- 季刊 経済理論 第49巻第1号(2012年4月) 特集◎グローバリゼーション下の経済金融危機と国家:新たな金融・財政政策の展開を踏まえて
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経済理論学会編
B5判並製/142頁
ISBN978-4-905261-64-3
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2012年4月20日 - 目次
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[特集◎グローバリゼーション下の経済金融危機と国家:新たな金融・財政政策の展開を踏まえて]
- ドル流動性危機と基軸通貨の交替 柴田コ太郎
- グローバリゼーション下における連鎖的なバブルの形成と崩壊 相沢幸悦
- 経済・社会・政治の危機と現代財政 池上岳彦
[特別寄稿]
- 恐怖と希望:リベラルプロダクティヴィズム・モデルの危機とグリーン・オルターナティブ アラン・リピエッツ/訳=八木紀一郎
[論文]
- 金融・経済危機におけるユーロシステム(ECB及びユーロ導入国中央銀行)の危機対応:他国中央銀行との共通性とその独自性 清水良樹
- ミンスキーの「資金運用者資本主義」と投資銀行:1980年代以降のアメリカ投資銀行業を中心に 横川太郎
[書評]
- 松尾 匡著『図解雑学:マルクス経済学』 浅川雅己
- 関根順一著『基礎からわかる経済変動論』 松尾 匡
- 頭川 博著『資本と貧困』 松本 朗
- 内藤敦之著『内生的貨幣供給理論の再構築:ポスト・ケインズ派の貨幣・信用アプローチ』 石倉雅男
- 岩下有司著『日本の景気循環と低利・百年国債の日銀引き受け』 熊澤大輔
- 厳 成男著『中国の経済発展と制度変化』 平川 均
[書評へのリプライ]
- 『未来社会を展望する--甦るマルクス』に対する書評(評者:松井 暁氏)へのリプライ 大西 広
第59大会報告
第59大会報告(英文)
第59大会分科会報告
第59大会特別部会「東日本大震災と福島第一原発事故を考える」報告
2011年度会務報告
第2回経済理論学会奨励賞決定および授与について 八木紀一郎
論文の要約(英文)
第3回経済理論学会奨励賞募集要項 選考委員会
刊行趣意・投稿規定
編集後記 磯谷明徳
- 編集後記
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『季刊 経済理論』の第49巻第1号をお届けします。本号は、昨年9月に立教大学で開催された経済理論学会第59回大会(2011年9月17日・18日)の特集号です。
第59回大会の共通論題は「グローバリゼーション下の経済金融危機と国家-新たな金融・財政政策の展開を踏まえて」でした。これは過去3回の大会共通論題テーマ(「サブプライム・ショックとグローバル資本主義のゆくえ」(第56回大会:九州大学)、「2008年世界恐慌と資本主義のゆくえ」(第57回大会:東京大学)、「社会経済システムの変革と政治経済学の課題???日本は変わるか」(第58回大会:関西大学)を引き継いで、「100年に1度」のこととも言われた2008年のグローバル危機後に起こっている新たな事態の展開を踏まえて、新たな視点からこれらを分析しようとするものです。当日の司会を担当された山田鋭夫会員の「開会の辞」では、その視点とは「危機対応における『国家』の問題という視点」であるとされました。 そして、この視点には少なくとも2つの論点がある、すなわち、1つはグローバルな危機への対応には国際協調が不可欠であるが、その中で露わになったのが各国の成長戦略の相違ゆえの国家主権の「強靱さ」であり、もう1つは、危機への対応として各国が実施した異例の金融財政政策の結果として浮き彫りになった国家財政の「脆弱さ」であると指摘されました。民間金融によって引き起こされた2008年の危機が今や政府の危機、国家信用の危機へと転化しつつある新たな展開に対して、3人の報告者による独自の切り口からの報告がなされました。柴田徳太郎会員からは、サブプライム・ローン危機から引き続くグローバルな危機の背後にある現在の基軸通貨体制の問題点についての報告がなされ、相沢幸悦会員は、危機への対応として各国で採用された非伝統的金融政策が、先進国では財政危機を、新興国ではバブルを生み出したという現状を踏まえて、経済システムそのものの大転換が必要であると主張されました。 そして、池上岳彦会員からは、福祉レジームと各国の財政構造の比較分析という視点から、財政危機は自由主義および家族主義的レジームの諸国(米英・南欧・日本)にとりわけ深刻であるという事実が示され、その背後にある諸論点の考察がなされました。
