携わる機会をいただきました。海外の同様の若手セミナーの場合、5日間の合宿形式をとっているサマー・スクールもあれば、1日だけのレクチャーで、ほぼ同じ内容を毎年行っているケースもあります。経済理論学会は、マルクス経済学およびその周辺部を研究領域とした学会でありますが、テーマは幅広く、その分析ツール・方法も多様な状況です。その良い面とともに、裏を返せば、蛸壺化が生じる可能性を否定できません。この状況下では、継続的に多方面のフロンティアを概観し、若手会員の知の共有を目的にしたほうが良いと考えました。
その考えのもと、第1回の2013年度は、マルクス経済学の数理化をテーマに、佐藤隆会員、吉原直毅会員に、そのフロンティアを紹介していただきました。第2回の2014年度はMEGAの現状と課題をテーマとして竹永進会員、佐々木隆治会員によって、MEGA第II部門の『資本論』関係草稿が刊行されたことを受け、マルクス研究の課題とその可能性をテーマに論じて頂きました。両テーマとも、経済理論学会で長い間議論され、『季刊経済理論』の特集号でも展開されていますが、若手セミナーとしても展開する必要性があったと思います。これらの他にも、様々なテーマが考えられます。このような企画の継続化とともに、多くの若手研究者の視野を広めてもらう意味も込めて、積極的に参加していただければ幸いです。
また、若手育成を目的とする他の企画として、一橋大学の吉原直毅会員が中心となったSummer School on Analytical Political Economyが2011年から毎夏開催されています。4日間にわたり、マルクス経済学、ポストケインズ派経済学、規範理論だけではなくミクロ経済学やマクロ経済学の講義を行い、新古典派経済学との対比の中でPolitical Economyの意義を展開しています。当初はポスドク・院生を中心としたサマー・スクールでしたが、近年は学部生の参加も目立ってきています。是非、会員諸氏が担当する大学院生・学部生に広く周知していただければ幸いです。このような活動を通じて、Political Economyの問題意識に共感し、大学院進学を決意し、次世代を担う研究者が誕生するのを願うばかりです。
最後に、私事ばかりで大変申し訳ありませんが、先日の学会では経済理論学会奨励賞を頂きました。論文に対する評価であるとともに、叱咤激励であると受け止め、微力では有りますが、今後も経済理論学会に貢献できるよう最善の努力をしてまいります。今後とも皆様のご指導ご鞭撻を心よりお願い申し上げます。また、編集委員の期間中、無理難題に快く応じていただいた査読者、特集論文執筆者、書評者の皆様には厚く御礼申し上げます。編集委員を降りた暁には、投稿者として『季刊経済理論』を盛り上げて行きたいと思います。
(大野 隆)
- 編集委員
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委員長
- 遠山弘徳(静岡大学)
副委員長
- 竹内晴夫(愛知大学)
編集委員
- 姉歯 曉(駒澤大学)
- 大野 隆(立命館大学)
- 勝村 務(北星学園大学)
- 酒井正三郎(中央大学)
- 田中英明(滋賀大学)
- 原田裕治(福山市立大学)
- 藤田真哉(名古屋大学)
- 矢吹満男(専修大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。