- 季刊 経済理論 第43巻第2号(2006年7月) 特集◎グローバル資本主義の構造
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経済理論学会編
B5判並製/106頁
ISBN4-921190-89-5
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2006年7月20日 - 目次
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[特集◎グローバル資本主義の構造]
- 特集にあたって萩原伸次郎
- グローバル資本主義とは何か--その歴史的位相柴垣和夫
- 国際過剰資本の誕生板木雅彦
- アメリカの対外債務累積と「カジノ資本主義」の新段階--その構造・意味・限界小西一雄
- アメリカン・グローバリズムとアメリカ経済中本 悟
[論文]
- トヨタ生産システムは構想と実行の「再結合」か?--労働者の「熟練」化の批判的検討をつうじて永田 瞬
- 規制緩和のマクロ分析--規模効果を考慮した政策補完性について大野 隆
- 価値形態論と商品貨幣説横山章祐
[書評]
- 涌井秀行著『東アジア経済論--外からの資本主義発展の道』平川 均
- ロバート・ブレナー著/石倉雅男・渡辺雅男訳『ブームとバブル--世界経済のなかのアメリカ』井村喜代子
- 森岡孝二著『働きすぎの時代』福島利夫
- 角田修一著『「資本」の方法とヘーゲル論理学』大石雄爾
- 大石雄爾著『ヘーゲル論理学の真相』角田修一
[書評へのリプライ]
- 『恐慌と不況』に対する書評(評者:長島誠一氏)へのリプライ中村泰治
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記(北川和彦・萩原伸次郎)
- 特集にあたって
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この特集は、私たちが生活する現代経済の歴史的特質を構造的に把握したいとするところから編まれた。近年、グローバル経済ということがしきりに言われる。資本の存在は、本質的にコスモポリタンであり、その意味では、本特集のタイトルである「グローバル資本主義の構造」を明らかにするには、現代資本主義について、その歴史をさかのぼって検討することが重要な課題ともなろう。
本特集では、グローバル資本主義を4つの視角から分析することを考えた。第1が、グローバル資本主義を世界経済の大きな歴史的流れから骨太に把握し、私たちが生活する21世紀の経済の歴史的位相を読者に提供することである(柴垣論文)。第2が、このグローバル資本主義を推進する経済主体について理論的に明らかにし、その資本概念をもとに21世紀の経済的特徴をおさえることである(板木論文)。第3が、グローバル資本主義を国際金融の視角から分析し、現在の金融グローバル・マネーゲーム化の構造と意味を明らかにすることである(小西論文)。そして第4が、このグローバル資本主義をアメリカン・グローバリズムと認識し、アメリカ経済に即した形でその姿を読者に提供することである(中本論文)。この4つの視角から書かれた論文は、いずれもこうした課題に挑戦し、それぞれの視角からグローバル資本主義の構造に迫った力作であるが、その中から浮かび上がった21世紀資本主義の歴史的特徴のいくつかについてあらかじめ述べておくこととしよう。
その第1は、今日のグローバル資本主義は、1970年代に始まり、90年代に本格化したという点である。1960年代半ば以降、その国際的地位を衰退させてきたアメリカが、1971年、金ドル交換停止以降、変動相場制の下で金融グローバリズムの旗手となり、イデオロギー的には新自由主義を振りかざしながら、ソ連邦解体を導き、いわゆる「パックス・ルッソ・アメリカーナ」から「パックス・アメリカーナ」を作り上げていった。すなわち、グローバル資本主義とは、現代資本主義の覇権国であったアメリカの金融資本が、製造業での国際競争の敗北から脱却すべく、生産過程から遊離した金融市場、それも自由化されたグローバルな市場で復権する過程で現われたものということができるだろう。
第2に、このグローバル資本主義の形成は、国際過剰資本の誕生との関連で把握しなければならないということである。この資本は、歴史的に言えば、1971年の金ドル交換停止と73年の変動相場制への移行によって、最初の形態として銀行貸付資本として誕生する。いわば、アメリカから排出されるこの国際過剰資本としての銀行貸付資本形態は、1980年代初頭の発展途上国の累積債務以来、急速にその役割を終え、その後、アメリカの「双子の赤字」を補填するために流入する国際過剰資本として債券資本の形態をとり始めるのである。この時点で、アメリカは、流入資本を資本輸出に変換する機能を完全に喪失し、世界から一方的な資本移転を受けるようになった。すなわち、一方的に資本を受け取るばかりで一切の資本を純流出させず、いわばそれを宇宙のブラック・ホールのように財政赤字に消尽してしまう構造であった。だが、その構造は、80年代後半から劇的に変化する。86年イギリスにおける金融ビッグ・バンによってシティを旋回軸とする債券と株式の世界的な回流が開始され、90年東西ドイツ統一によってドイツとフランスがその世界的な資本回流の渦に引き入れられ、90年代後半には各国中央銀行の金融緩和政策によって促された世界的バブルが発生する。こうして、ほぼ90年代半ばに、ニューヨーク、ロンドン、フランクフルトを最重要の旋回軸として、先進資本主義国、発展途上国、移行経済国(旧社会主義国)を回流する株式資本が、国際過剰資本の最も発達した形態として誕生したのだった。
