- 季刊 経済理論 第46巻第4号(2010年1月) 特集◎ポスト・ケインズ派経済学の新たな展開と現代的課題
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経済理論学会編
B5判並製/112頁
ISBN978-4-921190-74-3
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2010年1月20日 - 目次
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[特集◎ポスト・ケインズ派経済学の新たな展開と現代的課題]
- 特集にあたって石倉雅男
- ポスト・ケインズ派経済学の現代的意義--賃金主導型経済を中心に中谷武
- ポスト・ケインズ派貨幣経済論の回顧と展望鍋島直樹
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「長期」と「短期」のマクロ経済モデルと金融の不安定性
--ポスト・ケインズ派金融不安定性分析の位置づけと評価二宮健史郎 - 蓄積と所得分配の動態パターンP・スコット& B・ジッペラー/訳=石倉雅男
[論文]
- 中小企業金融におけるハード情報とソフト情報の相違と相互補完関係新井大輔
- 長島恐慌モデルの再検討熊澤大輔
- シュンペーターにおける発展プロセスの不確定性--創造的破壊の時間と空間武田壮司
[書評へのリプライ]
- 『20世紀末バブルはなぜ起こったか』に対する書評(評者:星野富一氏)へのリプライ古野高根
- 『労働搾取の厚生理論序説』に対する書評(評者:藤森頼明氏)へのリプライ吉原直毅
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記(池田 毅)
- 特集にあたって
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ポスト・ケインズ派経済学(Post Keynesian economics)は,ケインズ(J. M. Keynes)の経済学を理論的源泉とし,その後のハロッド(R.F. Harrod),カルドア(N. Kaldor),ロビンソン(J. Robinson),カレツキ(M. Kalecki),スラッファ(P. Sraffa)などの経済学者による展開を経て,現代では,新古典派経済学に基づく主流派経済理論へのオルタナティヴを提唱する諸潮流を形成している。本誌でも,資本蓄積と所得分配,雇用,金融不安定性などの現代経済の諸問題に関するポスト・ケインズ派経済学の視点からの新しい研究が,続々と発表されている。また,2008年半ば以降に深刻化した世界金融危機と同時不況を契機として,ミンスキー(H. Minsky)の金融不安定性論への関心が再び高まり,金融の証券化を考慮に入れた現代経済の金融化(financialization)の分析が試みられるなど,ポスト・ケインズ派経済学の視点からの研究の進展が期待されている。
ポスト・ケインズ派経済学によって従来から提起されてきた主要論点として,有効需要原理,貨幣の非中立性,歴史的時間軸の重要性などを挙げることができる。しかし,主流派経済理論へのオルタナティヴとしてのポスト・ケインズ派経済学の現代的意義を明確に示すためには,これらの主要論点をそのままの形で強調するだけでは十分でない。主流派理論との対比を可能にする分析枠組みのなかで,現代経済の諸問題をめぐる主流派とポスト・ケインズ派の違いを説明することが求められる。そこで,資本蓄積と所得分配,貨幣経済の特質と金融政策,マクロ経済と金融不安定性など,現代経済の諸問題を題材として,ポスト・ケインズ派経済学の現代的意義とは何かを議論していただく機会になればと考え,本特集を企画した。(以下略)
(石倉雅男)
- 編集後記
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いわゆるバブル経済がそのピークへと至る80年代後半から、その後の長期不況が未だ実感されていなかった90年代初期にかけてであろうか、その頃ちょっとした文化人の気の利いた台詞として「日本はもっとも成功した社会主義国である」といった皮肉交じりの表現をよく見聞きしたものである。その後の日本経済は、失われた10年とも15年ともいわれる長期不況へと突入し、構造改革というある種の政治的狂騒を経て、今現在、むしろ資本主義経済そのものの荒々しい側面を露わにしつつある。いわゆる派遣切り問題に象徴される非正規雇用者の労働環境悪化はいうに及ばず、正規雇用労働者においても高すぎるといわれ続けた労働分配率は急速に下落しつつあり、一方で、いわゆる銀行離れをした大企業では、かわって、株主重視というお題目のもと株主への配当性向を2000年代に入って急上昇させている。もはや企業は、資本と労働のコンフリクトを調和させる場というよりは、むしろそれが鮮明化される場となったかのようである。また大企業の銀行離れの裏面では、優良顧客を失った銀行は、市場型金融への転換へといった 掛け声にもかかわらず、目下のところ当座のモデルとしていたアメリカ型金融市場が危機そのものにあり、その行き先も見失ったかのようである。
こうした状況において、資本主義経済の不安定性・不調和性を一貫して強調してきたポスト・ケインズ派の経済学について本号で特集が組まれたことは、単なる特集企画以上の意義を有するものであろう。もちろん、その経済学は現在の諸問題に対して手っ取り早い処方箋を提示するという類のものではないが、しかし、極端に予定調和論的な市場均衡を前提とするような一部の主流派マクロ経済学が、世界的規模の経済危機のもと急速にその妥当性を失いつつある現在、なにかしらのオルタナティブなアプローチが求められていることも確かである。この意味において、ポスト・ケインズ派の経済学もその1つの可能性として評価されるべき時期といえるであろう。本号に収められた4つの論文も、それぞれの論者の視角から、蓄積・分配・雇用・金融などの現代の資本主義経済の中心的問題に切り込むための独自の分析を提示している。本号の特集企画が読者の今後の研究に様々な示唆を与えることができれば、共同編集担当者としては望外の喜びである。
ところで共同編集担当者とはいっても、今回の特集企画については、発案やその後の作業も含めて、実質的に石倉編集委員おひとりのご尽力によるものであり、とりわけ、海外からの寄稿者との調整や翻訳作業などは大変なご苦労をされていた。共同編集担当者としての不甲斐無さを詫びる意味も込めて、そのことをここに明記しておきたい。またご寄稿いただいた執筆者の方々には、共同編集担当者としてあらためて厚く御礼申し上げたい。
特集企画とは別に、編集作業の苦労の1つが投稿論文の査読審査である。私自身もこれまで一般会員として論文査読を経験してきたが、編集委員となってあらためて会員による査読へのご協力の有難さを実感している次第である。本来、望ましい査読制度のもとでは、投稿者・査読者の双方にメリットがあると考えるべきであろう。すなわち、投稿者にとってのメリットは、いうまでもなく、査読付き論文という形でその果実を受け取れることであり(たとえそうでなくても、その後の論文改善に資する何らかを受け取れるであろう)、一方、査読者にとってのメリットとは、投稿論文における新しい知見を誰よりも早く目にすることができ、またそれによって自らの研究の刺激を得ることができることなどであろう。しかしながら、本誌の査読制度の現状では、投稿者と査読者のバランスシートはきわめて不均衡の状態になっている。こうした問題を踏まえたうえで、投稿者には今後より良質な論文を数多く投稿されることを切願し、また査読者には、本来の望ましい制度のもとでありうべきメリットについてもご勘案いただき、 これまでと同様、査読制度にご協力いただくことを懇願する次第である。
(池田 毅)
- 編集委員
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委員長
- 岡本 英男(東京経済大学)
副委員長
- 角田 修一(立命館大学)
委員
- 池田 毅(立教大学)
- 石倉 雅男(一橋大学)
- 佐藤 隆(大分大学)
- 柴田 透(新潟大学)
- 清水 真志(専修大学)
- 長島 誠一(東京経済大学)
- 新田 滋(茨城大学)
- 米田 貢(中央大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。