- 季刊 経済理論 第46巻第3号(2009年10月) 特集◎経済学の数理的方法と記述的方法
-
経済理論学会編
B5判並製/112頁
ISBN978-4-921190-73-6
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2009年10月20日 - 目次
-
[特集◎経済学の数理的方法と記述的方法]
- 特集にあたって佐藤良一
- Marx経済学と数学--過去,現在,未来藤森 頼明
- ペロン‐フロベニウス定理の経済学への応用--数学者たちの「マルクスの基本定理」守 健二
- 数学利用におけるマル経/近経問題大西 広
- 経済学の現状打破に数学はどう関係するか塩沢 由典
[論文]
- The Case for Reformulating Marx's Theory of the Falling Rate of ProfitNAMHOON KANG & DONG-MIN RIEU
- 産業予備軍創出効果を考慮したカレツキアン・モデル佐々木 啓明
- 日本における株主配分の増加と賃金抑制構造--M&A法制の規制緩和との関わりで柴田 努
[書評]
- 伊藤 武著『マルクス再生産論と信用理論』川波 洋一
- 櫻井 毅著『資本主義の農業的起源と経済学』 沖 公祐
- 一井 昭・渡辺俊彦編著『現代資本主義と国民国家の変容』関下 稔
- ロバート・ポーリン著 佐藤 良一・芳賀 健一訳『失墜するアメリカ経済--ネオリベラル政策とその代替策』柴田 コ太郎
- ロバート・パクストン著/瀬戸 岡紘訳『ファシズムの解剖学』渡辺 雅男
論文の要約(英文)
経済理論学会創立50周年「記念事業・活動強化基金」募金趣意
経済理論学会創立50周年記念講演とパネル討論のご案内
経済理論学第57回大会(創立50周年記念大会)のご案内
刊行趣意・投稿規定
編集後記(佐藤 隆)
- 特集にあたって
-
主として<数学的>方法に依って研究を進める者と,主として<実証的>方法に依って研究を進める者。もちろん両者が截然と分離していると断ずるわけではない。ここに収められた4編の特集論文は理論/理論史専攻者に執筆されてはいるが,数理的/理論的分析と実証分析を架橋するような実りある議論が今後さらに展開されるようになれば,という思いから今回の特集が企画された。
経済学が採用すべき<方法>は分析対象とする経済現象あるいは分析目的に依存して決定される。<数学的>方法,<実証的>方法あるいは<歴史的>方法。因果関係という観点から現象を見ると,AがBを規定し,BがCを規定し,……,というように単線的構造になっている場合がある。単線構造であれば,Aを初発の原因と定め,BからCへと順をおって,叙述的に因果関係を追求できるだろう。ところが,レオンティエフ体系での単位労働価値決定の問題に見られるように,多くの場合は規定関係が複線的構造になっている。生産技術条件が与えられていても,特殊な生産構造でない限り,第1財の価値が決定され,次に第2財,次いで第3財, ……,というように,順序よく財の単位労働価値を求められない。因果の順序を追えないのである。ここに連立方程式という<数学的>形式を要請する根拠がある。そして経済量が時間の経過のなかで変化していく変動過程(成長・循環)の分析には,微分方程式,差分方程式という<数学的>方法が採られてきた。
経済現象の<量>的側面を分析していくためには,数学は不可欠な要素である。しかし政治経済学が強く主張してきたように量的連関の分析に終始するのではなく,さまざまな経済量の量的関係を成り立たせている制度的前提あるいは量的運動の制度依存性も分析されねばならない。制度の分析・構造変化の分析・<質>の分析も不可欠であり,そしてその方法が問われる。例えば,進化的方法が採用されるべきなのか,それとも,……。
経済現象にあらわれる諸変数が数量化されることが数学的方法援用の大前提であるが,それが十全に満たされているとは必ずしも言えない。例えば,現実の経済量が連続的に変化することはほとんどなく,通常は一個,二個というように離散量でしかないが,数学的形式に沿って連続量と想定されてしまう。同時決定の体系で現実世界を模写できるとしても,現存する商品の数,労働の異質性,多様な生産技術等々を斟酌すれば,体系の次元はきわめて大きくなり,じっさいの計算は不可能になってしまうという計算量の問題もある。
