新刊リスト| 既刊リスト| 季刊・経済理論リスト| 近刊予定
*ご注文いただく前にお読みください
季刊 経済理論 第44巻第2号(2007年7月)  特集◎現代資本主義と情報革命
季刊・経済理論第44巻第2号

経済理論学会編

B5判並製/104頁
ISBN978-4-921190-93-4
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2007年7月20日

目次

[特集◎現代資本主義と情報革命]

  • 特集にあたって二瓶 敏
  • <情報化>を視軸に現代資本主義をみる 半田正樹
  • 情報通信革命の進展と資本主義の変容藤田 実
  • IT革命とは何か?--ひとつの中間報告小谷 崇
  • 情報化と新しい分業構造渋井康弘

[論文]

  • 非正規雇用への代替と経済成長間宮賢一
  • 資本蓄積と労働力市場の安定性・不安定性--実質賃金率の決定理論,及び,その変動による調節メカニズム高橋 勉
  • Kautsky, Lukacs, Althusser and the Retreat from the Economic in Marxism--with the Return in UnoRichard WESTRA

[研究ノート]

  • 技術と環境--問題提起として氏川恵次

[書評]

  • 長島誠一著『現代の景気循環論』石倉雅男

[書評へのリプライ]

  • 『社会経済学--資本主義を知る』に対する書評(評者:佐藤 隆氏)へのリプライ八木紀一郎

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記(大友敏明)

特集にあたって

情報革命とは,第2次世界大戦後,アメリカ主導で展開されてきたデジタル情報処理と通信にかかわる技術の躍進が,1990年代以降インターネットを中軸として合流し,ここに築かれた情報の受発信・処理・蓄積・検索等の新たな技術体系が,経済・社会の全側面に対して革命的と言うべき巨大な衝撃を与えつつある事態を指す。すなわち,まず半導体技術は,1950年代のトランジスタに始まり,60年代のIC(集積回路),70年代のLSI(大規模集積回路),80年代以降の超LSIへと飛躍的な進歩を遂げてきたが,なかでも1971年インテルによる最初のマイクロプロセッサー4004の開発が画期的であった。この半導体技術の発達をベースとして,これを情報処理の心臓部とするコンピュータの小型化が進められ,1981年IBM/PCの発売によってパソコンの時代が始まった。また,マイクロプロセッサーを機械やロボットに組み込み,これをソフトウェアによって制御するME(マイクロ・エレクトロニクス)技術が発達し,機械のオートメーション化を推し進め,人間の手作業を大幅に削減してきた。さらに,1969年米国国防総省ARPA(高等研究計画局)ネットにおけるパケット交換を嚆矢とし,83年のTCP/IPプロトコール(通信規約)の国防総省認定によって基礎を固められたインターネットが,学術用ネットの一時期を経て,90年代商用に開放された。これに90?93年WWW(World Wide Web)方式とブラウザ(閲覧ソフト)が導入されたことによって,インターネットの利用は世界的規模で爆発的に普及することとなった。インターネットは,情報の中央集中的処理を特徴としていたかつての大型コンピュータ(メインフレーム)のネットワークとは異なり,パソコンまたは携帯電話などを情報端末とする自立・分散・対等・双方向ネットという特徴をもち,リアルタイムでのグローバルな交信を可能ならしめるインフラストラクチャーであって,企業や政府や個人の経済的・社会的活動を激変させつつある(商品や金融取引のグローバル化,企業間の新たな提携,企業・消費者間の新たな関係,個人のブログ発信と個人間連携,膨大な情報の検索の新技術,軍事技術の変革,等)。

今回,本誌では,この情報革命が現代資本主義に及ぼす変化を究明するために,最近この分野で研究を進めておられる4人の方々に執筆をお願いした。それぞれ力作を寄せられたことに,厚くお礼申し上げる。