かくして第3に、こうした金融グローバリズムとも称される、国際的金融取引の活発化が、アメリカの能動的な活動によって決定される点を分析することが重要となる。90年代、特にその後半のアメリカを軸とする国際的資金循環を見る場合、広く流布された考えに国際金融仲介機能論がある。これによれば、90年代にはアメリカ経済の好調と魅力的な金融資本市場に魅かれて外国からアメリカの経常収支を大きく超える対米投資が行われ、経常収支赤字分を超える超過分がアメリカ居住者によって新興市場などの海外に投資されている。つまり、アメリカは世界に流動性の高い安全な資産を提供し、自らはリスク資産への投資を引き受けるという国際的な金融仲介をおこなっているというのである。だが、ドル建の国際資金循環の真の姿は、これとは大きく異なっている。なぜなら、対米投資の規模は、アメリカの対外赤字である、経常収支赤字と対外投資の規模が決定するのであって、対米投資の動向は、ドル資産の保有と保有形態の変化の過程にほかならないのである。もちろん、アメリカ金融資本市場の魅力は大きいのではあるが、しかしその運動は、アメリカから発してアメリカにとどまる国際資金循環という大きな枠の中で理解されなければならないのである。ドル資産の保有と保有形態の変化の柔軟性こそが、対米投資の安定性を理解する鍵なのである。かくして、ときにこの安定性は動揺し、ドル危機となるのである。
ところで、グローバリズムを先導するアメリカの能動的動きは、金融分野だけに限られるわけではない。かくして第4に、貿易、資本移動、企業間の事業上の結びつきを通した国民経済の世界的規模の統合をアメリカ中心に展開しようとする多面的な動きの分析が重要となる。これが、いわゆるアメリカン・グローバリズムであって、世界の貿易・投資のシステムに関して言うならば、1995年に成立したWTO体制によってすすめられているものであり、最近ではNAFTAを嚆矢とする地域主義によって展開されているものだが、こうしたアメリカの能動的動きが、同時にアンチ・アメリカン・グローバリズムを招来させずにはおかないことを忘れてはならないだろう。
21世紀のグローバル資本主義に生活する私たちが、いまいかなる歴史的過程を営んでいるのか、また将来の展望はいかにあるべきかについて、この特集が大きな役割を果すことができれば、編者の一人としてこれに勝る喜びはない。
(萩原伸次郎)
- 編集後記
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43巻2号は、企画論文4本、投稿論文3本、書評5本、書評へのリプライ1本という構成で、ようやく刊行に漕ぎ着けることができた。審査に通った投稿論文3本をなんとか確保することが出来、胸をなでおろした。刊行を維持するためには掲載投稿論文数の確保が不可欠である。投稿論文数が多ければ、編集委員や、レフェリーの負担や苦労は大きくなるが、しかしそれは刊行を維持継続するための必要な苦労であることを改めて自覚せざるをえない。投稿論文数を確保できるように、今後、会員諸氏の積極的な投稿を期待する次第である。今回の特集号を担当した編集委員の両名とも2年間の任期の満了を迎えつつある。特に今回の号に関わらせてということではないが、編集後記の場を借りて、ほぼ2年間の編集活動の中で「課題」だと思いつつも、依然として解決の方途を見つけることができなかった点のうち特に頭に残っているものを2点挙げておきたい。一点目は学会のIdentityなり「特徴」をどのように考えるか? という問題である。この2年間で特に印象に残ったことは、投稿論文の内容のVarianceである。方法論や取り扱う視角等々においても、これまでの「経済理論学会」の枠にとらわれない論文が、かなり見受けられるようになってきたという点である。ある意味では学会の構成員の幅が拡がったということで歓迎すべきことであると言えるかもしれない。しかし同時に学会のIdentityが薄まるのではないか、学会の特徴が曖昧になるのではないか、という懸念も会員の間にはあるように思われる。昨年の編集委員会では一定の議論を行い、とりあえずは?方法論等の違いだけでrejectすることはしない?大枠で学会の主旨に適っているか、という点に関して留意する--等の確認を行ったように記憶している。結局のところ、今議論される必要があるのは「学会の主旨」の輪郭であるように思われる。この問題は、つきつめて行くと編集委員会が議論できる範囲を超える。明確な解答が出るという性格の問題では無いかもしれないが、幹事会をはじめこの点について会員の間でも議論をして頂きたい。
二点目は上記の問題に若干関連しているかもしれない編集上の問題である。投稿論文に関しては、まず編集委員会において、依頼すべき審査員を検討することになるが、この際、特定の会員の方に、審査員としての負担の集中が見られるという点である。ある分野において学会所属メンバーの数が少ないがその分野の投稿論文数は比較的多いというケースにおいてはこういった審査の負担の偏りが生じてくることが起こる。解決策として学会外にレフェリーをお願いすると言った案も出てはいるが、種々な理由で実現には至っていない。継続して刊行を維持するために解決しなければならない編集上の課題はこれ以外にも多々あるが、いずれにしてもその多くは編集委員会内部だけでは、解決できない問題である。会員諸氏の議論と協力によって刊行を支えていただくようにお願いせざるをえない。
(北川和彦・萩原伸次郎)
- 編集委員
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委員長
- 菅原陽心(新潟大学)
副委員長
- 屋嘉宗彦(法政大学)
委員
- 青才高志(信州大学)
- 出雲雅志(神奈川大学)
- 北川和彦(立教大学)
- 佐藤良一(法政大学)
- 二瓶 敏(専修大学・名誉)
- 萩原伸次郎(横浜国立大学)
- 松本 朗(立命館大学)
- 吉原直毅(一橋大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。