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季刊 経済理論 第47巻第2号(2010年7月)  特集◎21世紀型世界恐慌と恐慌論研究の課題
季刊・経済理論第47巻第2号

経済理論学会編

B5判並製/124頁
ISBN978-4-921190-76-7
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2010年7月20日

目次

[特集◎21世紀型世界恐慌と恐慌論研究の課題]

  • 特集にあたって長島誠一
  • 2008年世界経済恐慌の基本性格鶴田満彦
  • アメリカ発世界経済金融危機とその原因星野富一
  • 2008年危機の性格--原理的および進化論的蓄積理論による解析海野八尋
  • 貸出債権の証券化とマクロ経済石倉雅男

[論文]

  • 『労働搾取の厚生理論序説』についての幾つかの補論吉原直毅
  • 感情労働論--理論とその可能性阿部浩之
  • クズネツ循環再論--グローバル資本主義の景気循環岩田佳久
  • 置塩経済学の理論と方法--一つの批判的評価森岡 真

[書評]

  • B. ポーキングホーン,D. L. トムソン著/櫻井 毅監訳『女性経済学者群像--アダム・スミスを継ぐ卓越した八人』居城舜子
  • 森岡孝二著『貧困化するホワイトカラー』福田泰雄
  • 小幡道昭著『経済原論--基礎と演習』亀崎澄夫
  • 金谷義弘著『管理通貨と現代資本主義--インフレーションと投機の経済学』大西 広

[書評へのリプライ]

  • 『資本主義の農業的起源と経済学』に対する書評(評者:沖 公祐氏)へのリプライ櫻井 毅
  • 『マルクス再生産論と信用理論』に対する書評(評者:川波洋一氏)へのリプライ伊藤 武

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記(新田 滋)

特集号にあたって

前FRB議長・グリーンスパンは、今回の危機は「百年に一度の危機(津波)」と発言した。この発言は自分の責任を回避するための誇張でもあるが、危機は同時に転換を意味する。「百年に一度の危機」であるとすれば、それは同時に「百年に一度の大転換」のチャンスでもある。また大転換を解明するような経済学の新しいパラダイムが生み出される可能性をも意味する。タイム・スパンを100年以上に取れば、「19世紀末大不況」としてイギリスの覇権が衰退していった時期との比較が必要になるだろう。レーニン『帝国主義論』は迫り来る世界戦争の危機に対処しようとした。タイム・スパンを80年くらいにすれば、1929年大恐慌と30年代の大不況と比較しなければならない。資本主義は金融資本による組織化(独占資本主義化)では危機を回避できず、国家が全面的に経済・社会・政治・イデオロギー分野の組織化に乗りだした。独占資本主義の国家独占資本主義への移行が始まり、資本主義を修正し救おうとしてケインズの『貨幣論』と『一般理論』が世に出された。失業は第2次世界戦争によってしか「解決」されなかったが、戦後は各国政府が国独資政策(いわゆるケインズ政策)を採用して1950・60年代の高成長を迎えた。今回の世界金融危機がこの時代の再来なのか否かが議論されるのも不思議ではない。このようなタイム・スパンからみれば、今回の危機は一国的な国家独占資本主義の危機、あるいは「一国的ケインズ政策」の失敗の性格が浮き彫りされてくるだろう。しかし戦後の高成長は、1970年代にブレトン・ウッズ体制の崩壊とスタグフレーションに陥った。タイム・スパンをこのように40年近くに取れば、その後に進展した「金・ドル」交換停止、アメリカの金融的報復とグローバリゼーションの進展が今回の世界金融危機を生み出したことになるだろう。おそらく、覇権問題、国家独占資本主義の国内体制の矛盾と国外体制の矛盾(「グローバル資本主義」の矛盾) が複合的に作用し、爆発したものと考えられる。

