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価値の理論 第三版   和田 豊(岡山大学教授:2019年3月まで)著

価値の理論 第三版

一貫した<労働過程論の視角>と<不等量交換アプローチ>で展開するマルクス派 支配労働価値説の最新版!

投下労働と支配労働の概念をはじめ、貨幣の必然性、労働価値、生産価格・転形問題、生産的労働と非生産的労働、結合生産、固定生産手段、国際価値、市場外労働(非実現商品の投下労働・家庭内労働・公務労働・ボランティア労働)、エコロジー、史的唯物論、高度社会主義体制への移行などを網羅。

  • A5判/上製/480頁
  • ISBN978-4-905261-41-4
  • 本体4600円+税

著者の言葉

本書は、マルクス派経済学の根幹をなす労働価値論にかんして、私が正しいと考える理論の在り方を学界に問うために著された。その内容は2003 年の初版と較べると、14 年の第二版で市場外労働(非実現商品の投下労働・家庭内労働・公務労働・ボランティア労働)の分析やエコロジーとの関連に拡張され、今回さらに固定生産手段の扱いや史的唯物論を論じた付論が書き下ろされるとともに既存の諸章や付論にも加筆・修正が加えられたが、底流にある基本的な発想とその含意は、つぎのとおり不変である。

価値論は、諸商品の交換価値の実体・形態・水準を解明する経済学の基礎理論であり、労働価値論は、交換価値の実体を最終的には諸商品の生産に投下された諸労働に帰着させるところに成立する。その際の方法としては、伝統的な「蒸留法」ではなく、私が「労働過程論の視角」と呼ぶ社会的物質代謝一般の構造認識を用いるべきである。

商品の交換価値は、商品が販売(購買)される際に確定される交換の条件を意味するが、それが何らかの実体に照らして「等量交換」でなければならない理由は存在しない。商品交換は「不等量交換」であっても何ら支障なく行われうる。

労働過程論の視角からみた不等量交換は「不等労働量交換」であり、交換価値の必然的現象形態である諸商品の価格をみれば、不等労働量交換が資本制経済の現実である。したがって、交換価値の水準の解明は、諸商品の価格を規定する不等労働量交換の要因分析にほかならず、これが国際経済関係や市場外労働やエコロジーを取り扱う段階まで一貫した労働価値論の中心課題とされなければならない。

このような発想にもとづいて構築された労働価値論には、通念に反する興味深い特徴が認められる。一つは、諸商品の交換価値の直接的実体が、当該商品の投下労働ではなく投下労働から乖離した支配労働だということである。いま一つは、労働価値が、商品の投下労働でもなければ交換価値の究極的実体でもなく、市場経済一般のレベルで理論的に想定された基準価格の支配労働だということである。

以上のような理論の展開は、私が大学院生になって価値論を研究テーマとして以来、さまざまな曲折の末に到達したものである。今回の増補・改訂をもってしても完成の域に近づいたとは到底いえないことを恥じ入るばかりだが、本書はやはりまっ先に、名古屋大学経済学部におけるゼミナールから私を教え導いてくださった大島雄一先生のご霊前にご報告申し上げたい。思い起こせば42 年前、ゼミ選択を前にして突然に研究室をお訪ねし、私の不躾な質問に時間をかけて答えていただいたことが最初の出会いであった。社会科学の道を志した私の弱点や限界をことごとく見抜かれながら、僅かばかりの個性に期待を寄せて忍耐強く育んでくださった先生であった。本書の価値論は、先生の主著『価格と資本の理論』に纏められた大島理論とは相当に隔たった内容を含んでいる。しかし、それでも先生は驚かれないと思うし、これもまた大島理論と私の個性がもたらした結果であることを直ちにご理解くださるに違いないと思う。

私の研究生活は、ほかにも数多くの方々に支えられてきた。

私が『資本論』の経済学を知ったのは、大島先生との出会いよりも早く大学初年度に聴いた松岡寛爾先生の講義を通じてであった。松岡先生とは大学院進学後に本格的なご指導を仰ぐ関係に入り、名人芸的な洞察の数々を威厳をもって告げられる大島先生とは対照的な寸分のよどみもない流麗なお話しぶりで、私にとって難解な数理経済学の教科書を1年かかって講読いただいたこともある。先生が若き日に書かれた論文「価値形成単位と諸換算率:社会的必要労働時間概念の一側面」は、まぎれもなく本書の想源の一つである。大島先生亡き後は、折に触れて継承されるべき時代の記憶と行く末を語りながら、門下生を見守り続けてくださった。

大学院大島ゼミの門下生は、現代資本主義研究会と称する研究会を組織しはしがきて交流を図ってきた。その中ではいつまでたっても若輩の私にとって、それぞれの分野で活躍中の先輩方はひときわ有り難い存在であった。本書の出版はもともと、そのお一人である塚本隆敏氏の強力なご紹介とご推薦があって実現できたものである。初版の出版時には塚本氏をはじめ神田敏英、岩下有司、濱内繁義、佐藤努、刑部泰伸の諸氏から貴重なコメントをいただいた。また、本書のベースになった論文や報告にたいして三輪憲次、伊藤幸男の両氏からいただいたご指摘も、かけがえのないものであった。

こうした大学生・大学院生当時からの関係に加えて、私が勤務する岡山大学経済学部の同僚であった新村聡氏には、初版草稿の主要部分に眼を通され鋭く有益なご意見をいただいた。新村氏が1980 年代に公表された論考「古典派労働価値論の成立」は,本書のような支配労働価値説を採るものにとって不滅の先行研究である。

本書初版および第二版は、その中で扱った諸問題領域で提示した積極説とそれらを貫く労働価値論の全体像が、いずれも正面から検討されることが極めて少なかった。この第三版は、資本主義の危機の深化を受けて今世紀の後半には簇生するであろう新世代のマルクス派経済学者にバトンを託す心境で上梓するものである。

目次

  • 第1章 マルクス派経済学の価格理論
  • 第2章 貨幣の必然性論の諸類型
  • 第3章 労働価値概念の基本性格
  • 第4章 異種労働の抽象的労働への還元
  • 第5章 結合生産商品の労働価値規定
  • 第6章 労働価値体系の生産価格体系への転形
  • 第7章 転形問題論争の系譜と展望
  • 第8章 生産的労働論争と労働価値論
  • 第9章  諸搾取率の概念とその意義
  • 第10章 労働価値論の国際的適用
  • 第11章 市場外労働と労働価値論
  • 第12章 エコロジーと労働価値論
  • 付論T 労働価値論における固定生産手段
  • 付論U 史的唯物論の構造と現代
  • 付論V 労働価値論の諸研究

著者

和田 豊(わだ・ゆたか)

1957年,石川県金沢市に生まれる
1979年,名古屋大学経済学部卒業
(株)日立製作所勤務をへて
1986年,名古屋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学
名古屋大学経済学部助手,日本学術振興会特別研究員をへて
岡山大学経済学部教授(2019年3月末まで)