- 季刊 経済理論 第42巻第4号(2006年1月) 特集◎『資本論』草稿研究の現在-新メガの編集・刊行とその成果-
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経済理論学会編
B5判並製/122頁
ISBN4-921190-87-9
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2006年4月20日 - 目次
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[特集◎『資本論』草稿研究の現在-新メガの編集・刊行とその成果]
- 特集にあたって竹永 進
- 『資本論』第2部・第3部草稿の執筆時期について--MEGA編集者の考証作業から大谷禎之介
- エンゲルス『資本論』第2部編集原稿(1884-1885年)のMEGA_第・部門--第12巻における再現によせて大村 泉
- 知られざるマルクス--メガが今日までにマルクスの著作についてわれわれに語ったこと、
メガ以前にわれわれが知らなかったことミヒャエル・R・クレトケ/訳=竹永 進
[論文]
- システムとしての銀行と信用創造田中英明
- 労働時間と雇用の決定について--超過労働と高失業中谷 武/大野 隆
- 機械による生産と労働力の商品化関根順一
- 国際開発政策におけるフェアトレードの可能性大野 敦
- ポスト・ケインズ派金融不安定化モデルに対する制度論的アプローチ 藤田真哉
[書評]
- 萬谷迪著『世界開発と南北問題』黒滝正昭
- 中村泰治『恐慌と不況』長島誠一
- SGCIME編『金融システムの変容と危機』川波洋一
- 塩沢由典編『経済学の現在1』/吉田雅明編『経済学の現在2』森岡真史
論文の要約(英文)
刊行趣意・投稿規定
編集後記(青才高志)
- 特集にあたって
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今回の特集はメガ(MEGA: Marx Engels Gesamtausgabe)にかかわる3本の論考からなる。マルクスの『資本論』を最も重要な理論的よりどころのひとつとする本学会においてさえ、昨今ではメガ刊行事業の認知度はやや低下しておりその存在も十分には知られていないのが現状ではないだろうか。現在メガの刊行事業はひとつの重要な節目をむかえており、これを機会に広く本学会の内外にメガの存在と刊行の意義に対して注意を喚起したいと願って本特集を企画した。
(中略)
最初の大谷論文は、担当のメガ第2部第11巻の作業を手掛りとして、この編集にかかわる基本問題、すなわち『資本論』の第2部と第3部の諸草稿をマルクスがいつどのような順序で執筆したのかという草稿執筆時期と順序の確定という問題についての考証的な研究の現時点での成果を概括的に示している。『資本論』第2部はマルクスによる草稿の数が最も多くまた執筆時期も20年近くにまたがり、そのうえ、第1部と第3部の間に位置するためこの両者との相互関係が絶えず問題とされざるを得ず、本論文で扱われている問題群は第1部や第3部と比べてはるかに複雑で困難である。筆者の70年代末からの数次にわたるアムステルダムなどの原資料所蔵施設での調査と、それに基づく当時のメガ編集担当者による研究への批判の跡が詳細にたどられており、すでにこの時期から筆者を含む日本人研究者の考証的研究がメガ編集に大きく貢献してきたことが、本稿から伺えるであろう。
次の大村論文は、筆者が中心となって担当したメガ第2部第12巻におけるエンゲルスの『資本論』第2部の編集原稿の問題点とその究明から明らかにされる(『資本論』第2部の範囲内にとどまらない)若干の理論的問題について論じるとともに、エンゲルスが自身で編集刊行した『資本論』第二部の編者序における、編集過程でのマルクスの草稿の扱い(どこにどのように編者の手が加わっているか)についての報告が、実は実態とは大きく乖離していることを明らかにしえた膨大な資料(3つのリスト)について説明しその意義を強調している。マルクスの草稿と編集原稿とがどういう関係になっているのかを逐一つまびらかにしうるこの3つのリストは既刊のメガにはなかった画期的な新機軸であり、この資料が付いたために第12巻は本文収録冊よりも資料冊のほうがはるかに膨大になっている。メガの関連諸巻との照合により『資本論』第2部の全容が知れることになったわけである。
最後のクレトケ論文は、上記のメガ第2部第12巻の監閲者を務めた(メガの各巻は編集担当者から提出されたテクストと付属資料の原稿をブランデンブルク科学アカデミーの専門部署が委嘱する担当者によるチェックを経て刊行が妥当と判断されてはじめて印刷手続きに回される)アムステルダム大学の政治学教授の筆になる、メガ第2部の全体にわたるバランスのとれた概説でもあるが、それにとどまらず、メガの刊行によってこれまでさまざまに論じられてきたマルクス解釈上の諸問題にも、新たなそして確定的な解明の光を当てることが可能となると論じている。タイトルにも現れているように特に筆者が問題にしているのが、マルクスとエンゲルスの関係の問題、とりわけ、エンゲルスがマルクスの『資本論』関係の遺稿をどのように扱ったかということについて、これまで主張されてきた両者一体説も極端なエンゲルスの離反説もともに根拠がないと主張する。