4人の寄稿者は,いずれも,この情報革命が現代資本主義に,とりわけその基礎過程(広義の生産様式=生産・分配・交換・消費の過程)に及ぼす影響を深刻に受け止め,その理論化に努められた。寄稿者たちは,一様に,情報革命にともなう労働編成の変化,とりわけ手作業のウエイトの減少と科学的・技術的労働のウエイトの増大,POC(Point of Sales)やSCM(Supply Chain Management)などによる企業間関係の緊密化(受注に応じた生産計画の作成),従来の独占資本とは異質な情報関連産業基盤のグローバルな新独占資本の登場などに注目された。そこでは,重要な論点について一致した結論が見出された場合もあったが,幾つかの問題点では見解の相違が明確になった。

例えば,寄稿者の多くは現代を「情報資本主義」と規定する北村洋基氏の著書(『情報資本主義論』2003年)に言及しているが,氏がオートメーションを機械制大工業を越えるものと把握することについて,藤田・小谷・渋井の諸氏は基本的に同様の考えを表明しているのに対し,半田氏はこれを正面から批判し,現代を機械制大工業の「極限」,「ハイパー工業化」と把握すべきだと主張している。半田氏の緻密な理論展開は,この問題をめぐって一層の論議を呼ぶものと思われる。

現代の分業構造について,渋井氏は,情報化が作業場内の分業を従来の工程別から機能別(プログラミング・労働手段の保守・研究開発)に変え,人間を機械の付属物たる位置から解放する可能性を生みながら,資本のもとではこの可能性の現実化が阻害され,知識・権限が資本に集中され,労働者全体としては,高度な意思決定に関わる一部の者と狭い裁量の余地しか与えられない多数の者とに二極分化するということを指摘している。藤田氏は,機能別分業(企画開発・設計試作・量産)と工程別分業との並存を指摘するとともに,分業のグローバル化にともなう矛盾(部品の組み付け作業の先進国から海外への移転,その結果としての先進国の産業空洞化や雇用喪失)を重視している。両者は,やや異なった視点からではあるが,現代資本主義における分業構造の歪みにメスを入れようとしているのである。

情報革命が生産の無政府性にどう影響するかについては,意見の相違が見られる。半田氏は,もともと消費を含む流通は商品経済的合理性とは「異質の原理」に立っていたのであるが,<情報化>とは,この消費と流通を,商品経済的合理性を受容するものへと再編する傾向をもつのだと捉え,これを通じて流通過程の不確実性が一定程度「縮約」されると説く。渋井氏は,従来のグローバルな分業が市場を媒介とする無政府的な社会的分業であったのに対し,現在は,グローバルな独占の下で,または提携する企業グループ内で,予め計画された社会的分業が作業場内分業と連動して行われていることに注目している。小谷氏も,通信革命は市場経済を計画経済に近づけると言う。他方,藤田氏は,むしろSCMやEMS(Electronics Manufacturing Service)によって過剰発注や過剰生産が累積する危険性が高く,生産の無政府性は拡大すると主張している。

情報革命のもとでの独占資本のあり方に変化が生じたかどうかについても,寄稿者たちの意見はまとまってはいない。半田氏は,独占資本主義段階の金融資本的蓄積様式とは異なる様式の出現にはいたっていないと述べている。これに対し,渋井氏は,様々な国家を出自とする従来の独占資本が,最初から世界市場を前提とする「グローバルな独占」に再編されつつあることを強調している。他方,藤田氏は,重化学工業基盤の従来の独占資本に対する情報産業基盤の独占資本の独自性を強調し,ここでは科学的労働(個人の営為によることが多い)にもとづく代替製品の登場の可能性が強く,独占資本の支配は従来に比してはるかに不安定になったと言う。

情報革命が資本主義を超える未来社会への展望をはらむかどうかは,深刻な問題である。小谷氏が「ネット上のコンミューン」を「未来社会を生む一源泉」と捉えるのに対し,藤田氏は情報化の中に「コモンズ的原理」が含まれており,「将来の社会像を考える上で重要な問題」が提起されているとしながらも,なお結論を留保している。他方,半田氏は,ネット上の非営利的な活動や<知の共有>の広がりがあるとはいえ,それが直ちに資本主義を超える何かに<自動的に>接続するものではないことを確認している。渋井氏も,情報化のうちに民主的な生産様式の萌芽を見る論者に対して,情報化はサーバーへの情報集中と情報操作の手段ともなりうるということに注意を促しつつ,コンピュータ・ネットワークが民主的社会を実現するには自覚的な主体が必要であるが,この主体は情報化が自動的に生み出すものではなく,現時点ではそうした主体の成長は十分ではない,と述べている。

