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季刊 経済理論 第50巻第4号(2014年1月) ◎置塩経済学の可能性
季刊・経済理論第50巻第4号

経済理論学会編

B5判並製/130頁
ISBN978-4-905261-71-1
本体2000円+税
発行
2014年1月20日

目次

[特集◎置塩経済学の可能性]

  • 特集にあたって 大野 隆
  • 置塩『蓄積論』再考 中谷 武
  • マルクス的経済理論における置塩(1963)以降の進展:搾取理論の場合 吉原直毅
  • 物象の世界と人間の世界の二重の把握:労働価値概念純化への置塩の道を進めて 松尾 匡
  • 置塩経済学と森嶋経済学 森岡真史

[論文]

  • 機械体系による生産:ナッシュ均衡 関根順一
  • アメリカ経済の金融化と企業金融:企業と金融機関との関係に注目して 小林陽介

[書評]

  • 楊枝嗣朗著『歴史の中の貨幣:貨幣とは何か』 大友敏明
  • 金江 亮著『マルクス派最適成長論』 川口和仁
  • 森岡真史著『ボリス・ブルツクスの生涯と思想:民衆の自由主義を求めて』 斉藤日出治
  • 井手英策著『財政赤字の淵源:寛容な社会の条件を考える』 岡本英男
  • 鳥居伸好・佐藤拓也編著『グローバリゼーションと日本資本主義』 飯田和人
  • SGCIME編『増補新版 現代経済の解読:グローバル資本主義と日本経済』 板木雅彦
  • 建部正義著『21世紀型世界経済危機と金融政策』 米田 貢

[書評へのリプライ]

  • 『マルクスの物象化論』に対する書評(評者:神山義治氏)へのリプライ 佐々木隆治

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  藤田真哉

特集にあたって

今年で没後十年となる置塩信雄は、「マルクスの基本定理」や「置塩定理」など、マルクス経済学を数理化して主流派経済学とも対話可能にした功績で世界に知られている。特に『蓄積論』『資本制経済の基礎理論』『マルクス経済学(T)(U)』は、それらの功績を示す代表的な著作であり、マルクス理論の数理化による厳密性の担保とともに、広くマルクス経済学の意義を経済学全域にわたって広めた。さらに、ケインズ理論を中心として新古典派経済学においても多大な業績と学問的貢献を残している。その代表作として、『現代経済学(T)(U)』がある。置塩のこれらの研究の根底には資本制経済に対する幅広い問題意識が内在しているといってよいであろう。それ故、これほどまで幅広い学問的領域において多大な功績を残した置塩の著作を読むことは、単なる先行研究の追認として意味をもつだけではなく、現在においても、さらなる研究のヒントを得ることが、特に経済理論学会の会員にとって、多くあるであろう。

しかし、置塩の著作の中には、既に30年を経過したものが多数あり、その間の経済学の発展、そして経済情勢の変化に対応しきれていない箇所が多々ある。そのため、近年、置塩の仕事と現代の学問的傾向に若干の距離が生まれつつある箇所が目につく。また、私事で申し訳ないが、神戸大学の大学院を出たにもかかわらず、私が学会に参加し始めた時には、置塩はすでに体調の関係から学会に出られなくなり、結果として一度もお目にかかっていない。そのため、置塩の問題意識や経済理論を基礎とした研究を直接知らずにいる。若い会員諸氏ほどこの傾向が強いであろう。もちろん、これらの代表的な著書だけではなく、置塩の研究をまとめたもの(『経済学と現代の諸問題』)や置塩を受け継いだ研究からも、置塩の問題意識および論点を知ることはできる。しかし、置塩の問題意識の現代への適応可能性、および理論体系の発展の方向性といった点が、資本制経済を考察する体系として有用である部分が多々あるにもかかわらず、体系的にまとめられていなかった故に、展望が描きにくいのも事実である。 そのため、置塩の問題意識、現代的可能性について、経済理論の発展や経済情勢の変化を取り込んだ上で、再整理を行い、今後の可能性を論じる必要があると考えるにいたったのが、本特集を企画した動機である。本特集は、置塩が取り組んだ様々なテーマの現代的サーベイと今後の方向性を、数理モデルに馴染みのない会員に紹介するだけではなく、若手研究者にとって研究のヒントとなるような特集を組むことで、今後の研究の可能性を示唆することを目的としている。(以下略)

(大野 隆)

編集後記

第50巻第4号をお届けします。

本号の特集は、置塩信雄の没後10年に際し企画されたものです。4名の寄稿者が、置塩経済学の現代的な可能性やそれが抱える課題をまさに「縦横無尽」に論じています。本特集の特徴の一つとして搾取論から蓄積論、置塩と同時代人になる森嶋通夫との学説史的な比較まで、極めて広い範囲がカバーされていることが挙げられます。そのため、置塩経済学と直接的な接点をもたない若い世代の研究者にとっても、かつて置塩経済学を学び批判的に継承しようとしたベテランの研究者にとっても、特集論文のうちのどれか一つは、必ず知的好奇心を満たすものになっていると思われます。

さて、編集後記に私事を書くのは大変憚られるのですが、私が大学院生だったちょうど10年前に、『経済理論学会年報』が季刊化され、『季刊 経済理論』が産声を上げました。私もその恩恵を受けて論文が掲載され、大学での職を得ることができました。セーフティ・ネットが失われた現代の日本においてアカデミック・ポストを得られるかどうかは、大学院生やポスト・ドクターにとって死活問題になっています。また、ポリティカル・エコノミーの精神を受け継ぐ若手研究者を育成することは、本学会の持続可能な発展のためにも必要不可欠です。そのような観点からみると、投稿論文の掲載可能性が広がる「季刊化」は、一定の成果を残していると言えるでしょう。

また、昨年の経済理論学会第61回大会前日には、大学院生・ポスドク・若手研究者を対象に、各分野で活躍中の研究者がそのフロンティアを紹介する「若手セミナー」が開催されました。そこでは、佐藤隆会員が「資本の一般的定式の数理モデル化」について、本号にも寄稿している吉原直毅会員が「搾取理論の現代的展開」について、数学的な展開の困難さを乗り越えて、わかりやすい講義を行いました。このような新しい試みもまた、若手研究者の育成のために、延いては本学会の飛躍のために、企画されたものです。

現在、本誌は投稿論文数の減少という「危機」に直面しています。置塩経済学や「若手セミナー」に刺激を受けた若手研究者の方々には、その研究成果を是非とも本誌に投稿して頂きたいと切に願っています。無償の仕事を快く引き受けて下さる査読者や、約10名からなる本誌編集委員は、投稿者の新しいアイデアが生かされるよう論理展開の審査から誤字脱字のチェックまで多くの時間を割いています。査読者や編集委員のコメントが時には厳しく感じられることもあるでしょうが、改訂された論文が以前のものよりずっと改善されていることは、編集委員の一人として日々実感しているところです。私も、かつて自分が受けた恩を返すつもりで、残された任期で最大限の努力を惜しまないつもりです。

(藤田真哉)

編集委員

委員長

  • 鈴木和雄(弘前大学)

副委員長

  • 遠山弘徳(静岡大学)

編集委員

  • 大野 隆(立命館大学)
  • 勝村 務(北星学園大学)
  • 酒井正三郎(中央大学)
  • 原田裕治(福山市立大学)
  • 藤田真哉(名古屋大学)
  • 前畑憲子(立教大学)
  • 矢吹満男(専修大学)
  • 吉村信之(信州大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。