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季刊 経済理論 第43巻第3号(2006年10月)  特集◎国債累積下の現代経済
季刊・経済理論第43巻第3号

経済理論学会編

B5判並製/112頁
ISBN4-921190-90-9
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2006年10月20日

目次

[特集◎国債累積下の現代経済]

  • 特集にあたって松本 朗
  • 現代経済システムと国債の累積--現代日本の資本蓄積と国家の経済活動によせて山田博文
  • 国債累積と金融システム斉藤美彦
  • 現代日本の財政危機--借り手としての国家の信頼性について米田 貢
  • 2000年代前半の国際資本移動におけるアメリカの役割徳永潤二

[論文]

  • 二重労働経済とサービス経済化山口雅生
  • Falling Rate of Profit and Overaccumulation in Marx and Keynes LefterisTSOULFIDIS
  • 金融の不安定性と政策金融の役割--金融不安定性のマクロ動学モデルによる再検討二宮健史郎

[書評]

  • 伊藤 誠著『幻滅の資本主義』鶴田満彦
  • 奥山忠信編『ジェームズ・ステュアートの貨幣論草稿』古谷 豊
  • 森岡真史著『数量調整の経済理論--品切回避行動の動学分析』大西 広

[書評へのリプライ]

  • 『日本経済--混沌のただ中で』に対する書評(評者:二瓶 敏氏)へのリプライ井村喜代子
  • 『世界開発と南北問題』に対する書評(評者:黒滝正昭氏)へのリプライ萬谷 迪
  • 『恐慌論の形成』に対する書評(評者:八尾信光氏)へのリプライ大内秀明

論文の要約(英文)

刊行趣意・投稿規定

編集後記(松本 朗)

特集にあたって

戦後資本主義経済システムの特徴の一つは、国家(政府)が独占資本と結びつきながら積極的に経済介入(経済政策)を行うところにあると考えられる。その象徴的な政策が、ケインズ主義的な財政金融政策であった。ここでは、一応、この特徴をさして国家独占資本主義体制と捉えることにする。

このシステムを国際的枠組みにおいて支えてきたのは、アメリカ・ドルを中心国通貨とするIMF体制であった(国際的な管理通貨制)。IMF体制によって各国は、第二次世界大戦前よりも柔軟な財政金融政策を採用することができるようになり、国家(政府)の経済介入が容易に行われるようになったと言えよう。

一方、戦後の資本主義経済は、「社会主義国」との対立軸を形成した(冷戦構造)。国際通貨体制の中心国になったアメリカ経済は、「資本主義経済の盟主」として軍産複合体に代表される独占資本を発展させ、高度な軍事産業経済構造を形作っていく。同時に、冷戦構造下での軍事支出拡大は、アメリカの財政および対外収支における不均衡の拡大へとつながっていった。他方、周辺国は、こうした国際的な管理通貨制の下で公共投資を軸とする所得再分配過程を発展させ、同時に、アメリカ従属型の対外収支黒字によって経済成長を続けてきた。日本はその典型国であったのである。

この枠組みは、周知のように1970年代に破綻する。その幕開けを示す出来事が、金ドル交換性停止(ニクソン・ショック)であり、変動相場制への移行であった。国際的な管理通貨制の行き詰まりを予感させる事態の勃発にもかかわらず、その後も先進各国はなお、国家による経済への介入というシステムによって調整を続けていった。その結果、各国の財政悪化は顕著になり、世界的なスタグフレーションの時代へと突入していったといえる。

財政破綻(言い換えれば、ケインズ型所得再分配システムの破綻)と、管理通貨制の限界(スタグフレーションの発生)という形で成長の限界にぶつかった戦後資本主義経済が選択した道こそが、サッチャーリズムやレーガノミックスに代表される小さな政府への指向であろう。しかし、財政依存への歯止めになる為替相場の固定が放棄された変動相場制下では、小さな政府への指向にもかかわらず、傾向的な財政赤字の縮小へと結びつくことはなかった。特に、国際通貨国アメリカは、一時的な財政黒字を達成したものの、長期的に見れば財政と対外収支の「双子の赤字」を累積させ、今やその水準は誰もが「危機的」と認めるところにまで達している。