以上の諸点を始めとして,この特集では,情報革命にともなう現代資本主義の変容をどう捉えるかについての重要な諸論点が,それぞれ独自な視角から提起されている。ここに寄せられた諸氏の論稿が今後の議論を深化させるための契機となることを,期待したい。

(二瓶 敏)

編集後記

ようやく本号が出来上がりました。それぞれ労作をお寄せいただいた執筆者の方々には深く感謝いたします。

本誌『季刊 経済理論』は,2004年の41巻1号からスタートしました。本号は44巻2号ですので,丸3年が経過したことになります。編集委員を約1年務めて感じることは,本誌の編集体制がきわめて効率よく運営されていることです。編集用のマニュアルも揃っていますし,何よりも編集の分業体制が確立しています。本誌は大きく特集と投稿論文の2部で構成されていますが,特集は各号の編集責任者が担当し,投稿論文の窓口は編集委員長が一手に引き受けています。こうした分業体制が確立している上に,出版社を含む各担当領域の進捗状況を相互に連絡しあうシステムが確立しています。本誌は季刊ですので,かなりリジッドなタイム・スケジュールで各担当が動いていかなければ,後続号の編集作業に影響を及ぼすことになります。創刊から3年経った現在,この編集体制は円滑に稼働しているといってよいと思います。

編集体制をさらに充実させる点を挙げるとすれば,それはレフェリー制度にあるかと思います。本誌は厳格なレフェリー制度によって投稿論文が審査されています。学会誌である以上,レフェリー制度は生命線です。この制度が十全に機能しなければ,稚拙な論文でも掲載されるなどといった評判を生んで,学会誌の評価を下げ,真に投稿したい研究者を離反させてしまうことになります。編集委員もそのことは熟知していますので,委員会が特に注意を払うのは,このレフェリーの人選です。現在,投稿論文1編に対して2人のレフェリーを依頼していますが,まず誰に査読を依頼するのか,次にこの2人が異なった立場から査読してもらえるのかが編集委員会の抱える頭の痛い問題です。しかしレフェリーの人選は結局,編集委員会の仕事ですので,編集委員会の見識に任せていただくしかないのが実状です。

レフェリーの質をいかに確保するかという問題とともに,他方でレフェリーの数をいかに確保するかについても課題はあります。編集委員会が依頼するレフェリーの数もここ3年間で優に延べ100人は超えています。この数字はレフェリー業務が会員諸氏に広く分散していることをあらわしていると同時に,一方では集中化の傾向も見てとれます。編集委員会の方針としては,なるべく特定の会員にレフェリーを依頼しないように細心の注意を払っていますが,分野によってはどうしても特定の会員に依頼せざるをえない場合があります。最近は,そうした傾向が一層強くなってきているように思います。この課題を解決するには,非会員にも査読をお願いすることが考えられますが,しかしそれは学会員の論文は自分たちで査読するというピア・レビューの原則が崩れることになりますので,学会としては議論の余地のあるところです。当面は,レフェリーを依頼された会員の過重負担にお願いするしかない,というのが現状です。

学会誌を支え一層発展させるのは,会員諸氏の投稿論文である以上,広く投稿論文を募るとともに,他方で投稿論文の数が増えれば増えるほど,それを査読する会員諸氏の過重な負担が増えることも忘れてはならないと思います。したがって現行のレフェリー制度を不断に検証し改善していく姿勢をもつことが重要だと思います。

(大友敏明)

編集委員

委員長

  • 屋嘉宗彦(法政大学)

副委員長

  • 稲富信博(九州大学)

委員

  • 石倉雅男(一橋大学)
  • 出雲雅志(神奈川大学)
  • 植村博恭(横浜国立大学)
  • 大友敏明(山梨大学)
  • 清水 敦(武蔵大学)
  • 二瓶 敏(専修大学・名誉)
  • 松本 朗(立命館大学)
  • 吉原直毅(一橋大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。