- 季刊 経済理論 第49巻第2号(2012年7月) 特集◎ベーシック・インカム論の諸相:これからの日本社会を展望して
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経済理論学会編
B5判並製/106頁
ISBN978-4-905261-65-0
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2012年7月20日 - 目次
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[特集◎ベーシック・インカム論の諸相:これからの日本社会を展望して]
- 特集にあたって 福島利夫
- ベーシックインカム構想とマルクス経済学 伊藤 誠
- ベーシック・インカム論議を発展させるために 小沢修司
- 日本の社会保障改革とベーシック・インカム構想 成瀬龍夫
- <生存権所得>の歴史的射程 村岡 到
[論文]
- 開放経済におけるコンフリクト,国際競争,経済成長 薗田竜之介
- 人口圧による集約度上昇と一人あたり産出の変動:モデル化の試み 田添篤史・劉 歓
- 米国における保険の金融化 知見邦彦
[書評]
- 山田喜志夫著『現代経済の分析視角:マルクス経済学のエッセンス』 建部正義
- 林 公則著『軍事環境問題の政治経済学』 藤岡 惇
- 大谷禎之介著『マルクスのアソシエーション論:未来社会は資本主義のなかに見えている』 宮田和保
- 岡本悳也・楊枝嗣朗編著『なぜドル本位制は終わらないのか』 柴田コ太郎
- 森岡孝二著『就職とは何か:〈まともな働き方〉の条件』 川崎志帆
[書評へのリプライ]
- 『世界的金融危機の構図』に対する書評(評者:建部正義氏)へのリプライ 井村喜代子
- 『マルクスはいかに考えたか:資本の現象学』に対する書評(評者:唐渡興宣氏)へのリプライ 有井行夫
震災・原発問題福島シンポジウムとその集会宣言 八木紀一郎
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記 竹野内真樹
- 特集にあたって
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すべての個人に所得を無条件で支給しようというベーシック・インカム(Basic Income、以下BIと表記する)論は、すでにヨーロッパで1980年代に提唱されはじめていたが、日本でも、小沢修司『福祉社会と社会保障改革―ベーシック・インカム構想の新地平』(2002年)を嚆矢として急速な広がりを見せ、2010年3月にはBI日本ネットワーク設立に到っている。その議論の広がりは、哲学、社会学、社会政策、財政学、政治学、さらに労働、ジェンダーや障害者などの問題にまでおよんでいる。近年は訳本も含めて単行本や雑誌特集の発行も続いている。また、国会の論議としても登場するまでになっている。
BI論議の大きな特徴は、さまざまな立場から取り上げられていることである。世界的にも、日本国内においても、新自由主義から社会主義の立場まで、まさに百家争鳴、百花斉放の状態である。それらの主張に共通する重要な点は、社会保障と税制のあり方にとどまらず、広く現代社会のオールターナティブを提起することが、否応なく見いだされることである。
具体的な論点は多岐にわたる。労働の持つ意味、所得保障の水準と財源問題、フリーライダー問題、実現の可能性、所得保障以外の現物給付や公共サービスをどうするのか等々である。
さらに、BI自体にもさまざまな種類が考えられている。完全BI、部分BI、過渡的BI、参加所得等であり、これらが単に並列して存在しているというよりは、長い年月をかけて徐々に実現に向かう過程でとりうるさまざまな姿態とも位置づけられる。そしてその最終ゴールに完全BIがある。
他方、すでにBIは部分的には実現しているという見方もできる。例えば、現政権下で導入された「子ども手当」は子どもを対象としたBIであると。
このように、議論と運動、政策としての実現可能性の追究は始まったばかりであり、今後の展開が注目される。昨今の格差と貧困や東日本大震災からの復興との関係においても、BIの議論は大きく資するものと考えられる。(以下略)
(福島利夫)
- 編集後記
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編集委員を拝命して、初めて編集会議に出席したのが、昨年9月である。その後12月、今年3月と編集会議があった。まだ新参者気分が全然抜けないが、6月の会議が過ぎれば、もうはや2年の任期の折り返しになってしまう。
最初に出席した時に驚いたのは、周到に準備されていた議案書である。歴代の編集委員会によって蓄積されたノウハウの結晶化したものだと思われるが、効率的に作成された文書になっている。しかしけっこう厚みがあり、あらかじめ準備される編集委員長の御負担はたいへんなものだろうと推察した。会議の開始時間は、遠方から来られる方を考慮して、午前11時である。一般的に言って、多くの研究会・会議等はなかなか定刻に始まらないのではないかと思うが、ここの会議はそうではない。編集委員のメンバーは定刻に集合する。私は、第1回目の会議の時、自宅から会議場所まで1時間あまりであるにもかかわらず、遅刻してしまったが、会議はもう始まっていたのみならず完璧な審議モードであった。しかし遅刻したのは3分ほどなのである(以後は15分前を目途に会場に着くことを心密かに自己規律とした )。会議では、議案書にそって手際よく処理していく。だが案件は多く、終わるのは夕方である。最初の9月の会議は午後5時より前に終わったと記憶しているが、 「今日はいつもより随分早い」とどなたかが感想を述べていた(この発言の正しさは、次の12月の会議で完全に証明された)。
編集委員会が終わると、各委員に割り当てられた投稿論文に関して、レフェリーを会員の方々にお願いする。論文の内容によっては、まったく存じ上げない方にもおそるおそるメールを差し上げたりすることにもなるのだが、幸いなことに今まで全員に快く引き受けていただいた。他の編集委員の方に伺っても、同様らしい。まったくありがたいことである。世間的には断られることがあってもふしぎではないと思うが、嬉しいことには本学会は世間並みではないのである。他の学会でも同様なのであろうか?
