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季刊 経済理論 第49巻第4号(2013年1月) 特集◎ヨーロッパ資本主義モデルの行方
季刊・経済理論第49巻第4号

経済理論学会編

B5判並製/124頁
ISBN978-4-905261-67-4
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2013年1月20日

目次

[特集◎ヨーロッパ資本主義モデルの行方]

  • 特集にあたって 遠山弘徳
  • 欧州債務危機下におけるイギリス福祉国家 岡本英男
  • 新たなスウェーデン・モデルの形成 篠田武司
  • 欧州経済危機とフレキシキュリティ:デンマーク・モデルのストレステスト 若森章孝
  • 第二次大戦後ドイツ連邦共和国の福祉制度と経済秩序 福澤直樹
                             

[論文]

  • 複数生産条件下での市場の無規律性 江原慶
  • 消費における労働:家庭に残る労働 安田均
  • 停止状態に関するJ.S.ミルの展望:アソシエーション論の変遷と理想的な停止状態の実現過程 小沢佳史

[書評]

  • 角田修一著『概説 社会経済学』  遠山弘徳
  • 大西広著『マルクス経済学』  松尾匡
  • 基礎経済科学研究所編『世界経済危機とマルクス経済学』  原田國雄
  • 延近充著『薄氷の帝国アメリカ:戦後資本主義世界体制とその危機の構造』  柿崎繁
  • Robert Boyer, Hiroyasu Uemura and Akinori Isogai (eds.), 『Diversity and Transformations of Asian Capitalisms』  横川信治
  • 菅原陽心編著『中国社会主義市場経済の現在』  宮嵜晃臣
  • 吉田三千雄著『戦後日本重化学工業の分析』  小林正人
  • 佐々木隆治著『マルクスの物象化論:資本主義批判としての素材の思想』  神山義治

[書評へのリプライ]

  • 『日本の景気循環と低利・百年国債の日銀引き受け』に対する書評(評者:熊澤大輔氏)へのリプライ  岩下有司
  • 『図解雑学 マルクス経済学』に対する書評(評者:浅川雅己氏)へのリプライ  松尾匡

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  原田裕治

特集にあたって

ヨーロッパ資本主義はアングロサクソン流のネオリベラル型資本主義モデルに代わる理想的なモデルだと見られてきた。そこでは市場経済を基礎としつつも、同時に、市場において発生するさまざまなリスクから労働者を保護する制度が提供されてきた。言いかえれば、比較的良好な経済パフォーンマンスと手厚い社会保護が相互に補強しあうような、少なくとも両立するような社会経済モデルだと受け止められてきた。しかし、ヨーロッパ経済は、現在、深刻な経済危機の中にある。この経済危機によって、ヨーロッパ資本主義モデルは変容を迫られ、ネオリベラル型資本主義モデルへと接近して行くのであろうか。本経済理論学会は、早くから、ネオリベラル型資本主義の問題点を指摘すると同時に、これに代わる社会経済システムとしてヨーロッパ資本主義モデルの可能性にも注目してきた。本特集はこうした研究蓄積をさらに発展させることを企図したものである。

(遠山弘徳)

編集後記

10月中旬にとある国際学会に参加し、開催地であるポーランドの古都クラクフを訪れました。

中欧に行くのは初めてで、ポーランドについて、1989年に民主化した後はある程度経済成長を遂げており、2004年には欧州連合(EU)への加盟を果たしているとはいえ、欧州内の発展途上国といった、乏しいイメージしか持ち合わせていませんでした。

現地へ着いてみると、想像した景色も残ってはいたものの、非常に近代的な街並みを目にして少々驚きました。クラクフ中央駅隣にあるショッピングモールは、平日にもかかわらず多くの買い物客であふれ、人々が出入りする店は、われわれもよく知るブランド店であり、店が建ち並ぶ様子だけを見れば、日本のショッピングモールにいる錯覚を起こすほどでした。

人口約75万人のクラクフは、その旧市街が世界遺産に指定されており、歴史的建造物が建ち並ぶ非常に落ち着いた雰囲気の街です。また近辺には、アウシュヴィッツ(ポーランド語名:オシフィエンチム)、ヴィエリチカ岩塩坑といった世界遺産もあり、いわゆる観光都市として発展しています。実際、街の通りでは数多くの観光客を見かけ、さまざまな国の言葉を耳にしました。

一方で、クラクフは学園都市としての顔も持ちます。市内には5つの大学を擁し、そのうちヤギェウォ大学はポーランド最古の大学で、現在もワルシャワ大学を凌ぐほどの実績を挙げているとされます。AGH科学技術大学やクラクフ経済大学は、それぞれの領域で国内トップの座を占めるとされます。そのためか、街では若者の姿を多く見かけました。週末は街中のクラブに集い騒いでいるようで、夜遅くまで古い街並みに似つかわしくない重低音の振動が滞在先のホテルの部屋まで響いてきました。

堅実な経済成長が若者の活気に一役買っているようです。1993年から2011年までの実質GDP平均成長率は約4.5%で、ユーロ危機の影響もさほど大きくありません。失業率も若年失業率も欧州の平均値ですが、2000年代初頭から見ると大きく改善しており、その傾向は2009年以降も継続しています。

このようにクラクフの街は、歴史的な重厚さを感じさせる落ち着いた街並みと若者をはじめとする人々の活気とのコントラストが印象的な街でした。その街を抜けて学会会場に向かうと、そこはまったく異なる雰囲気に包まれていました。

南欧諸国の研究者を中心に欠席者が多数出て、その理由が財政危機の影響による研究費削減にあると報告されました。また総会の場でもユーロ危機の深刻さについて繰り返し言及され、来年度の年次大会開催地がスペインのビルバオからフランスのパリに変更されました。

こうした西欧諸国の混乱と中欧諸国の活況というコントラストもまたきわめて印象的でした。これはまた、ヨーロッパ資本主義の多様性とその行方を左右するもうひとつの要因となるかもしれません。すなわち、当初からのEU加盟国と拡大EU諸国とが相互作用を深めつつ、それぞれの進化経路に影響を与えていくことになるだろうと想像します。

本号の特集は、遠山弘徳編集委員が企画された「ヨーロッパ資本主義モデルの行方」。実に時宜を得た企画です。ご寄稿いただいた論文をひと足早く拝読しつつ、最近体験したヨーロッパを回想しました。いずれの論考もヨーロッパ資本主義モデルの将来を考える上で示唆に富むものです。本特集をきっかけに、本学会で各種ヨーロッパ資本主義モデルにかんする議論が深まることを期待いたします。

(原田裕治)

編集委員

委員長

  • 磯谷明徳(九州大学)

副委員長

  • 鈴木和雄(弘前大学)

編集委員

  • 大野 隆(立命館大学)
  • 後藤康夫(福島大学)
  • 酒井正三郎(中央大学)
  • 竹野内真樹(東京大学)
  • 遠山弘徳(静岡大学)
  • 原田裕治(福山市立大学)
  • 藤田真哉(名古屋大学)
  • 前畑憲子(立教大学)
  • 吉村信之(信州大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。