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季刊 経済理論 第49巻第3号(2012年10月) 特集◎アソシエーション論と非営利・協同組合セクター論の到達点と課題
季刊・経済理論第49巻第3号

経済理論学会編

B5判並製/116頁
ISBN978-4-905261-66-7
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2012年10月20日

目次

[特集◎アソシエーション論と非営利・協同組合セクター論の到達点と課題]

  • 特集にあたって  松尾 匡
  • 非営利組織の活動と協働の論理形成:協働の発展と社会システム論的課題  藤田暁男
  • マルクスの協同社会主義像:21世紀における社会主義の復権と新生によせて  小松善雄
  • アソシエーションへの社会システム論的アプローチの意義と課題  影山摩子弥
  • 背理の先に何があるのか:反資本主義、労働証券、労働者自主管理  結城剛志

[論文]

  • 金融化と日本経済の資本蓄積パターンの決定要因:産業レベルに注目した実証分析  西 洋
  • 経済学における価値判断の2つの位置:センとロビンズの比較から  玉手慎太郎
  • 経済成長と温室効果ガス排出の関係:累積的因果連関モデルによる分析  宇仁宏幸

[研究ノート]

  • アメリカ経済の金融化と企業金融:事業再構築との関連で  小林陽介

[海外学界動向]

  • 第7回世界経済学会に参加して  萩原伸次郎

[書評]

  • 井手英策・菊地登志子・半田正樹編『交響する社会:「自律と調和」の政治経済学』  西部 忠
  • ダンカン・K・フォーリー著/亀崎澄夫・佐藤滋正・中川栄治訳『アダム・スミスの誤謬:経済神学への手引き』  新村 聡
  • ジュリエット・B・ショア著/森岡孝二監訳『プレニテュード:新しい<豊かさ>の経済学』  金子裕一郎

[書評へのリプライ]

  • 『グローバル資本主義論:日本経済の発展と衰退』に対する書評(評者:鶴田満彦氏)へのリプライ  飯田和人

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記  前畑憲子

特集にあたって

戦後先進諸国に繁栄をもたらしたケインズ的な国家介入政策は、1970年代のスタグフレーションによって挫折し、1980年代に入ると、それにとどまらず、従来の公共セクター拡大傾向一般が、官僚的硬直性や財政的行き詰まりの結果批判にさらされることになった。そして、民営化や規制緩和などの市場自由化路線にとってかわられた。

さらに、ソ連東欧体制が崩壊し、中国は改革路線を強め、いずれもグローバルな市場資本主義に流れ込んでいった。こうして市場資本主義セクターが世界を席巻する時代がやってきたのであるが、しかし、そのマイナスの影響は、格差・貧困問題、地域経済の崩壊、福祉・教育の切り捨て、環境破壊等々の形でただちに現われることになった。

このような諸問題に対抗しつつ、しかし、すでに否定された行政主導型社会変革に訴えるのでもない方法として、1990年代以降、民衆の手による自主的な社会変革事業が世界中で自然発生的にわき起こってきた。NPO、新型協同組合、NGO、労働者自主管理企業等々の取組みがそれである。

もちろんこのような取組みは資本主義の歴史と同じほど古く、これを支える思想的営みも、ロバート・オーエン以来のマルクスも含むアソシエーション論、アナルコ・サンジカリズム、日本でも賀川豊彦社会主義など、延々と続いてきたのである。たしかに、特に第2次大戦後には、市場資本主義対国家社会主義の対抗図式の影に抑え込まれてきた。しかし、それが俄然表に現われて発展したのが、90年代以降の十数年であった。日本では特に、1995年の阪神淡路大震災でのボランティアの経験、それを受けた1998年のNPO法制定が発展の大きな契機となった。

理論的にもこの時期、マルクスの未来社会像が国有集権体制ではないものとして再発見され、「アソシエーション」という概念として、人々に共有されることになった。大谷禎之介、田畑稔らによる業績が有名である。マルクスが現実の協同組合工場の実践にその萌芽を見いだしていたことも改めて認識されるようになった。藤田暁男、富沢賢治らが、「非営利・協同セクター」と概念づけて、変革主体の意味を込めた社会システム論を打ち出したのもこの時期である。

しかし、ソ連東欧体制崩壊から20余年、NPO法制定から十数年たって、これらの取組みの発展も一段落しているように感じられる。事業の行き詰まり、失敗、変質の実例も多くなった。ここで一度これまでの歩みを総括し、課題を整理して新たな発展を展望すべき時期にきているものと思われる。市場との関係、営利企業の進化の可能性、政治に残されるべき役割、旧共同体との区別と相互浸透、適切な事業ガバナンスの設計等、整理検討されるべき課題は多い。

