- 季刊 経済理論 第51巻第1号(2014年4月) ◎グローバル経済の地殻変動をどうとらえるか
- 目次
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[特集◎グローバル経済の地殻変動をどうとらえるか]
- 長期経済統計から見た21世紀の世界経済
- --1950〜2100年の長期展望と経済・社会の課題 八尾信光
- オイルとカーの経済構造--衰退と拡散 岩ア徹也
- 世界経済の構造転換と新興経済 平川 均
[特別寄稿]
- 列強としての中国とインドの台頭 ロバート・ローソン/訳=横川信治
研究ノート
- 星野恐慌モデルの大域的運動と実質賃金率の決定 熊澤大輔
[書評]
- 石倉雅男著『貨幣経済と資本蓄積の理論』 横川信治
[書評へのリプライ]
- 『資本主義はどこへ向かうのか』に対する書評(評者:山田鋭夫氏)へのリプライ 西部 忠
- 『マルクス経済学方法論批判』に対する書評(評者:田中英明氏)へのリプライ 小幡道昭
- 『接客サービスの労働過程論』に対する書評(評者:竹永 進氏)へのリプライ 鈴木和雄
- 『21世紀型の多国籍企業』に対する書評(評者:井上 博氏)へのリプライ 関下 稔
- 『ウィリアム・モリスのマルクス主義』に対する書評(評者:池上 惇氏)へのリプライ 大内秀明
経済理論学会第61回大会報告
経済理論学会第61回大会報告(英文)
経済理論学会第61回大会分科会報告
経済理論学会2013年度会務報告 代表幹事
- <資料1>経済学分野の教育「参照基準」に対する学術会議経済学委員会あて要望書
- <資料2>経済学分野の教育「参照基準」の是正を求める全国教員署名
第4回(2013年度)経済理論学会奨励賞 八木紀一郎
第5回(2014年度)経済理論学会奨励賞募集要項 選考委員会
2014年度経済理論学会第62回大会の開催について 大会準備委員会
『季刊 経済理論』掲載論文のインターネット公開について 経済理論学会事務局
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記 遠山弘徳
- 編集後記
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2008年の金融危機以降、先進諸国の経験については、成長、雇用、所得の平等、どれをとっても悲観的な評価以外聞こえてきません。
金融システムが崩壊の瀬戸際に追い込まれた直後は、金融機関のバランスシートのダメージがあまりに広範囲に及ぶため、循環的回復を支持する見解は当然のごとく後退しました。しかし、レバレッジの低下が進行しつつある今でも、成長に与える効果はわたしたちを落胆させる水準にとどまっています。アメリカのGDP成長はその潜在的成長を大きく下回っていますし、日本やヨーロッパの成長は見る影もありません。
それ以上に深刻なのは雇用です。雇用は依然として低水準であり、GDPの回復に大きく遅れています。2008年の危機以前から先進国の大半において、貿易財セクターが生み出す雇用は限られたものとなりつつありました。これは部分的には非貿易財セクターの雇用増によって解決されていた問題でしたが、今では、低付加価値セクターの雇用は途上国に移りつつあり、長期的には悲観的な姿が浮かびます。
所得分配についても、その負のトレンドは危機以前に遡ることができますが、危機後も拡大し続けています。経済的不平等に対する不安は、GDP成長の果実が所得分布の上位に集中しているアメリカのみならず、ほとんどの先進国において広まっているようです。多くの新興経済諸国が成長したおかげで各国間の不平等は以前に比べ低下しました。今日、不平等問題の焦点は、むしろ、国内にあると言えるかもしれません。富の偏在が高まり、世代間の経済的地位の流動性を低下し、政治的な、あるいは社会の一体感が脅かされています。
2008年の金融危機以降の先進諸国の経験をどのように評価しようとも、確実に言えることはその経験がグローバリゼーションのもたらす果実に対する懐疑を強める結果に終わった、ということです。
今回お届けする第51巻1号は経済理論学会第61回大会特集号です。本号は、同大会の共通テーマ「グローバル経済の地殻変動」において報告された3本の論考およびRobert Rowthorn氏の特別寄稿を掲載しています。八尾信光氏の論考は長期歴史的な視点から現代経済変動を俯瞰した上で、民主的な福祉社会、新興諸国の台頭を踏まえた世界統治システムの構築を提唱しています。続く岩ア徹也氏はオイルとカーを中心としたモデル--耐久消費財量産型重化学工業を基軸とする成長--が先進国において行き詰まったとみる一方、現状はそうした経済構造が新興国へと拡散していく大きな流れの中の局面にすぎないと主張されています。平川均氏は新興経済とりわけ東アジアに焦点をあて、アメリカ主導の世界経済が構造転換を迫られつつあり、そしてそうした変化のドライバーがポブメス(PoBMEs: Potentially Bigger Market Economies)と呼ぶ新興経済にあるという議論を展開しています。 ローソン氏の論考は中国とインドが、現状では「不完全な大国」であるものの、直面する障害を克服していけば、中国が、そして中国よりも長い時間を要するとしても、インドもグローバル大国へと躍り出るだろうとの見解を示しています。
4つの論考に共通に描かれるグローバル経済像は、先進経済諸国の行き詰まりと同時に、中国とインド、より広くは新興経済国の台頭です。
Dani Rodrikはその著書“The Globalization Paradox”の中でグローバリゼーションのもたらす問題の根幹が世界経済の政治的トリレンマ--民主主義、国家主権および経済的グローバリゼーションを同時に達成することはできない―?にあるというアイデアを展開しています。国際金融のトリレンマよろしくいずれか1つを放棄せざるをえない、というのが彼の主張です。これにしたがえば、各国がグローバリゼーションの果実を享受し続けるとすれば、民主主義の放棄(新興諸経済の経路?)、あるいは国家主権の放棄(グローバルなガバナンスの構築)ということになりそうです。いずれの方向に向かうにしても、本号の特集「グローバル経済の地殻変動」はグローバル経済を考える上で、読者のみなさんに有益な出発点を提供しうるものと思います。
(遠山弘徳)
- 編集委員
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委員長
- 遠山弘徳(静岡大学)
副委員長
- 竹内晴夫(愛知大学)
編集委員
- 大野 隆(立命館大学)
- 勝村 務(北星学園大学)
- 酒井正三郎(中央大学)
- 原田裕治(福山市立大学)
- 藤田真哉(名古屋大学)
- 前畑憲子(立教大学)
- 矢吹満男(専修大学)
- 吉村信之(信州大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。