一方、周辺国を見てみると、日本のように対外競争力を強化する政策によって成長してきた国は、対外収支の黒字を背景にした財政政策によって、対内的不均衡という資本蓄積の限界を先送りしてきたといえる。その結果、対内面での矛盾は、例えば、バブル経済の発生とその崩壊という形で顕在化したのである。バブル経済は1980年代に各国で現れたが、それは、国債累積を基礎とする国際的、国内的な過剰貨幣資本がもたらした経済均衡の破壊とも言い換えることができよう。さらにまた、こうした均衡破壊的な貨幣資本の運動が、国債累積下での規制緩和と小さな政府指向によってより促進されていることも、注目されなければならない。

ともあれ、アメリカの双子の赤字や日本の天文学的な国債累積額に示されるように、現代資本主義経済の特徴であった財政政策による経済調整の限界は、財政危機の深刻化という形で現れ始めている。特に、日本経済における国債累積とそこから生まれている閉塞的状況は世界的に見ても特異なものであり、今後の資本主義経済の行方を探る上でもきわめて重要な分析対象となっている。

こうした問題意識を基本としながら、本特集では次の4つの面から国債累積下の現代経済の諸相を明らかにするというアプローチを試みた。

その第一は、国家の経済活動が現代的な資本蓄積様式とどのように関連し、現代経済の諸相を形作っているかを、我が国の国債累積過程を追いながら分析するアプローチである。資本蓄積を優先する現代経済システムにおいて必然化した国家の経済介入は、国債を累積しつつ財政危機を進行させた。その一方で、資本にとって国債は新たな資本蓄積対象である金融商品になっている。このことが、国民諸階層にどのような影響を与えるのか。ここではこの課題の解明に挑戦している。

第二の課題は、これまで進められてきた量的緩和政策に着目することで、国債と金融システム、とりわけ中央銀行政策との関連を明らかにしようとするものである。今日の一般的な見方では銀行券供給のために中央銀行が取得する資産としては長期国債が適しているとされる。確かに、国債の累積を前提にするならば、中央銀行のオペ対象資産としてもっとも適当なのは長期国債ということになる。しかし、このような見解の普遍性はどの程度のものであろうか。量的緩和政策についてはその理論的評価がいろいろな面から行われてきた。しかし、国債管理政策的な色彩の強くなった量的緩和政策の評価、あるいはもっと広く日本銀行の金融政策と国債累積との関係についての理論的評価は、まだ研究の少ない分野だと考えられる。本特集ではこの点に焦点をあてて分析が行われた。

第三の課題が、現代資本主義における公信用の理論的意義と、現代日本における貨幣資本の過剰の特殊性についての検討である。現在の日本がそうであるように、財政の赤字と国債の累積は、借入金が新たな借入金を再生産するという様相にまで陥っている。これは、近代的な利子生み資本の運動において、到底考えられない事態といえる。こうした事態が可能になっている条件は何か、そしてその一方で、累積する過剰な貨幣資本とその運動との関連はどのようなものか。この問題への理論的な回答が準備される。

第四に、国際通貨制度と国債の問題に焦点をあてた。ここでは、国際通貨国アメリカが国際通貨ドルの流通を維持するメカニズムの中で、アメリカの国債(財務省証券)が果たしている役割が明らかになる。一般的に、1990年代以降アメリカは国際資本移動において国際金融仲介機能を果たし、その意味で「世界の銀行」になってきたことが、国際通貨ドルの基礎条件として捉えられてきた。これに対して本研究では、アメリカの国際信用創造機能と、国際資本移動における「能動性」を強調することによって、国際通貨ドルを支える基礎条件についての新たな見方を提供している。そして、この能動性を可能にしている要素の一つが外国人による大規模なアメリカの国債投資なのである。本研究は、実証的な分析を通じてこのことを明らかにしている。