おりしも、今年2012年は国際協同組合年である。世界各国で様々なイベントがなされており、日本でも11月17日、18日のフェスティバル(さいたま市大宮ソニックシティ)はじめ、各地で多くの取組みが企画されている。これに合わせて、本誌でもこの問題をテーマに特集を組むことにした。本学会の本分である経済理論には、上記の課題を総合的な社会システム論の中で体系的に論じる役割が期待されるだろう。本学会こそ、これに取り組むにふさわしい研究資源を蓄積しているにもかかわらず、なぜかこれまでこのテーマが本誌特集に取り上げられることがなかった。この際よい機会である。

本特集では、長老世代、熟年世代、中堅、若手の各世代から、それぞれ異なる角度でこの問題に取り組んでこられた四人の会員に、寄稿をお願いした。(以下略)

(松尾 匡)

編集後記

本号の特集は、現在の経済社会の中で育ちつつある未来社会の諸契機とその全面的発展の可能性をめぐる諸問題を追究したアソシエーション論です。生産諸力の無限の発展を追求せざるを得ない資本は自分が生みだしたその生産諸力とあらゆる点で矛盾した状況に直面しもがいている、これが現在の経済的・政治的・文化的等々のあらゆる状況に反映しており、したがってまた現在のあらゆる状況が、資本主義が生みだした高度な生産諸力をもとにした来るべき社会の見取り図を要求しているように思われます。

本学会の近年の共通論題も当然ながら現在の「危機」や「恐慌」を取り上げたものが目立っています。1998年「現代経済と金融危機:政治経済学に問いかけるもの」、1999年「90年代資本主義の危機と恐慌論」、2005年「新自由主義と現代社会の危機」、2009年「2008年世界恐慌と資本主義のゆくえ」、そして昨年の2011年には「グローバリゼーション下の経済金融危機と国家:新たな金融・財政政策の展開を踏まえて」というように、今年で60回の大会を迎える本学会の歴史の中でひときわ「危機」に迫る論題が集中しています。それはまた、社会「変革」への具体的道筋の解明を喫緊の課題として浮上させることになります。2010年の共通論題は、「社会経済システムの変革と政治経済学の課題:日本は変わるか」でしたし、本誌の前号である第49巻第2号の特集は「ベーシック・インカム論の諸相:これからの日本社会を展望して」でした。これに続く、本号の特集「アソシエーション論と非営利・協同組合セクター論の到達点と課題」も現状から要請される問題に正面から挑むテーマです。本年の大会の共通論題である「大震災・原発問題と政治経済学の課題」の議論においても、アソシエーション論がその一角をなすことと思います。この特集を契機に大会ではもちろん、あらゆるところで継続的に、広くアソシエーションについて議論されるであろうことを期待したいと思います。

なお、本号の特集テーマを「アソシエーション論と非営利・協同組合セクター論の到達点と課題」とすることを企画・立案し、あらゆる手配の労を取られたのは、編集担当者である松尾匡委員であり、副担当者の私の仕事は、せいぜい校正程度で、それも一部の仕事をしたにすぎません。通常の編集作業における編集委員長のハードな仕事とともに、特集担当者のご苦労に頭が下がる思いです。思えば、本誌が季刊化されて丸8年になります。その間、1号も休むことなく1年に4号を刊行し続けているわけですが、編集の作業に携わるようになってつくづくこの学会は本当によく頑張っているなと感じています。というのは、年報から季刊化への過度期を当時本部事務局で見ていたときに、本音を言うと「とても季刊化なぞできないだろう」と思っていたからです。財政的にも、刊行の手間も相当の覚悟なしには不可能に思えたからです。しかし、財政的にはあらゆる節約を会員みんなが甘受し、会費の値上げをもまた甘受し、そして、継続的刊行のためにあらゆる努力を傾注し、季刊化を維持してきています。投稿論文、依頼論文、書評、レフェリーそれぞれにそれぞれの立場でかかわる会員、そして、出版のあらゆる労をとってくださっている桜井書店の桜井さん、みんなが本誌を支え、そしてまた本学会を支えようとする意志の力を発揮している、改めてそのパワーを感じているこのごろです。

(前畑憲子)

編集委員

委員長

  • 磯谷明徳(九州大学)

副委員長

  • 鈴木和雄(弘前大学)

委員

  • 大野 隆(立命館大学)
  • 後藤康夫(福島大学)
  • 酒井正三郎(中央大学)
  • 竹野内真樹(東京大学)
  • 遠山弘徳(静岡大学)
  • 原田裕治(福山市立大学)
  • 前畑憲子(立教大学)
  • 松尾 匡(立命館大学)
  • 吉村信之(信州大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。