第59回大会では、21の分科会が設けられ、その内の4つが英語セッションでした。また、特別講演としてフランス・レギュラシオン学派の第1世代を代表する1人であるアラン・リピエッツ氏による「恐怖と希望:リベラルプロダクティヴィズム・モデルの危機とグリーン・オルターナティブ」と題する講演が行われました。これらの報告と討論の内容については、当該の各ページをご覧ください。大会第1日目の夕刻には、第2回経済理論学会奨励賞の授与式が執り行われました。厳成男会員の著書と清水真志会員の論文の2著作が受賞されました。この奨励賞においては、募集締め切り時から過去3年の間に公表された、40歳以下の会員の著作(論文、著書)が選考の対象となりますが、この条件を満たす本誌に掲載された論文は自動的に選考の対象となります。若手研究者の皆さんには、本誌『季刊 経済理論』への積極的な投稿を期待したいと思います。
さて、第59回大会では2011年度第1回幹事会(2011年4月16日開催)において決定され、同日付けで発せられた経済理論学会幹事会声明「東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故についての声明」に基づいた特別部会「東日本大震災と福島第一原発事故を考える」(運営委員:後藤康夫会員、森岡孝二会員、八木紀一郎会員)が設けられました。並行分科会のないプレナリーセッションの形で大会2日目の午前に実施されたこの特別部会には、午前の早い時間からの開催にもかかわらず150名を超える会員が出席され、多方面からの見解が提示されるとともに真剣で緊迫感のある討論が行われました。その内容については、本号における当該のページをご覧ください。運営委員の1人である八木紀一郎会員は、特別部会の「まとめ」の中で、本学会は経済理論に関わる総合学会であり、震災・原発問題と政策転換に取り組む場合にも、現地の人びとと交流し、また他の領域の科学者・学会とも協力しあって、その実を示すべきであると述べられました。 そのために、大震災の発生から1年を経過する本年の3月には、福島での現地シンポジウム(「震災・原発問題福島シンポジウム」(2012年3月24日・25日))が企画されました。本号が発刊される4月には、このシンポジウムでの討論とその成果が広く人口に膾炙していることでしょうし、おそらく長期にわたるであろう震災・原発問題への取組みに関する本学会での確固たる基礎がこのシンポジウムによって確立されるであろうことを確信します。
2011年12日11日の編集委員会終了後に、岡部洋實会員に代わって磯谷が編集委員長に就任しました。本年3月の編集委員会からは鈴木和雄会員が編集副委員長に就任されます。昨年9月に前畑憲子会員が編集委員に就任され、また、昨年9月には新田滋会員に代わって竹野内真樹会員が、12月には清水真志会員に代わって吉村信之会員が、柴田透会員に代わって原田裕治会員が新たに編集委員に就任されました。編集委員会は、3ヵ月ごとに年4回開催されます。午前から始まり、昼休みを挟んで、毎回7時間ほどを費やして、膨大な編集の作業をこなします。仕事の量の多さと検討すべき事項の多さに最初はただ呆然とするばかりでした。編集委員長としての最初の仕事としての本号の発刊に際しては、執筆者の皆様方に原稿の提出の期限を正確にお守りいただいたこと、例年と比較して原稿を集める期間に余裕があったことなどが幸いし、比較的スムーズに発刊に向けての作業を進めることができました。これも執筆者の皆様方と編集委員の方々のご協力、そして桜井書店さんのプロフェショナルな仕事ぶりのおかげであると深く感謝いたします。
