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マルクス経済学の方法と現代世界   伊藤 誠(東京大学名誉教授)

マルクス経済学の方法と現代世界

資本主義の歴史的特性に学び、マルクスは経済学の方法論的基礎を『資本論』に示した。宇野弘蔵は、マルクス没後の資本主義の変容にそれを活用する道として三段階論を説いた。現代世界の資本主義と社会主義の双対的危機の解明にそれらをどう活かすか。

アクチュアルでスリリングな挑戦課題にラジカルにいどむ!

  • 四六判/上製/312頁
  • ISBN978-4-905261-33-9
  • 本体3000円+税
  • 初刷:2016年9月20日

著者の言葉

いま、現代世界は幾重にも深刻な危機と混迷のなかにある。1980年代以降新自由主義のもとで、先進諸国の経済生活は、市場原理主義により期待されていた効率的で合理的な成長を実現していない。むしろ経済格差の顕著な再拡大、反復されるバブル崩壊の不安定、雇用条件の劣化、教育、医療、年金の負担増と老後の生活不安、少子高齢化と自然環境荒廃のおそれ、いずれも競争的市場原理によって解決されえないばかりか、悪化を促されてきたのではないか。それは、新自由主義のもとで社会的制御から解放された資本主義経済の作動に内在的な限界を露呈するところと考えられる。

にもかかわらず、資本主義の限界をのりこえるオルタナティブとみなされていた社会主義にも危機が深い。ことに、非民主的歪みはともないつつ、労働者の雇用と生活の安定・成長は実現していたソ連型経済に1980年代に成長の鈍化・「摩滅」が顕著となり、東欧革命とソ連解体をまねくと、その変革は、新自由主義による資本主義の勝利とうけとられ、社会主義はもとより、社会民主主義による資本主義の制御の回復すら困難としている。

おりかさなった現代世界の閉塞状況は、社会科学としての政治経済学にも重大な危機と試練を与えている。社会科学最大の古典とされるK・マルクスの『資本論』とそれにもとづくマルクス経済学もその理論と方法を現代世界の危機の解明にどのように活かせるか、その生命力が深部から問いなおされているといえるであろう。本書では、この課題にそくし、マルクス経済学の方法を再考しつつ、現代世界の資本主義と社会主義の双対的危機の考察に活かす道を模索する試みをすすめたい。

その試みは、資本主義の歴史性を理論的に解明する『資本論』を経済学の原理論として位置づけて純化し、ついでそれにもとづき、帝国主義段階論を一環として、国家の経済政策や世界市場編成の変化をふくむ資本主義の世界史発展段階論を体系的に明確にすることにより、第一次大戦後の世界経済や日本資本主義の現状分析の考察基準が整えられるとする宇野弘蔵の三段階論の方法論を、現代世界の危機の考察にどう活かすかを問う課題をふくんでいる。(「はじめに」より)

目次

  • はじめに
  • 第1章 マルクスにおける経済学の方法論
    • 1 経済学の対象と方法:『要綱』の方法論
    • 2 唯物史観と経済学:『経済学批判』の「序言」
    • 3 商品の分析方法と『資本論』の抽象の基礎:第1巻初版の「序文」
    • 4 マルクスにおける弁証法と経済学:『資本論』第1巻「第2版後記」
    • 小括
  • 第2章 宇野理論の課題と方法
    • 1 宇野理論の方法論的課題
    • 2 宇野理論の方法論の三側面
    • 3 旧『原論』における経済学の方法論
    • 4 新『原論』「序論」の方法論
    • 5 経済原論の課題と方法
  • 第3章 現代資本主義とマルクス経済学の方法
    • 1 世界資本主義論の方法と現代資本主義
    • 2 国家独占資本主義論とレギュラシオン理論
    • 3 高度成長とその終焉の論理
    • 4 逆流仮説と新自由主義的グローバル資本主義
    • 5 宇野三段階論の継承と発展の試み
  • 第4章 マルクス経済学の方法とこれからの社会
    • 1 『資本論』と社会主義
    • 2 21世紀型の社会主義と社会民主主義
    • 3 新自由主義に対抗する代替路線の模索

著者

伊藤 誠(いとう・まこと)

1936年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。経済学博士。東京大学名誉教授。國學院大學、国士館大学元教授。日本学士院会員。ニューヨーク大学、ニュースクール・フォー・ソシアルリサーチ客員助教授、ロンドン大学、マニトバ大学、タマサート大学、ヨーク大学、シドニー大学、グリニッジ大学客員教授を歴任。

主要著書;『『資本論』を読む』(講談社学術文庫、2006年)。伊藤誠著作集第1巻『現代のマルクス経済学』、第2巻『価値と資本の理論』、第3巻『信用と恐慌』、第4巻『逆流する資本主義』、第5巻『日本資本主義の岐路』、第6巻『市場経済と社会主義』(社会評論社、2009-12年)。『サブプライムから世界恐慌へ』(青土社、2009年)。『日本経済はなぜ衰退したのか』(平凡社新書、2013年)。『経済学からなにを学ぶか』(平凡社新書、2015年)。Value and Crisis (Monthly Review, and Pluto, 1980). The Basic Theory of Capitalism (Macmillan, and Barnes & Noble, 1988). The World Economic Crisis and Japanese Capitalism (Macmillan, and St. Martin’s, 1990). Political Economy for Socialism (Macmillan, and St. Martin’s, 1995). Political Economy of Money and Finance, (with Costas Lapavitsas, Macmillan, and St. Martin’s, 1999). The Japanese Economy Reconsidered (Palgrave, 2000) など。