本学会は当然、今回の世界金融危機と同時不況を重視してきた。2008年度に「サブプライム・ショックとグローバル資本主義のゆくえ」を共通論題として、サブプライム危機を多面的に討論した(第46巻第1号、参照)。2009年度の共通論題は「2008年恐慌と資本主義のゆくえ」であり、金融危機を恐慌と規定し、危機論(カタストロフィ)・恐慌論・現代資本主義論・信用論・インフレ論からの多彩なアプローチと「資本主義のゆくえ」という将来展望が討論された(第47巻第1号、参照)。本特集号は、世界金融危機と世界同時不況をやはり重視するが、今回の世界金融・経済危機を「21世紀型恐慌」と規定した。もちろん今回の恐慌も、資本蓄積一般の循環的矛盾としての古典的循環の貫徹という性格はあるが、独占、国家の政策、そしてグローバル化した資本主義(「グローバル資本主義」)と情報化した資本主義(「情報資本主義」)と「金融経済化」などによる恐慌の形態変化と、21世紀資本主義の矛盾の展開・爆発・整理過程こそ重視されなければならない。今回の世界危機の根源にあるのはグローバルな資本蓄積過程であり、その矛盾はマルクス経済学が精力的に研究してきた恐慌論を基軸にしなければならない。こうした観点から、蓄積論・恐慌論的アプローチによって理論的・歴史的に解明しなければならない。しかし、現代の危機に従来の恐慌論を適用するのではなく、逆に、現代の危機の特徴を析出した上で、それを理論的に説明するためには従来の恐慌論研究で「未解決」ないし「未展開」な分野を発見し、開拓していかなければならない。このような恐慌論研究の新課題を議論する「たたき台」を提供することができているか否かは、読者の判断にゆだねたい。(以下略)

(長島誠一)

編集後記

編集委員を仰せつかって一年以上が経ったものの、依然として見習い気分が抜けないうちに特集号の補佐をする順番が巡ってきた。企画担当委員である長島誠一編集委員の指示に従って、特集寄稿論文、書評の校正をお手伝いしただけではあるが、この場を借りて御寄稿、御投稿頂いた皆様方には御礼を申し上げたい。また、御多忙の中、投稿論文のレフェリーを快く引き受けてくださった方々にも改めて感謝の気持ちを申し上げる。

2007年のサブプライム・ローン危機、2008年のリーマン・ショック以来、マルクス学派、ポスト・ケインジアンの恐慌論、景気循環論は俄に活気づいた観がある。実際、本学会の大会では、2008年度の共通論題「サブプライム・ショックとグローバル資本主義のゆくえ」(第46巻第1号、参照)、2009年度の共通論題「2008年恐慌と資本主義のゆくえ」(第47巻第1号、参照)、そして本号の特集テーマは「21世紀型恐慌」となった。この特集テーマには、一連の恐慌過程を「21世紀型」という特質のもとに照射しようとする企画担当委員の意図が込められているといってよい。それは、冒頭の「特集にあたって」に述べられているように、「独占、国家の政策、そしてグローバル化した資本主義(「グローバル資本主義」)と情報化した資本主義(「情報資本主義」)と「金融経済化」などによる恐慌の形態変化と、21世紀資本主義の矛盾の展開・爆発・整理過程こそ重視されなければならない」ということである。

もとより、この恐慌をそもそも「恐慌」と呼ぶかどうかから諸論者の見解は様々にわかれており、その特質をどうとるかも、19世紀型の再現とみなす立場、マルクスのいう「貨幣恐慌の第二類型」の延長上にとらえようとする立場、崩壊性の体制危機とみなす立場、等々、多岐にわたっている。いきおい、4本の寄稿論文の見解も多様である。

石倉論文は、「貸出債権の証券化による銀行の流動性の高まり」に「21世紀型恐慌」としての特徴をみ、また、海野論文は段階論(進化論)的蓄積モデルによって恐慌の形態変化から「21世紀型恐慌」としての特徴をみいだそうとしている。これらに対して、鶴田論文、星野論文は、それぞれ過剰生産恐慌、資本過剰恐慌という原理的な恐慌発現パターンが顕著に見られたことに着目している。

すでに、現実の恐慌は沈静化しつつあるとはいえ、ギリシアに端を発する財政危機から、もう一段の波乱があるのか否かは現時点で予断を許さない部分もあるが、恐慌をめぐる討論は一巡して、いよいよ理論的な深化が求められる局面に来つつあるようである。本特集号が、その一里塚となれば幸いである。              

(新田 滋)

編集委員

委員長

  • 角田 修一(立命館大学)

副委員長

  • 岡部 洋實(北海道大学)

委員

  • 池田 毅(立教大学)
  • 柴田 透(新潟大学)
  • 清水 真志(専修大学)
  • 遠山弘徳(静岡大学)
  • 長島 誠一(東京経済大学)
  • 新田 滋(茨城大学)
  • 福島 利夫(専修大学)
  • 松尾 匡(立命館大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。