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季刊 経済理論 第51巻第2号(2014年7月)◎MEGA第U部門(『資本論』とその準備労作)研究の現在:第U部門の完結にあたって
季刊・経済理論第51巻第2号

経済理論学会編

B5判/並製/128頁
ISBN978-4-905261-73-5
本体2000円+税
発行
2014年7月20日

目次

[特集◎MEGA第U部門(『資本論』とその準備労作)研究の現在:第U部門の完結にあたって]

  • 特集にあたって  前畑憲子
  • 「資本の一般的分析」としての『資本論』の成立:MEGA第U部門の完結にあたって  大谷禎之介
  • MEGA所収諸版にもとづく『資本論』第1巻の新テキスト版:読みやすく信頼できる版を編纂する
      トーマス・クチンスキー/訳=大谷禎之介
  • 『資本論』第2部について:スミス・ドグマ批判によるマルクス再生産論の形成  宮川 彰
  • 『資本論』第3部第3篇草稿の課題と意義  宮田惟史
  • 「マルクス信用論」における草稿研究の意義  小西一雄

[論文]

  • 恐慌の両極性:市場における恐慌の基礎  江原 慶
  • J. R. コモンズの累積的因果連関論:『制度経済学』と1927年草稿の比較分析  宇仁宏幸
  • 産業連関表を用いた置塩利潤率の計算による資本労働関係の分析:
      2000年代初めにおける日本経済の構造変化の抽出  田添篤史
  •  
 

[書評]

  • ロベール・ボワイエ著/山田鋭夫・植村博恭訳『ユーロ危機:欧州統合の歴史と政策』 伊藤 誠
  • 小幡道昭著『価値論批判』  武田信照
  • 秋山誠一著『国際経済論』  水島多喜男
  • 熊沢 誠著『労働組合運動とはなにか:絆のある働き方をもとめて』  橋本健二
  • 十名直喜著『ひと・まち・ものづくりの経済学:現代産業論の新地平』  村上研一

[書評へのリプライ]

  • 『自由主義と社会主義の規範理論:価値理念のマルクス的分析』に対する書評(評者:青木孝平氏)へのリプライ  松井 暁

経済理論学会第62回(2014年度)大会のご案内とプログラム  大会準備委員会

経済理論学会「第2回 若手セミナー」のお知らせ  佐藤良一・大野 隆

経済理論学会ラウトレッジ国際賞(JSPE International Book Prize)の創設  八木紀一郎

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  矢吹満男

特集にあたって

2012年9月にMEGA(Marx/Engels Gesamtausgabe マルクス=エンゲルス全集)第U部門「『資本論』とその準備労作」(全15巻,23分冊)が完結した。

第1巻第1分冊『経済学批判要綱(1857/58年)』が刊行されたのが1976年であったから、第U部門の完結まで実に36年が経過したことになる。その間,1989年から始まった「現存社会主義」諸国の激変のなかで,「第2次MEGA」の刊行主体であったソ連および東独の両マルクス=レーニン主義研究所の解体が避けられないものとなり,刊行事業は危機に直面した。しかし,アムステルダムの社会史国際研究所などの関係者による事業存続のための迅速な行動によって,1990年5月に新たな刊行主体「国際マルクス=エンゲルス財団」が設立され,その後さらに,MEGA編集がベルリン=ブランデンブルク科学アカデミーのプロジェクトに採用されて,とりあえず2015年まで編集および刊行が継続できることになった。本学会の関係者を含む日本の研究者の編集作業への関わりは,本誌第42巻第4号の特集「『資本論』草稿研究の現在:新メガの編集・刊行とその成果」の「特集にあたって」(竹永進会員執筆)でもすでに紹介されている。MEGAの刊行継続にかかわってこられた方がた,さまざまな困難を乗り越えて編集作業を続けてこられた皆さんに,この場を借りて,MEGAの一読者としての感謝の意を表したい。

MEGA第U部門には,本学会の会員にとって必須の諸文書が収められている。その内容は次のとおりである。まず,マルクスおよびエンゲルスによって刊行された『資本論』のすべての版が収録されている。さらに,『資本論』の準備労作として,第1巻には『経済学批判要綱』を含む7冊のノート(「1857-1858年の経済学諸草稿」),第2巻には『経済学批判 第1冊』とそれの草稿である『経済学批判 原初稿』,そして第3巻には『剰余価値学説史』を含む「1861-1863年草稿」がそれぞれ収められており,また,『資本論』第2部および第3部の草稿を含む「1863-1865年の経済学諸草稿」は第4巻に,『資本論』第2部用諸草稿(第2稿〜第8稿)は第11巻に収められ,第12巻には,エンゲルスによる『資本論』第2部編集用原稿が,そして第14巻には第3部関連のマルクスの諸草稿と第3部編集の過程でエンゲルスが作成した諸草稿がそれぞれ収められている。MEGA第II部門の完結によって,マルクスが遺した『資本論』とその準備労作のすべてに依拠しながら『資本論』研究の深化を図ることが可能となったのである。

MEGAにかかわるこれまでの議論は,ほぼ,次の5点にまとめることができるであろう。@ マルクス諸草稿の執筆順序に関する研究。A『資本論』成立史に関する研究。B いわゆるマルクス・エンゲルス問題についての研究。C エンゲルスによる編集に関する研究。D『資本論』第1部〜第3部諸草稿そのものについての研究。

