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季刊 経済理論 第50巻第3号(2013年10月) ◎調和する社会の諸相
季刊・経済理論第50巻第3号

経済理論学会編

B5判並製/98頁
ISBN978-4-905261-70-4
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2013年10月20日

目次

[特集◎調和する社会の諸相]

  • 特集にあたって 竹野内真樹
  • 共同体的編成原理の射程  半田正樹
  • 改めて,私たちは市場とどのように向き合うべきか  佐藤良一
  • 福祉国家の変容と社会的ケア:雇用・家族・ジェンダー  原 伸子
  • 新自由主義時代における市場社会の危機と甦るポランニー  若森みどり

[論文]

  • ベーシック・インカムの理念と実現プロセス  志賀信夫
  •  
 

[海外学界動向]

  • 第8回世界政治経済学会に参加して  大畑智史
  •  
 

[書評]

  • 沖 公祐著『余剰の政治経済学』  佐藤良一
  • 菅原陽心著『経済原論』  清水真志
  • M.アグリエッタ・A.オルレアン編/坂口明義=監訳『貨幣主権論』  大田一廣
  • D. ハーヴェイ著/森田成也ほか=訳『〈資本論〉入門』/『資本の〈謎〉』  小松善雄
  • 上川孝夫編『国際通貨体制と世界金融危機』  川波洋一
  • 松井 暁著『自由主義と社会主義の規範理論』  青木孝平
  • 大内秀明著『ウィリアム・モリスのマルクス主義』  池上 惇
  • 後藤康夫・森岡孝二・八木紀一郎編『いま福島で考える』  若森章孝

[書評へのリプライ]

  • 『マルクス経済学』に対する書評(評者:松尾 匡氏)へのリプライ  大西 広

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  吉村信之

特集にあたって

先進資本主義諸国にとって、1950、60年代は経済的に比較的順調な時期であったが、70年代にはいると、行き詰まりの様相を呈するようになった。経済成長の鈍化、スタグフレーションの深化、二度の石油危機、国際通貨システムの混乱、環境汚染の深刻化などが、各国に危機感をもたらしたのである。こうした危機感を背景に伸張したのが新自由主義である。その教義は、1979年に成立したイギリスのサッチャー政権、1980年に成立したアメリカのレーガン政権によって本格的に採用された。新自由主義とは、さしあたり、私的所有権の保護、企業活動の自由の保障などのために整備された制度的枠組のもとで、一般的な商品市場における活動の自由を維持するのみならず、従来市場が存在しなかったさまざまな社会的領域へ市場を拡大し、そのことによって社会の効率性を実現することに最大の目標を置く、イデオロギーとそれにもとづく諸政策と規定できよう。したがって、70年代に先進資本主義諸国が直面した行き詰まりに対しても、企業の活動を制約する諸々の規制の緩和、労働組合の弱体化政策、国家の経済活動の縮小、民営化の促進などが処方箋として提案された。以後、1989年のベルリンの壁崩壊を契機とした東西冷戦体制の終焉を経て、グローバル化の波に乗り、急速に拡大した。ことに90年代は、ニューエコノミーとも言われたように、アメリカ経済が少なくとも表面的には好調で、それが新自由主義の成果と見なされたこともあって、世界中に伝播したと言っても過言ではない。そして企業の経営者のみならず、各国の政府機関、大学、メディア、IMFや世界銀行などの国際機関において、その信奉者たちが支配的な地位を占めるに至った。

しかし21世紀に入ると、その綻びが露わになったように思われる。それを最も明瞭に示したのは、2008年のアメリカを震源地とするリーマン・ショックの勃発であろう。新自由主義のもとでの規制緩和は金融業においてきわめて顕著であったが、情報手段の発展と相まって、さまざまな金融技術の開発と世界を舞台とした活動を金融機関に可能とした。だがまさにそのことが、この大規模な経済危機を引き起こした原因であると見なされたのである。そして、その後の緩慢な景気回復、ヨーロッパの金融危機、失業の持続、所得分配の悪化等によって、多くの人々が、資本の自由な活動に対して疑惑の目を向けるようになった。

こうした状況の転換に際して、われわれは、新自由主義の欠陥について改めて立ち入った分析を行うと同時に、市場の暴走を克服し、新たな社会を模索する時期にさしかかっているようにも思われる。実際本学会においても、『季刊 経済理論』の最近の特集号を眺めてみれば、「ベーシック・インカム論の諸相」(第49巻第2号,2012年7月)、「アソシエーション論と非営利・協同組合セクター論の到達点と課題」(第49巻第3号,2012年10月)などにおいて、そうした方向性を読み取ることができる。そこで今回の特集号では、この流れを受け、より幅広い観点から、社会の「調和ある発展」をもたらすような、社会の仕組、制度のあり方、それらと市場との関係・相互作用について考察してみたい。

