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季刊 経済理論 第47巻第4号(2011年1月)  特集◎カレツキ経済学の現代的評価
季刊・経済理論第47巻第4号

経済理論学会編

B5判並製/121頁
ISBN978-4-921190-78-1
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2011年1月20日

目次

[特集◎カレツキ経済学の現代的評価]

  • 特集にあたって池田 毅
  • カレツキアン・モデルの新しい展開:ストック・フロー・コンシステント・モデル大野 隆/西 洋
  • カレツキアン・モデルにおける短期・中期・長期佐々木啓明
  • カレツキとマルクス栗田康之
  • 『カレツキの政治経済学』再論山本英司

[論文]

  • 構造VARモデルによる日本経済の資本蓄積,所得分配,負債の動態分析:ポスト・ケインジアン・パースペクティブ西 洋
  •                        
  • 中国型リレーションシップと中小企業金融:中国民間金融の展開とその限界范立君
  •    
   

[研究ノート]

   
  • ネオ・シュンペーター学派の経済学:現在までの到達点瀬尾 崇

[書評]

  • 一井 昭編『グローバル資本主義の構造分析』福田泰雄
  • SGCIME編『現代経済の解読』安田 均
  • 向井公敏著『貨幣と賃労働の再定義』鈴木和雄
  • 中原隆幸著『対立と調整の政治経済学』山本泰三
  • 長島誠一著『エコロジカル・マルクス経済学』若森章孝
  • 相沢幸悦著『戦後日本資本主義と平成金融“恐慌”』古野高根
  • 塚本隆敏著『中国の農民工問題』溝口由己
  •   

[書評へのリプライ]

  • 『サブプライムから世界恐慌へ』に対する書評へのリプライ伊藤 誠

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記(柴田 透)

特集にあたって

M.カレツキの業績を知的源泉とし,1990年代以降,共通の枠組みで展開されてきた一連の研究として,カレツキアンと呼ばれるアプローチがある。ちょうど一年前にあたる本誌第46巻4号の特集企画は「ポスト・ケインズ派経済学の新たな展開と現代的課題」であったが,そのポスト・ケインズ派経済学において,とりわけその成長と分配の理論において,現在,中心的位置を占めるのが,いわゆるカレツキアンと呼ばれるアプローチである。既に本誌でもカレツキアン・モデルに基づく多くの論文が投稿掲載されているが,そうしたカレツキアンのアプローチならびにカレツキ経済学の全体像を多少なりとも鮮明化できればと考え,今回の特集を企画した。

現在のカレツキアンと呼ばれるアプローチが形成された主たる契機としては,以下の3つの業績が挙げられよう。付言しておくと,これらの業績の多くは本学会員の諸氏によって日本に紹介されている。

年代順に見ていくと(なお,以下の文献の詳細については,本特集に収められた寄稿論文を参照されたい),1つめは,R.ローソン(Rowthorn)による1981年論文「需要,実質賃金および経済成長」である。この論文は当初それほど有名ではない雑誌に掲載されたにもかかわらず,少なからずの反響を生み,それに関する多数の論文が発表された。

そのローソン論文のとりわけ印象的な理論的帰結は,いわゆる「費用の逆説」である。すなわち,費用としての賃金の増大は稼働率一定であるならば当然ながら利潤率を低下させるが,カレツキアン的な不完全稼働状態では,賃金の増大は有効需要の増大を通じて稼働率を押し上げるため,結果的にそれは利潤率を押し上げる,という逆説である。この逆説はまた,いわゆる「賃金主導」成長を支える基本的ロジックともなる。形式的には,この逆説は,かつてJ.シュタインドルが端的に要約したように,同一の賃金・利潤率フロンティア上の対抗的な分配の変化と,賃金・利潤率フロンティアそれ自体のシフトという2つの変化の「合成結果」として生じる帰結である。

2つめは,S.マーグリン(Marglin)とA.バドゥリ(Bhaduri)による1990年論文「利潤圧縮とケインズ理論」である。その直前に,主としてJ.ロビンソンとN.カルドアの流れを汲むネオ・ケインジアン・モデルに基づいて,マルクスとケインズの統合という試みを展開したマーグリンに対して,ポスト・ケインズ派の論者からその有効需要論の取り扱いの不十分さに対する批判が相次ぎ,L. テイラー(Taylor)やA. K. ダット(Dutt)に代表される構造的マクロ経済学者も巻き込みながら,関連する議論が展開された。