以上に挙げたものはもちろん相互に関連しているが,それぞれ独自の解明すべき問題を有している。@についてみると,MEGA諸巻はマルクスのすべての文書をできるかぎり時間軸に沿って配列するという原則にもとづいて編集されているから,第II部門が完結したいま,諸草稿の執筆順序はとりあえず確定されたとみてよいであろう。また,Aについては@の議論との関連で,B,Cについてはエンゲルス編集の現行版『資本論』とマルクスの諸草稿との比較というかたちで,主としてMEGA編集に携わった研究者の間で研究が進んできた。しかし,Dの『資本論』のマルクスの諸草稿それ自体についての研究は,以上の諸問題の検討と比較しても相対的に立ち遅れているのではないだろうか。エンゲルスの編集はマルクスの真意を汲み取ることができているのだろうか。B,Cの諸問題も,Dの問題の検討なしには十分に解明することはできないであろう。

MEGA第U部門が完結したいま,われわれはマルクスの諸草稿をどこまで読み切れているのか,今回の特集はこれをテーマにして,5人の方に執筆をお願いした。(以下略)

(前畑憲子)

編集後記

本号の「特集」は、1976年に始まったMEGA第U部門全15巻(23分冊)刊行が、36年の時を経て2012年9月に完了したことを記念して編まれた。この記念すべき「特集」の編集の一端に関わる機会に恵まれたことに編集子は一定の感慨を禁じ得なかった。

編集子は修士論文のテーマを『資本論』形成史研究に定め、当時翻訳刊行されつつあった旧マルクス・エンゲルス全集に基づいて、「『資本論』成立過程におけるマルクス「経済表」の意義」(『土地制度史学』第61号、1973年)を発表した。その後問題関心は恐慌論研究から1970年代当時世界的に大問題であったスタグフレーション研究へ、さらにアメリカ資本主義の構造変化へと移行した。

そのため『資本論』草稿や成立史研究から長らく遠ざかっていたが、MEGA第U部門完結を記念した特集を提案された前畑憲子編集委員を補佐し、編集後記を書く役割を編集委員長より命じられたため、手元に保管されていながら、これまで立ち入る余裕のなかった『資本論』草稿関係の資料を読み返した。大村泉ほか「?連載?新メガ(『資本論』第3巻草稿)の研究」(『経済』1997年1月〜6月)、大村泉「新メガ(MEGA)編集の現況」(『経済』1997年3月)、「シンポジウム 『資本論』草稿とマルクス・エンゲル研究(上)(下)」(『経済』1997年7、8月)、大村泉ほか「日本人研究者によるMEGA編集」(東北大研究年報『経済学』2003年3月)、大谷禎之介「日本における新メガの編集」(『経済』2003年5月)、大野節夫「新メガ第U部門第12巻編集の現段階」(同上)、「座談会 エンゲルスの「『資本論』第2巻の編集原稿」をめぐって:新メガ第U部門第12巻の日本での編集作業を終えて(上)(下)」(『経済』2004年11月、12月)、「特集 『資本論』草稿研究の現在:新メガの編集・刊行とその成果」(『季刊 経済理論』第42巻第4号(2006年1月)である。

これによってMEGA編集上の大変なご苦労と共に日本の多数の研究者の貢献を再認識した。1888年1月2日森鴎外はベルリンで「いつかは日本の研究活動の成果がヨーロッパに輸出されるようになる」と演説したが、2004年3月大村氏はベルリンに完成したメガ第U部門第12巻の原稿を持参した際のセレモニーで「鴎外が演説してから116年になるが、今日ようやく鴎外の夢を実現することができました」(「座談会 エンゲルスの「『資本論』第2巻の編集原稿」をめぐって下」(『経済』2004年12月、170頁)と挨拶し、拍手を浴びたとのことである。多数の研究者のご尽力によって、これまで刊行された『資本論』各版に加え、マルクス自身の『資本論』に関する草稿を全て読むことが出来るようになったのである。本特集の大谷稿が指摘しているようにこれらの「材料を使いこな」し、研究を更に深化させる必要性を痛感した。

MEGA第U部門の刊行が始まった1970年代はスタグフレーションが深刻化し、経済理論学会もその理論的解明に精力的に取り組んだ。その後資本主義はスタグフレーションへの対応の過程で大きく構造変化した。IT化と共に生産のアジア化→グローバリゼーションが深化した。1971年の金・ドル交換停止をきっかけに金融化が進展した。こうした過程で戦後循環の安定化の基盤でもあった中流層が衰退し、経済格差が拡大した。バブルが繰り返されるようになった。MEGA第U部門全15巻の刊行完了に合わせるかのように、アメリカの住宅バブル崩壊をきっかけとするリーマンショックで「サブプライム・世界経済危機」が発生した。1929年大恐慌以来の危機である。本特集の小西稿も強調しているように、MEGA第U部門を踏まえて経済危機を分析し、その研究成果を世界に発信することが今求められている。                               

(矢吹満男)

編集委員

委員長

  • 遠山弘徳(静岡大学)

副委員長

  • 竹内晴夫(愛知大学)

編集委員

  • 大野 隆(立命館大学)
  • 勝村 務(北星学園大学)
  • 酒井正三郎(中央大学)
  •    
  • 原田裕治(福山市立大学)
  • 藤田真哉(名古屋大学)
  • 前畑憲子(立教大学)
  • 矢吹満男(専修大学)
  • 吉村信之(信州大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。