本特集で取り上げた国債累積の問題は、現下の日本経済が抱えている緊急の課題であるが、その一方で現代資本主義の構造を分析するための重要なテーマでもある。このテーマは極めて広がりを持つものであり、一部は前号特集「グローバル資本主義の構造」での研究を継承し、さらに展開する内容を含んでいる。このことに示されるように、本テーマについては、到底本特集だけですべてを明らかにできるものではない。本特集が嚆矢となって、さらに議論、研究が発展展開されることを願うものである。

最後になったが執筆者への謝意を表しておきたい。執筆者はこの分野における最も優れた研究者であり、その点でこの分野の研究水準を示す優れた論文で特集をまとめることができた。編集担当者として、こうした特集号をまとめることができたことを喜ぶと同時に、執筆者に対して心からの御礼を述べたい。

(松本 朗)

編集後記

本号は、特集テーマの提案、編集委員会で討論・承認、執筆者への執筆依頼ではじまって、製本・発行されるまでに10ヶ月ほどの時間がかかっている。(その間の編集作業のほとんどを松本朗・編集委員がおこなった。)担当編集委員は、特集の趣旨をふまえて各執筆者にテーマの微調整をお願いしたり、原稿が集まってからは出版社と連絡をとったり、たえず出版予定期日を念頭におきながら進行状況に気を配っていなければならない。なかでも、執筆者や出版社、編集委員間での原稿のやりとりは、もっとも気をつかうところだが、近年、原稿を電子媒体でやり取りするようになって新たな問題が発生した。本号の編集過程でも、原稿を電子媒体・MOで送付したところ、受け手のところではデータが消失していたというようなことが現実に起こっている。フロッピー・ディスクやCD-Rなどでデータを送付するとき、受け取った人がただちに内容を確認しておかないと作業の大幅な遅れにつながるようなことにもなりかねない。さらに、校正の過程でも、電子媒体上の原稿の各版の管理を執筆者、編集者ともに厳重に行う必要がある。原稿は、執筆者、編集委員長、担当編集委員、出版社・桜井書店の間でやり取りされるが、担当編集委員は、これらのすべての原稿の動きと変更の詳細を把握し、取り違えがないようにしなければならない。

ところで、本誌への投稿規定が今回改正された。従来、投稿原稿は紙によるハードコピーのほかにフロッピー・ディスクに記録したものを提出していただいていたのだが、新たにCD-Rを加えて、「フロッピー・ディスクもしくはCD-R」とし、電子媒体を選択できるようにした。もちろん、いずれの場合でも、送り手、受け取り手の双方が気をつけなければならない問題があることには違いがない。

本誌の編集委員は、ほぼ2年の任期中に、8回出版される本誌各号のうち、一つの編集を責任者として担当する。もちろん、編集の最終責任は委員会にあるのだが、委員としてもっとも緊張するのは担当号の編集・出版の過程である。本号は、松本 朗・編集委員がその任にあたった。屋嘉は、編集後記を執筆することで編集担当の責めをふさいだのみである。

本誌は、経済理論学会の会員諸氏に執筆者として、またレフェリーとして多大なご協力を仰ぐことで成り立っているが、さらにもう一段のご協力をお願いしたいのは、特集のテーマや書評対象とすべき文献について、あるいは本誌編集に関して、ご要望ご意見を気軽に編集委員会にお寄せいただきたいということである。また、より多くの投稿をお寄せいただく、この点も繰り返し強くお願いしておきたい。

(屋嘉宗彦)

編集委員

委員長

  • 菅原陽心(新潟大学)

副委員長

  • 屋嘉宗彦(法政大学)

委員

  • 青才高志(信州大学)
  • 出雲雅志(神奈川大学)
  • 大友敏明(山梨大学)
  • 北川和彦(立教大学)
  • 佐藤良一(法政大学)
  • 二瓶 敏(専修大学・名誉)
  • 松本 朗(立命館大学)
  • 吉原直毅(一橋大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。