ところで、本誌は2004年発行から季刊化され、年間4号の発行で、投稿論文にはレフェリー制を採用しています。投稿された論文の査読にあたられる会員の皆様には、毎回、大変な労力と貴重な時間を割いていただいています。これまで査読にあたられた会員の皆様方には改めて御礼を申し上げるとともに、今後レフェリーの候補になられる会員の皆様方にも変わらぬご協力をお願い申し上げます。本誌は、年間4号のうち第1号を大会特集号とし、残りの3つの号については、編集委員会による独自の企画として、毎号特集テーマを決定し、そのテーマに最もふさわしい方々に執筆を依頼しています。今後とも、経済理論学会員ならび読者諸氏のご期待に沿えるよう、編集委員会として努力していくつもりです。皆様方からの一層のご協力をお願いするとともに、厳しいご批判やご指摘も積極的に出していただき、それらを本誌の水準の向上に役立てていきたいと考えています。
岡部前編集委員長による第48巻編集委員会の第1回目の委員会は、2011年3月11日に開催されました。私は私事によりその委員会には出席できませんでしたが、委員会の議事審議中に大きな揺れに見舞われた当日の様子については、48巻2号での松尾匡委員よる編集後記、48巻3号での遠山弘徳委員による編集後記、および48巻4号での後藤康夫委員による編集後記において詳細に記されています。断続的に続く大きな揺れの中にあって、会場を建物の1階ロビーに移して、当日の議事すべてを午後6時過ぎに終えたというのは、岡部前委員長と委員の方々の編集に対する責任感の強さのなせることと、畏敬の念を禁じえません。48巻3号の編集後記で、遠山委員は、3月11日当日のことを振り返ると、いつものように本誌を会員諸氏の手元に届けることができるのは「奇跡的」に思えると書き、また以前には「日常的」であったものが「奇跡的」と思われるのは悲しいことだとも書かれています。
私事になりますが、私の生まれ故郷は福島の会津です。原発から80kmを超えた地域ではありますが、県内有数の観光地であるこの地域は、原発事故以降、観光客の極端な減少に今なお苦しんでいます。地震発生後には、水道が2週間、ガスが5週間使用できなかったという仙台に住む大学時代の友人からは、今なお日常を取り戻せないままでいる人たちが多くいる中で、「当たり前に過ごせることのありがたさをもっと大切にしなければならない」という新年の挨拶を受けました。また、全村避難となった福島県飯舘村に移り住み、養鶏と米作・畑作を営んでいた若い友人家族からは、今では群馬に移住をし、今後はさらに西に移住をするという連絡を受けました。私自身の故郷である福島に対する思いは複雑で、この1年間悶々とした思いで過ごしてきました。この意味で、私は、3月24日・25日に開催される福島での現地シンポジウムを、現地の生の声を聴き、事実を事実として率直に受けとめる機会にしたいと考えています。経世済民の学としての経済学は、社会科学の1分野として、社会に病が発生した時には、その病を和らげるための処方箋を早急に考え出さなければなりません。これは医学にたとえるならば臨床研究に似たものです。しかし、その場合、病が発症するメカニズムそのものについての十分な解明がなされていないことが多い。基礎研究は、そのメカニズムを解明することによって、病に対する長期的な処方箋を見出そうとします。臨床研究からの成果を全体としての進歩につなげるためには、臨床研究と基礎研究を両輪として同時に進める必要があります。本学会はその会則において、経済学の基礎理論の研究を目的とすると謳っています。学会員相互の、そして学会員と本誌読者との知的な交流の場である本誌が、短期的な政策に関する効果や影響を評価する場であるだけではなく、より大きな政策転換に向けての長期にわたる基礎研究を数多く蓄積する場として、その役割を今後果たしてくれることを期待してやみません。
(磯谷明徳)
- 編集委員
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委員長
- 磯谷明徳(九州大学)
副委員長
- 鈴木和雄(弘前大学)
委員
- 後藤康夫(福島大学)
- 竹野内真樹(東京大学)
- 遠山弘徳(静岡大学)
- 原田裕治(福山市立大学)
- 福島利夫(専修大学)
- 前畑憲子(立教大学)
- 松尾 匡(立命館大学)
- 吉村信之(信州大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。