こうしたなかマーグリンは,バドゥリとの共著で,ケインズ=カレツキ的な有効需要論と一見矛盾するような(「費用の逆説」や「賃金主導」成長とはまさに正反対の)「利潤圧縮」を伴う低成長という現象を整合的に説明しうる分析枠組みを先の1990年論文で展開することになった。結果的に,この論文はカレツキアン・モデルにおいて多様な成長レジームが生じうることを示すものとなった。

3つめは,M. ラヴォワ(Lavoie)による,サムエルソンの有名な書物のタイトルをなぞらえた,1992年の著書『ポスト・ケインズ派の経済分析の基礎』である。そこではポスト・ケインズ派の成長と分配の理論において,カレツキアン・モデルが「基準(canonical)モデル」として設定され,先に挙げたネオ・ケインジアン・モデルとの異同やそれらの相互関係が手際よくまとめられている。その後もラヴォワは,カレツキアン・モデルに関する業績を次々に発表し続け,現在の代表的なカレツキアンの一人となっている。

以上のような背景を有する現在のカレツキアン・モデルならびにカレツキ自身の経済学について,今回は4本の論文をご寄稿いただいた。

(以下略)

(池田 毅)

編集後記

『季刊 経済理論』の編集委員を仰せつかってから1年が経ちました。当初,編集委員の任期は1年であると勘違いしており,後で2年であることを知りましたが,1年経ってみて,仕事の習得や継続性,さらには後任の人選などの点から任期2年は必要なのかもしれません。

さて,今回特集の補佐をすることとなりましたが,補佐といっても,特集についての企画から原稿依頼のほとんどは池田編集委員がされて,私は原稿に目を通して,編集後記を書くだけでした。 

本誌の今号の特集のテーマは,カレツキ学派です。カレツキ学派に関するこれまでの研究のサーヴェイや今号に掲載された論文の紹介については,池田編集委員が冒頭の「特集にあたって」で的確に述べられていますので,それ以外の点について触れたいと思います。

カレツキというと通常はポスト・ケインズ経済学派に属するとみられているため,前回の46巻4号の特集のポスト・ケインズ学派のテーマと重なるのではないかという点については,編集委員会でも少し議論になりました。

たしかに,カレツキの著作は,ポスト・ケインズ叢書にも収められており,このことからも,カレツキはあえて分類すれば,ポスト・ケインズ学派ということになるかもしれません。

しかし,カレツキというのは,今回の特集の内容を読んでいただければわかるように,ポスト・ケインズ学派のなかでもやや異質であるといえます。

まず,マルクスとの関連が深いという点です。この点は栗田会員が指摘されているように,20代の頃にマルクスの再生産表式に関心を持っていたといわれています。また,山本氏が指摘されているように,社会主義経済に関する業績もあります。そういう意味では,本学会とも問題関心を共有しえると思います。

カレツキアン・モデルの条件は,佐々木会員によれば,寡占市場におけるマークアップ価格設定,完全稼働までの限界費用一定,不完全稼働,貯蓄から独立した投資関数の存在の4つであるとされています。これらは,現実的な条件でモデルを構築しようとした場合に考慮すべき点であろうと思います。

しかし,ポスト・ケインズ派のピーター・スコット氏によって,このカレツキアン・モデルは,理論・実証の面から支持できないと批判され,それに対する反論が出ていることも紹介されています。今後,この論争がどのように展開されてゆくのかについても興味があるところです。

さらに,大野・西会員によって,金融資本主義まで取り扱えるようなカレツキアン・モデルの新しい展開が紹介されています。

今回の特集が,カレツキの再評価とともに,読者の皆さんにとって何らかの研究の刺激になりうることを願っております。               

(柴田 透)

編集委員

委員長

  • 角田 修一(立命館大学)

副委員長

  • 岡部 洋實(北海道大学)

委員

  • 池田 毅(立教大学)
  • 後藤康夫(福島大学)
  • 柴田 透(新潟大学)
  • 清水 真志(専修大学)
  • 遠山弘徳(静岡大学)
  • 新田 滋(茨城大学)
  • 福島 利夫(専修大学)
  • 松尾 匡(立命館大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。