- 季刊 経済理論 第41巻第4号(2005年1月) 特集◎経済学の規範理論
-
経済理論学会編
B5判並製/122頁
ISBN4-921190-83-6
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2005年1月20日 - 目次
-
[特集◎経済学の規範理論]
- 搾取, 分配的正義, 所有権--オルタナティブ社会を求めて佐藤 隆
- 搾取論と環境・生命倫理山口拓美
- コミュニタリアニズムとしての宇野理論青木孝平
- 功利主義とマルクス赤間道夫
- 経済と倫理のディスコース--ドイツ語圏における経済倫理学説の新展開守 健二
[海外学界動向]
- 韓国の政治経済学研究--民主化, 経済危機そして政治経済学李康國/訳=表正賢
- 中国「資本論」研究会の概況と動向張忠任
- 米欧系研究者と非米欧系研究者の深刻なすれ違いは克服できるのか
--ハヴァナ国際会議「カール・マルクスの業績と21世紀への挑戦」に参加して瀬戸岡 紘
[論文]
- 貨幣取扱業務の再検討--信用と恐慌をめぐって吉村信之
- 負債荷重と金融政策二宮健史郎
[書評]
- 渡辺雅男著『階級!--社会認識の概念装置』岡部洋實
- 橋本健二著『階級・ジェンダー・再生産--現代資本主義社会の存続メカニズム』角田修一
- SGCIME編『資本主義原理像の再構築』伊藤 誠
- 早坂啓造著『『資本論』第2部の成立と新メガ--エンゲルス編集原稿(1884-1885・未公表)を中心に』小黒正夫
- 八木紀一郎著『ウィーンの経済思想--メンガー兄弟から20世紀へ』馬渡尚憲
[書評へのリプライ]
- 『価値の理論』に対する書評(評者・張忠任氏)へのリプライ和田 豊
論文の要約(英文)
厳格で公正なレフェリー制の確立を目指して編集委員会
刊行趣意・投稿規定
編集後記(松井 暁・三土修平)
- 編集後記
-
本号は、「経済学の規範理論」を特集テーマとした。「規範理論」は若干耳慣れない概念ではあるが、実証理論の対概念であり、「である」という事実ないし真理ではなく、「であるべき」という価値ないし規範を研究する理論である。近代経済学においては厚生経済学が規範的問題を扱ってきたが、マルクス経済学を中心とするポリティカル・エコノミー(PE)では従来、規範理論は重視されてこなかった。しかし、現代社会の危機的状況や価値観の多元化の中で新しい社会の方向を考えるのであれば、どうしても自ら「あるべき社会とは何か」という問いに答えざるをえなくなる。そこで、PEにおいても近年規範理論を対象とした研究が着実に増えつつある。本号は、そうしたPEにおける規範理論の動向を紹介することになった。
マルクス経済学から規範理論に接近する際に避けられない一大論点は、剰余価値の搾取を不正とみなすかどうかである。佐藤、山口論文はいずれもこの論点を導入としている。佐藤論文は、搾取概念における実証と規範の関係から入って、現代の分配的正義論における責任と運をめぐる問題、そして所有権を切り口として基本所得、市場社会主義などのオルタナティブ社会論へと展開している。山口論文もまず、搾取概念の考察から始まり、この概念の道徳規範にとっての意味を考察し、利潤論的搾取という新概念を提案する。これを手がかりに、環境保全、動物保護、生活の質といった環境倫理学、経済倫理学的テーマが論じられている。
青木論文は、通常は規範理論と最も縁遠いと考えられそうな宇野経済学についても、その読解を通じて規範理論の存在を見出し、マルクスの労働価値説にはリベラリズム的な要素が見られるのに対し、宇野価値論を規範理論的に再構成すればコミュニタリアニズム(共同体主義)的な社会観が導出できると主張する。赤間論文は、古典的功利主義から近代的功利主義への変容を跡づけながら、それらとマルクスの理論とどのような関係にあるかを考察している。マルクス学派はマルクスのベンサムに対する軽蔑的な記述をもって自らが功利主義とは正反対の立場にあるという曖昧な理解をもっていたが、功利主義は実に幅広い規範理論であり、いま一度の再検討が必要なのである。
守論文は、ドイツ語圏における3人の代表的論者の経済倫理学をもとに類型化を試み、その特徴を析出している。現代規範理論の展開は、日本では英米圏の議論ばかり目につくが、これは偏った状態といわざるをえない。とくに英米圏の主流派経済学に限定されない多様な経済理論の総合を目指す本学会の方向性からすれば、こうした非英米圏の規範理論も今後大いに研究されてしかるべきであろう。
海外学界動向は、韓国の政治経済学研究、中国「資本論」研究会、ハヴァナ国際会議に関する3本である。前二者の論文から読者は、両国におけるPE研究の急速な成長の状況を知ることができる。アジアにおける資本主義の発展とともに、これを分析するPEも同時に発展を遂げていると理解することができよう。従来、本学会の国際活動の相手はどちらかといえば、米欧が主であったが、今後は、アジア各国におけるPE研究の交流を進めることが急務であろう。しかし、問題はこれだけにとどまらないようである。ハヴァナ国際会議の報告は、米欧系研究者と非米欧系研究者の溝の深さと、現代帝国主義に反対する勢力の研究面における国際連帯の運動がいかに深刻な状況にあるかを訴えている。日本ではあらゆる面でグローバル化といえばアメリカ化を意味するが、それに対抗するような国際連帯の方向を推進する上で本学会も一層の役割を果たすべきであると思われる。
その他、今回の投稿論文は2本で、いずれも信用・金融論の領域に関する力作である。書評関係は、書評が5本、リプライが1本である。今後とも、論文、書評の積極的な投稿をお願いしたい。
本4号で、季刊後最初となった第41巻は完結する。車の発進で言えば、ロー・ギアの段階からやっとセカンド・ギアへと切り換えられるところまできた段階といえようか。まだまだドライブ・ギアでスイスイと走行できる段階ではない。季刊としてゼロに近い状況からスタートするには、大きな苦労が伴うし、失敗も避けられない。それゆえ会員の皆様には、読者として投稿者としてレフェリーとして、いろいろと不満に思われる部分が多いことと存ずるが、本誌が安定軌道に乗り、さらに上記の課題に応えられるような学術誌へと成長するために、引き続き忌憚ないご意見と惜しみないご協力をいただけることを願ってやまない。
(松井 暁・三土修平)
- 編集委員
-
委員
- 植村高久(山口大学)
- 宇仁宏幸(京都大学)
- 大西 広(京都大学)
- 佐藤良一(法政大学)
- 菅原陽心(新潟大学)
- 竹永 進(大東文化大学)
- 芳賀健一(新潟大学)
- 萩原伸次郎(横浜国立大学)
- 松井 暁(立命館大学)
- 三土修平 (東京理科大学)
経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。