メガの刊行によるマルクスとエンゲルスの文献的遺産の学術的な編集による公表は、非常に複雑な文献考証的研究を前提にしており、その成果を受取り咀嚼するのは容易ではない。少なくとも今までのところメガについて論じているのはごく少数の文献研究の専門家に限られている。だが、メガ刊行の長期にわたる潜在的インパクトは計り知れないものがあり、文献考証的関心以外のさまざまな角度からの検討が要求されているように思われる。
(竹永 進)
- 編集後記
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前号(第42巻第3号)から,特集の趣旨等に関しては,冒頭(竹永進編集委員筆)で述べることになったので,この編集後記では,「編集」の背「後」にあること等について「記」すこととする。
季刊化以後,編集委員会では,鋭意,本『季刊 経済理論』を「経済学の批判的な研究の公器」としてより良きものにする検討・努力を続けてきた。準備の時期も含め季刊化を軌道に乗せる過程における先輩委員の多大な尽力に対しては,頭が下がる思いである。だが,本誌は,未だ「発展途上」,より良きものにするための「改良」(試行錯誤)を重ねているプロセス上にあり,よい意味でも悪い意味でもルーティン化は実現できてはいない。このことに関連し,編集委員会では様々な事を検討・議論し,幹事会,全国大会の会員総会等において,報告・要望してきた。だが,会員の皆様に必ずしも伝わっていないこともあると思えるので,以下,その点につき述べることとする。
(1)特集テーマについて。編集委員会では,時機を得た特集テーマの選定を心掛けてきた。本号特集「『資本論』草稿研究の現在」も,初めて日本で(本学会員を中心として)編集された新MEGA第・部門「『資本論』とその準備草稿」第11巻・第12巻の刊行(2006年・2005年)を見据えたものである。だが,現状の特集テーマの選定は,会員の意向を忖度しつつなされたそれだとはいえ,未だ編集委員会内部での検討にとどまっている。こういう特集を組んで欲しい等,会員の皆様からの要望が寄せられることを願う。
(2)書評について。学会機関誌という性格から言って,書評,および,それに対するリプライは,「本誌を舞台に熱い論争を繰り広げること」となるが故に,大きな意義を持っている。編集委員会は,会員著作リスト・jspe等に目を配り,書評対象検討に漏れが無いよう心掛けている。しかし,編集委員個人が知った範囲でという限界があるのが現状である。会員の皆様から,これこれを書評の対象として取り上げるべきだ等の要望を編集委員会に寄せていただければ有り難いと思う。また,本誌では,本号の黒滝正昭会員による書評がそうであるように,書評の投稿を受け付けている。「論文」・「研究ノート」のみならず,「書評」に関しても,積極的に投稿していただきたい。
(3)その他,編集委員会への要望等。未だ発展途上にある『季刊 経済理論』であるが故に,会員の皆様も,編集方針・査読システムのあり方等に関し,いろいろと,要望・不満,改善の提案等をお持ちのことと思う。些細と思えることも含め,そのような要望・意見等も気軽に寄せていただきたい。
以上(1)(2)(3)については,第43巻編集委員長菅原陽心(sugahara@econ.niigata-u.ac.jp)宛に,遠慮なくお寄せいただきたい。
(4)原稿作成要領について。本誌は,その統一的体裁を確保するために,注のつけ方,引用文献の表記法等について「要領」を決めている[『季刊 経済理論』HP(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jspe/bulletin/index.html)「投稿案内」内の「提出原稿作成の手引き」,を参照]。その「要領」に従っていない場合には投稿を受け付けない等の杓子定規な運用はしていないが,できる限りその「要領」に則っての投稿をお願いしたい。字数・行数の指定等は,印刷用提出原稿と投稿原稿(1ページ35字×30行)とで異なるが,表記法等は投稿採択となった場合には訂正することとなるので,投稿段階から「要領」に則っていただくことが,投稿者御自身にとっても便宜だと思う。
(青才高志)
- 編集委員
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委員長
- 大西 広(京都大学)
副委員長
- 菅原陽心(新潟大学)
委員
- 青才高志(信州大学)
- 北川和彦(立教大学)
- 佐藤良一(法政大学)
- 竹永 進(大東文化大学)
- 萩原伸次郎(横浜国立大学)
- 松本 朗(立命館大学)
- 屋嘉宗彦(法政大学)
- 吉原直毅(一橋大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。