- 季刊 経済理論 第45巻第3号(2008年10月) 特集◎日本資本主義は変わったか
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経済理論学会編
B5判並製/118頁
ISBN978-4-921190-98-9
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2008年10月20日 - 目次
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[特集◎日本資本主義は変わったか]
- 特集にあたって植村博恭
- 日本型企業システムの変容と雇用--収斂か拡散か、それともハイブリッド化か磯谷明徳
- 日本の金融システムの回顧と展望--銀行部門の構造変化を中心に石倉雅男
- 構造改革と日本資本主義の変容金澤史男
- 交易損失と外需依存と低賃金指向型FDI--グローバリゼーション下の日本経済佐藤秀夫
[論文]
- 産業予備軍効果を考慮した長期カレツキモデル大野 隆
- 同質性としての価値概念清水真志
- サービス商品の価値論的特徴について--非価値対象性、価値規定性、不確定性今井 拓
[海外学界動向]
- 「世界政治経済学会」第3回大会について瀬戸岡 紘
[書評]
- 除本理史著『環境被害の責任と費用負担』遠藤宏一
- S・カレンバーグほか著/長原豊監訳『経済学と知』新田 滋
- 大谷禎之介編『21世紀とマルクス』植村高久
- 星野富一著『景気循環の原理的研究』栗田康之
[書評へのリプライ]
- 『福祉国家の可能性』に対する書評へのリプライ岡本英男
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記(佐藤良一)
- 特集にあたって
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1991年から10年以上に及んだ日本経済の長期不況は、しばしば「失われた10年」と呼ばれている。しかし、それはたんなる空白の10年だったのではなく、日本資本主義を支える様々な制度が大きな変化にさらされた時期でもあった。個々の制度を見れば、大きく変わったものも、さほど変わっていないものあるにちがいない。では、全体として「日本資本主義は変わったのか」、これが本号の特集で考察したいテーマである。
(以下略)本特集号に寄稿された諸論文は、「日本資本主義は変わったか」という問いに直接答えるというよりも、丹念な分析を提示することで、この問いに答えるための客観的事実と分析枠組みを示してくれているように思われる。そこでの分析によれば、雇用システム、金融システム、経済政策、国際経済関係には、かなり大きな変化が生じたことが見てとれる。そのうえで、トータルシステムあるいは資本蓄積レジームにどのような構造変化が生じているのか。日本資本主義は、新たな段階に入りつつあるのか。この問い答えるために、様々な領域における地道な分析の成果を総合し、日本資本主義の全体像を把握するのは、読者一人一人の今後の課題であると言えよう。
(植村博恭)
- 編集後記
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冒頭の「特集にあたって」で述べられているように、全体として「日本資本主義は変わったか」が問われた。寄せられた4編の論文は、企業/雇用システムの変容、金融システムの変化、経済政策の変容、国際経済関係に焦点を絞り、諸事実にそくして丁寧な分析をおこなっている。個々の領域では大きく変わったと言えても、トータルシステムとしての変化如何に対して明示的解答を与えてはいない。日本資本主義が新たな段階に入りつつあるのか否かは、読者一人一人の今後の課題として残された。そもそもここで提起された問いは、一度の特集で完了する性格のものではない。引き続き会員相互の研究・その協働により追究されねばならない。
資本主義の「段階」という表現は、例えば「蓄積の社会的構造(SSA)理論」を想起させる。SSAアプローチにもとづいてアメリカ資本主義を時期区分すれば、1980年代ないし1990年代が第4の段階に位置する。果たして新たなネオ・リベラルSSAが<形成>されたのか否か? ラディカル派のなかでもいまのところ意見の一致はみていない。資本対資本、資本対労働、労働対労働、政府対経済を四つの支柱とするSSAアプローチにもとづく資本主義分析とも呼応させつつ、研究を進めるのも一つの方向性かもしれない。
「変わったか」の問いには、言うまでもなく「いつ、なにが、なぜ、どのように」等が含まれる。そうした実証で終わるのではなく、同時に「どのように変えるべきか」にも応えていかねばならない。先の特集「<格差社会>化とオールタナティブ」(44-4)、「〈格差社会〉をどうみるか」(45-1)などが取り組んだ問題系である。
「日本のあるべき姿として、どのようなイメージをもっているか」にかんする最近の世論調査(北海道大学・市民社会民主主義/福祉レジーム研究プロジェクト、2008年)に依れば、「北欧のような福祉を重視した社会」(58.4%)、「かつての日本のような終身雇用を重視した社会」(31.5%)、「アメリカのような競争と効率を重視した社会」(6.4%)という結果になっている。
日本資本主義が「変わっていく先」と人々の望む社会イメージは一致しているのだろうか、あるいはそもそも一致しうるのであろうか。ますますテーマが大きく、広がってしまうが、今回の特集は、こうしたテーマを討究するさいの一つの基礎になったのではないか。読者諸氏の判断に任せたい。
季刊化された査読誌として『季刊経済理論』は2004年4月に第1号(通巻第41号)が刊行され、今年で5年目を迎えた。論文投稿数が多すぎて処理に困ると言うことはないにしても、つねに一定数の投稿があり、査読誌として定着した感がある。学会誌として質を高めていくために解決しなければならない課題もあろう。第42/43巻の編集委員を務めたが、再びピンチヒッターとして第45巻から編集委員会に加わることになった。前回の経験を生かしながら、努めたいと思っている。会員諸氏には原稿/レフリーなどを依頼することがありますが、あらためてご協力をお願いします。
(佐藤良一)
- 編集委員
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委員長
- 芳賀健一(新潟大学)
副委員長
- 小松善雄(元立教大学)
委員
- 石倉雅男(一橋大学)
- 稲富信博(九州大学)
- 植村博恭(横浜国立大学)
- 大友敏明(立教大学)
- 佐藤 隆(大分大学)
- 佐藤良一(法政大学)
- 清水 敦(武蔵大学)
- 米田 貢(中央大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。