新刊リスト| 既刊リスト| 季刊・経済理論リスト| 近刊予定
*ご注文いただく前にお読みください
季刊 経済理論 第48巻第3号(2011年10月) 特集◎中国経済をどうみるか
季刊・経済理論第48巻第3号

経済理論学会編

B5判並製/102頁
ISBN978-4-905261-62-9
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2011年10月20日

目次

[特集◎中国経済をどうみるか]

  • 特集にあたって 柴田 透
  • 世界市場の基軸国へ向かう中国 五味久壽
  • 「北京コンセンサス」を擁護する--高成長型の政府・市場のベスト・ミックス 大西 広
  • 中国における最低賃金制度の諸問題 塚本隆敏
  • 自虐的発展--グローバル化と中国の環境問題 張 玉林

[論文]

  • Marx-Sraffa均衡と固有値問題--Moore-Penrose疑似逆行列の応用 李 幇喜/藤森頼明

[研究ノート]

  • 資本主義の多様性アプローチの制度変化論における近年の展開--制度と制度補完性理解の修正を中心に 北川亘太
  • 「マルクス派最適成長モデル」における価値分割と傾向法則 田添篤史/大西 広

[海外学界動向]

  • World Association for Political Economy第6回大会に参加して 吉原直毅

[書評]

  • 有井行夫著『マルクスはいかに考えたか--資本の現象学』 唐渡興宣
  • 井村喜代子著『世界的金融危機の構図』 建部正義
  • 清水耕一著『労働時間の政治経済学--フランスにおけるワークシェアリングの試み』 平野泰朗
  • 基礎経済科学研究所編『未来社会を展望する--甦るマルクス』 松井 暁

[書評へのリプライ]

  • 『戦後日本資本主義の根本問題』に対する書評(評者:山田鋭夫氏)へのリプライ 涌井秀行
  • 『貨幣と賃労働の再定義』に対する書評(評者:鈴木和雄氏)へのリプライ 向井公敏
  • 『フェミニズムと経済学(第2版)』に対する書評(評者:森田成也氏)へのリプライ 青柳和身

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記 遠山弘徳

特集にあたって

かつて、故・森嶋通夫氏が、日本経済の打開策として、中国を中軸とした東アジア共同体構想を提案されてから10年が経過した(森嶋通夫『日本にできることは何か--東アジア共同体を提案する 』岩波書店,2001年)。

現在では、東アジア共同体構想が話題に上ることは少なくなってしまったが、中国経済に対する注目度はますます大きくなってきている。中国は名目GDPでは当時と比較して約4倍となり、昨年日本経済を抜き、アメリカ経済につぐ世界第2の経済大国となった。中国経済は、アジアの枠組みを超えて、いまや「世界の工場」と呼ばれるように世界経済における一大製造拠点となっている。

また旺盛な設備投資と国内の購買力の上昇による消費を背景とした巨大な市場としても期待されている。

その意味では、日本経済だけではなく、世界経済においても、中国の果たす役割はますます重要になってゆくだろう。

しかしながら、中国経済を理解するうえで、中国経済の高い経済成長や購買力という量的な側面だけに目を奪われるのではなく、それによる質的な変化や制度的な問題点にも目を向けた総合的な分析が必要であろう。

その意味で、政治経済学や社会経済学の視点から中国経済の分析を試みることは重要であると考え、今回の特集を企画した。

もう一つの視点は、中国経済の実態を多角的に捉えるということである。かつては、中国経済は社会主義経済という視点から分析されることが少なくなかったであろうが、現在では、それに加えて、高成長を続ける新興国でもあり、資源国であり、多民族国家であり、経済大国でもあるという多面性を持っているからである。

こうした趣旨に基づき、3名の会員と1名の非会員に執筆を依頼し、4本の論文を寄稿していただいた。(以下略)

(柴田 透)

編集後記

ジェット・リーという名前を聞くと、大半の方は『少林寺』や『HERO』といったアクション映画を思い出すことでしょう。ジェット・リーは現代中国を代表する国際派アクション・スターであり、多くのハリウッド映画の中にその勇姿を見ることができます。そのジェット・リーがいっさいアクションを見せないという異色の中国映画『海洋天堂 Ocean Heaven』が公開されています。この映画の中でジェット・リーが演じるのは、男手ひとつで自閉症の子供を育てる父親役です。ジェット・リー演じる父親は、ある日、癌に冒され余命わずかと宣告されます。父親は後に残される自閉症の息子の将来を案じ、1人でも生きて行ける術を教えて行きます。バスの乗り方だったり、シャツの脱ぎ方だったり、1つずつ教えて行きます。

本作において主題的に描かれるのは子に対する親の愛情の深さという普遍的なテーマですが、そこには同時に、現代中国の抱える深刻な問題を見ることもできます。この親子のように、市場経済からこぼれ落ちた人びとは--映画的な誇張を割り引いても--現代中国においては、きわめて厳しい現実に直面せざるをえないようです。これまでの国有企業等をベースにしたセーフティ・ネットが国有企業の改革によって失われる一方、国家をベースにした社会保障への切り替えも遅々として進んでいないようです。他面、伝統的な家族・地域社会も核家族化や地域社会の疲弊によってもはやセーフティ・ネットたりえないようです。

幸福研究において「チャイナ・パズル」という言葉があります。Easterlinパラドックスにしたがえば、急速に成長しつつある中国では主観的幸福度が高いことが期待されます。しかし、実際には、90年代以降、生活水準が大幅に改善されつつあるにもかかわらず、中国人の抱く幸福度が急激に低下しています。こうしたパズルの原因は今後明らかにされて行くでしょうが、そこには伝統的なセーフティ・ネットが失われつつあると同時に現代的なセーフティ・ネットが創出されていないということも関係しているのではないでしょうか。

柴田編集委員によって企画された「中国経済をどうみるか」は会員のみなさんに、そうした中国の現在を立体的に理解する機会を提供できるものと思います。ヨーロッパもアメリカも政府債務に悩まされ、また、日本が大震災の後遺症と原発事故に苦しむ中、今後の世界経済の中心が中国等の新興経済諸国にシフトすることは容易に予測されます。新興国のGDP(購買力平価ベース)は2008年に先進国のそれを上回り、今年は世界のGDPの54パーセントに達するようです。その意味でも本号は時宜を得た企画であると思います。

3月11日当時から振り返れば、ここに、いつものように会員のみなさんのお手もとに『季刊経済理論』を送り届けることができるのは「奇跡」に等しいことのように思えます。これも、原稿をお寄せいただいた執筆者のみなさん、お忙しい中査読の労を取られたレフェリーのみなさん、それに桜井書店をはじめとする出版にご尽力された関係者のみなさんのおかげです。この場を借りて御礼を申し上げます。以前には「日常的」であったことが「奇跡的」と思われるのは悲しいことです。一日でも早く、東北、東日本に平穏な日常が戻ることを心より願っています。

(遠山弘徳)

編集委員

委員長

  • 岡部洋實(北海道大学)

副委員長

    磯谷明徳(九州大学)

委員

  • 後藤康夫(福島大学)
  • 柴田 透(新潟大学)
  • 清水真志(専修大学)
  • 竹野内真樹(東京大学)
  • 遠山弘徳(静岡大学)
  • 福島利夫(専修大学)
  • 前畑憲子(立教大学)
  • 松尾 匡(立命館大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。