もちろんそうは言っても、その視点はさまざまありうる。今回は、新自由主義が本来市場が存在しなかった領域に市場を打ち立てることに精力を注いでいた点に注目し、そこから直接的に派生してくる諸問題をテーマとして取り上げた。すなわち、市場原理以外の社会の編成原理の意義・機能、あるいは市場原理とそれらとの関係、市場が社会で機能する際のその「適切な」範囲、かつて国家が担ってきた経済領域と市場との関係、過去の社会科学者の市場と社会の扱い方、などを論点として選択したのである。そしてこれらの論点を念頭に置いた上で、その延長線上に「調和する社会」の条件とは何かを探る糸口を見出そうと考えた。以上のようなことを特集の狙いとした上で、4人の方に御執筆をお願いしたわけである。(以下略)

(竹野内真樹)

編集後記

前世期末以来澎湃として沸き起こったグローバリゼーションのもと、資本の自由な振舞いによって毀損してしまった社会をどのように修復するか、その手がかりを「新自由主義」を相対化し得る諸言説に依拠しながら考察すること、これが本号特集「調和する社会の諸相」のねらいである。

「釈迦に説法」で恐縮だが、18世紀末から19世紀にかけて、スミス・マルサス・リカードらが主として当時のイギリスをモデルとして発展させた古典派経済学は、「小さい政府」のもと自由放任的市場主義を特徴としていた。しかし、19世紀末から20世紀初頭にかけて資本主義は、自由競争の結果として独占・寡占や長期大量失業といった矛盾(市場の失敗)を生み出し、これらを解決すべく政府による市場への介入、いわゆる「大きな政府」への転換が主張された。「自由放任の終焉」(ケインズ)である。

資本主義の矛盾への対応としての国家による経済介入は、二つの相対立する体制の誕生をつうじておのおの独自に実現されていった。ひとつは、生産手段の公有制を基礎に生産・流通・分配の再生産過程全体を国家が計画的に管理する社会主義経済システムとしてであり、他のひとつは、社会主義に対抗して「自由社会を救済する」(ケインズ)ために、政府の裁量政策によって総需要管理を行う混合経済システムとしてであった。このように、ふたつの経済システムはそれぞれ市場主義への批判として生まれた体制であったが、これらは20世紀の後半になって、経済効率性の低下やインセンティブ・システムの有効性をめぐる問題から、「創造的破壊」、イノベーションの時代にはそぐわないシステムとして転換を迫られていく(政府の失敗)。すなわち、システムとして技術革新をビルト・インしていない社会主義の体制は「収穫逓減の法則」の作用の結果崩壊を余儀なくされ、既存の経済・産業構造を前提にスペンディング政策をくり返す混合経済システムの方は、財政赤字を累積させスタグフレーションとしてそれの持つ矛盾を顕在化させた。

かかる事態の中で、次第に影響力を増してきたのは、供給面を重視する経済学、サプライサイド・エコノミクスである。この経済学は、20世紀末、80年代の半ば以降レーガノミクスやサッチャーリズムとして米英の政権に採り入れられ、減税、財政支出削減、規制緩和など個人や企業の自助努力・自己責任と市場機構への「信頼」を基礎とした競争的諸政策のなかに具体化された。結果、20世紀の3つの四半世紀にわたる「社会主義」と「ニューディール」の壮大な実験は否定され、社会は再び「小さな政府」論に回帰した。そして、折からのIT革命の進展によって、情報はより完全な共有化が可能となり、市場メカニズムは市場理論に近い一層純化されたものとなったと喧伝された。

しかし、このメカニズムの作用が世界大に拡大した国境のない資本主義、グローバルキャピタリズムは、特集の諸論稿が示すとおり、多くの社会に、所得格差の拡大、新たな貧困問題の出現、金融の不安定性、さらには地球温暖化の加速化といった諸々の問題をもたらした。ここに、「調和する社会」の実現に向けて、「新自由主義」に対する新たな対抗軸が模索されることとなった。そこでは、市場と計画とは「等価」ではなく、したがって資本主義と社会主義は「歴史的同位対立物」ではない(中兼和津次)とする、近年の比較経済体制論研究の成果をふまえれば、「マルクス主義」や「社会主義」も一定の相対化は免れない。つまり、この文脈における理論的オルタナティブは多様であり得るのである。問題は、かかる学説動向の「諸相」を、如何にしてフィージブルな制度設計に結実させていくか、である。これは、本学会が追究すべき次の課題であるといえよう。

(酒井正三郎)

編集委員

委員長

  • 鈴木和雄(弘前大学)

副委員長

  • 遠山弘徳(静岡大学)

編集委員

  • 大野 隆(立命館大学)
  • 勝村 務(北星学園大学)
  • 酒井正三郎(中央大学)
  • 竹野内真樹(東京大学)
  • 原田裕治(福山市立大学)
  • 藤田真哉(名古屋大学)
  • 前畑憲子(立教大学)
  • 矢吹満男(専修大学)
  • 吉村信之(信州大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。