こうした一連のプロセスを経験して思うのは、一つには、今さらながらではあるが、電子メールの威力である。手元のパソコンの記録を見ると、昨年9月からの編集委員会関係のメールのやりとりは250通近い。メールのおかげで、各メンバーは、リアルタイムで情報を共有できる。これがなければ、編集作業ははるかにたいへんなものになったに違いない。そして第二は、編集委員会の和やかな雰囲気である。私はほとんど存じ上げない方ばかりの中に飛び込んだようなものであったが、快く(たぶんそうだと思いたい)受け入れていただいた。検討すべき問題には、難しい性質のものもあるが、和気藹々と処理している。またレフェリーのお願いなどで存じ上げない方に連絡する必要が生じた時に、仲介の労を積極的にとって下さるのもありがたい。そして昼食は、編集会議の仕事を離れて、さまざまなお話を伺える機会となるが、これも楽しい。このような居心地の良さは、編集会議の伝統として維持すべきであろうし、自分もささやかながら貢献できればと思う。
さて本号の特集である。着任早々、本号の副担当を仰せつかった。しかし(いばるわけではないが)私はまったく何もしていない。福島利夫編集委員が、私が着任する以前から企画・立案して下さり、その後の論文執筆者の人選から依頼までもすべてやって下さったのである。私はこの編集後記を書いているだけというていたらくである。この点をはっきりさせ、紙面を借りて福島委員にお詫びしたい。そういう有り様なので、本来私は何かを申し上げるという資格はない。しかし、それを承知の上で、特集号に力作をお寄せ下さった執筆者の皆様にやはり心よりお礼を申し上げたい。
無知を披露するようだが、私は、今までベーシックインカムについてほとんど知らなかった。だから、今年2月13日橋下徹氏の大阪維新の会が、次期衆院選向けに「維新八策」を公表した時、その中に「政府が国民に現金を給付するベーシックインカム制度の設計」の一文を発見して正直驚いた。福祉国家を継承するにせよ、あるいはそれを乗り越えるにせよ、ベーシックインカムにまつわる議論は、政治的にはいわば“左”寄りの議論だと思い込んでいたからである。マスコミ受けする花火を打ち上げるのが上手な人だから(そもそも「維新八策」というネーミングがいかにもである)、彼一流の計算によるものかとも思った。しかし今回の特集号にお寄せいただいた論文を拝見して、彼がそうした提案をするのも肯けたのである。本号に掲載された論文では、執筆者の皆様によってもちろん視点の定め方、力点の置き方は異なるが、全体としてみれば、ベーシックインカムの思想的系譜から、現時点での財源の観点からみたその実現可能性に至るまで幅広くカバーしている。今後ベーシックインカムが政治の表舞台に本格的に登場する可能性は大いにあり、 どのような観点からいかなる内容を盛り込んで制度化していくかで、国民にとっての意味も大きく異なってしまうであろう。本学会でも、この特集号を契機に、ベーシックインカムがいっそう広く深く議論されることを期待したい。
(竹野内真樹)
- 編集委員
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委員長
- 磯谷明徳(九州大学)
副委員長
- 鈴木和雄(弘前大学)
委員
- 後藤康夫(福島大学)
- 酒井正三郎(中央大学)
- 竹野内真樹(東京大学)
- 遠山弘徳(静岡大学)
- 原田裕治(福山市立大学)
- 福島利夫(専修大学)
- 前畑憲子(立教大学)
- 松尾 匡(立命館大学)
- 吉村信之(信州大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。