論理の始点にAが選びとられるためには,現象の<実証的>分析が不可欠だろう。さまざまな出来事は連続的に流れる時間軸に沿って生起している。資本制経済という<大文字の制度>も○○年△△月□□日の午前0時から始まったというように初期点が確定できるわけでもない。微分方程式で運動を記述するためには初期条件が与えられねばならない。歴史的事実からの抽象,概念化という操作がなければならない。はたして,(政治)経済学において<数学的>方法,<実証的>方法,<概念的>方法はどのような姿をとるべきなのだろうか。(以下略)
(佐藤良一)
- 編集後記
-
森嶋通夫は生前、大学院生向けの特別講義の中で「偉大な経済学者になるためには数学はいらない」と語ったことがある。彼曰くシュムペーターはその好例で、かつてグッドウィンに森嶋が「シュムペーターはどれだけ数学ができたのか?」と尋ねたところ、グッドウィンは言下に「まったく(Nothing)」と答えたという。シュムペーターほどの経済学者ですら数学ができなかったのだから、偉大な経済学者になるためには数学はいらない、というわけである。
これまでの本誌特集が経済理論と経済現象との関連を取り上げることが多い中、本号は「経済学の数理的方法と記述的方法」と題し、経済理論の方法論それ自体、とりわけ経済学の数学利用のあり方を問ういささか「特異な」特集号となった。とはいえ、アメリカ発のサブプライム恐慌以降、経済学の枠組み自体を見直す機運が確実に高まってきていることに鑑みれば、経済学の方法を改めて問い直す本特集こそ、まさに時代の要請に応えるものである。1929年の大恐慌が当時のケインズに『一般理論』を書かせたとすれば、さて、現下の恐慌は現代の経済学者に何を書かせることになるのだろうか。時代は、主流派経済学に取って代わるオルタナティブな経済学の登場を俟っている。とはいえ、偉大な経済学者になるには数学は無用だとしても、数学を拒絶すれば偉大な経済学者になれるわけでもあるまい。 本号に掲載された4本の特集論文は、いずれも時代の要請に応えんとする経済学徒にとって、建設的・論争喚起的な論文である。特集担当委員の一人として、本特集論文が今後の学会における論争・研究の進展に寄与することができたのではないかと心密かに自負している。快く寄稿を承諾していただいた執筆者の方々には、改めて御礼申し上げたい。 また、本号は投稿論文3本を掲載することができた。投稿論文掲載に当たっては、査読を引き受けていただいた方々に対しても謝意を表明したい。一面識もない方々に対し査読の負担を依頼するのは、編集委員の責務とはいえ心理的負担を伴うものである。幸いにして査読の申し出が断られることは極めて少ない。今後も、本誌査読制度の円滑な運営と一層の発展のためにご助力をいただききたい。また併せて投稿者には、査読者に対する敬意を以て投稿に臨むことを切にお願いしたい。査読者の中には審査評定のみならず、実質的な論文指導や本格的な校閲作業も厭わぬ清廉恪勤の士も少なくない。これは見方を変えれば、指導や校閲の余地を残した投稿論文が少なからず存在しているということをも意味している。まさか匿名査読者を指導教員や校閲業者などと取り違えている投稿者は皆無であろうが、査読者の負担軽減のためにも、投稿者に対しては投稿前に今一度の熟読玩味を懇請するとともに、積極的な投稿を切願する次第である。 最後に、数式が一本増えると読者が半分に減ると言われる出版状況の中、学会誌とはいえこのような趣旨の特集誌が刊行されるのは、桜井書店の理解と協力なくしては不可能である。桜井書店に改めて感謝の意を表するとともに、本号が一人でも多くの読者に恵まれんことを乞い願わずにはいられない。
ところで、冒頭に紹介した森嶋の話には続きがある。「シュムペーターほどの偉大な経済学者でも数学ができなかった」と語った後、「だからこそ」と付け加えて彼は次のように言った。「偉大な経済学者になれない人間は、せめて数学を勉強すべきなのです」。ここで読者に本号の一読を薦めるとすれば、それは完全に蛇足である。
(佐藤 隆)
- 編集委員
-
委員長
- 岡本 英男(東京経済大学)
副委員長
- 角田 修一(立命館大学)
委員
- 池田 毅(立教大学)
- 石倉 雅男(一橋大学)
- 佐藤 隆(大分大学)
- 佐藤 良一(法政大学)
- 柴田 透(新潟大学)
- 清水 真志(専修大学)
- 長島 誠一(東京経済大学)
- 新田 滋(茨城大学)
- 米田 貢(中央大)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。