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季刊 経済理論 第41巻第2号(2004年7月)  特集◎福祉国家と家族
季刊・経済理論第41巻第2号

経済理論学会編

B5判並製/114頁
ISBN4-921190-81-X
定価2100円(本体2000円+税)
発行
2004年7月20日

目次

[特集◎福祉国家と家族]

  • 福祉資本主義の危機と家族主義の未来渡辺雅男(一橋大学)
  • 児童手当制度のアイロニー北 明美(福井県立大学)
  • 脱商品化と脱家族化の政治経済学山森 亮(東京都立大学)
  • アメリカ型福祉国家とコミュニティ─住宅政策にみる市場と社会の論理岡田徹太郎(香川大学)
  • 高橋財政とニューディール財政─財政社会学による比較財政の試み井手英策(横浜国立大学)

[海外学界動向]

  • ヘテロドクス経済学者の横断的コミュニティ─ICAPEとAHE横川信治(武蔵大学)

[論文]

  • 累積的因果関係論の諸潮流とミュルダール藤田菜々子(名古屋大学・院)
  • 労働市場の制度的調整をともなうグッドウィン型成長モデル藤田真哉(京都大学・院)
  • 南北経済における労使交渉と成長─資本自由化を考慮して阿部太郎(神戸大学・院)

[書評]

  • 山口重克編著『東アジア市場経済-多様性と可能性』大内秀明(東北大学・名誉)
  • 村上和光著『景気循環論の構造』山口重克(東京大学・名誉)
  • 北村洋基著『情報資本主義』福田 豊(電気通信大学)

[書評へのリプライ]

  • 『土地支配の経済学』に対する書評(評者:森岡真史氏)へのリプライ関根順一
  • 『情報資本主義論』に対する書評(評者:福田豊氏)へのリプライ北村洋基

論文の要約(英文)

経済理論学会第52回大会プログラム

刊行趣意・投稿規定

編集後記(岡本英男・原 伸子)

編集後記

経済理論学会第27回大会(1979年)の共通論題のテーマは「現代資本主義と国家」(『経済理論学会年報17集』1980年に所収)であった。ブレトンウッズ体制の崩壊、二度にわたる石油危機を経て、戦後資本主義体制が急速に変化しようとした時期であった。報告者の一人である加藤榮一氏はそこで、福祉国家こそ現代資本主義のもっとも重要な特徴であると主張され、当時勢いを増しつつあった福祉見直し論に対しても「支配体制としても福祉国家を全部やめてしまうわけにはいかない」と福祉国家の不可逆性を強調された。しかし、その後の研究のなかで氏は多くの論拠を挙げて「福祉国家の解体」を積極的に主張されるようになった。はたして、福祉国家は「解体」したのであろうか。また、「解体」しつつあるのだろうか。

1980年代の新自由主義の台頭、ソ連東欧体制の崩壊、その後のグローバル化の急速な展開が戦後福祉国家体制にきわめて大きなインパクトを与えたことは確かである。しかし他方、わが国の介護保険制度の導入、最近の少子化対策や年金制度改革の議論が示すように、福祉国家のいっそうの整備を要求する声も強い。このような現実を反映して、福祉国家研究においても新しい注目すべき論点が提起され始めた。たとえば、『福祉資本主義の三つの世界』(1990年)で公共と市場の混合のあり方にもとづいて三つの福祉国家レジーム論を展開したエスピン‐アンデルセンは、福祉国家がジェンダー関係を再生産しているというフェミニストからの批判を受け止めて、『ポスト工業経済の社会的基礎』(1999年)において福祉レジームを区分する中核として家族に焦点を当て、公共・市場・家族からなる新たなレジーム論を展開するに至った。このエスピン‐アンデルセンの展開はその後の世界の比較福祉国家研究を大いに刺激した。わが国でも欧米の本格的な福祉国家研究が次々に翻訳されるようになったこと、さらにはジェンダー研究者の手になる『福祉国家とジェンダー』(2004年)や財政研究者たちのグローバル化と福祉国家財政の再編』(2004年)の出版などから伺えるように、現在再び福祉国家研究の興隆期を迎えている。

本号では、このような現実と理論の両方におよぶ問題状況を受けて「福祉国家と家族」という特集を組むことにした。5人の執筆者はそれぞれ異なった方法論でもって異なった領域を研究してきた研究者であるが、それでも現代福祉国家のありようや変化に強い関心をもっている点で共通している。読者諸氏は本書によって福祉国家論の問題領域と方法論の多様性を知るとともに、広がりをもつ福祉国家の全体像により一歩近づけるのではないだろうか。以下、各論文で提起された論点をごく簡単に振り返ってみよう。

まずわが国における家族主義の問題を正面からとりあげたのは渡辺論文と北論文である。渡辺氏は市場主義と家族主義というイデオロギーを基軸に福祉レジームを四つに分類し、日本を地中海型の家族主義型に位置づけている。さらに日本と類似するイタリアのレジーム研究を詳細に検討することによって、日本におけるジレンマを打開する「ライト・モチーフ」(=家族主義の克服)を提起している。北論文は日本の児童手当制度が設立当初から家族賃金の補完物という位置づけを与えられることによって、労働運動からも女性運動からも正当な評価を与えられてこなかった根拠を欧米の諸制度と対比しながら歴史的に明らかにしている。一方、山森論文は家族主義の問題を「モラル・エコノミー」の立場から方法論的に検討している点に特徴があり、エスピン‐アンデルセンの「脱商品化」と「脱家族化」概念が制度を維持する側面とその制度を超える側面をもっているという重要な指摘を行っている。岡田論文と井手論文はそれぞれ財政研究者の視点からの広義の福祉国家研究といえよう。岡田論文はアメリカにおける住宅政策をとりあげ、アメリカ的市場の論理がアメリカ国内においても一様ではなく、それに対抗する住環境の保護を求める力(たとえば、NPO)が存在することを実証的に明らかにしている。井手論文は財政社会学という方法論にもとづいて、1930年代の高橋財政とニューディール財政の比較を試みたものであるが、時代の画期となる「秩序」を形成するうえで各政策主体の選択やそれを規定する制度が何よりも重要であると指摘している。

このように五つの論文はいずれも実証的でアカデミックな性格をもった研究であるが、それと同時にこれらの研究にはわが国の現状と政策に対する鋭い批判的観点と新しいオールタナティブを構想する視点が存在することを読者諸氏は読み取ることができるであろう。

さらに本号には特集の他に、海外学界動向と書評を掲載している。書評の対象となったものはいずれも、現代資本主義の変化を明らかにするうえで最も重要なポイントといえる、市場化、情報化、そして景気循環問題を扱ったものである。寄稿をお願いした方々に心よりお礼申し上げたい。また投稿論文はいずれも若手研究者からのものである。今後も『季刊 経済理論』がより一層の積極的な投稿の場となることを願っている。

(岡本英男・原 伸子)

編集委員

委員

  • 植村高久(山口大学)
  • 宇仁宏幸(京都大学)
  • 大西 広(京都大学)
  • 岡本英男(東京経済大学)
  • 竹永 進(大東文化大学)
  • 芳賀健一(新潟大学)
  • 原 伸子(法政大学)
  • 半田正樹(東北学院大学)
  • 松井 暁(立命館大学)
  • 三土修平 (東京理科大学)

経済理論学会について詳しくは、同学会のホームページ
http://www.jspe.gr.jp/
をご覧ください。