日本の損害保険産業:CSRと労働を中心に 松浦 章著

著者の言葉
損害保険の本質的な役割・社会的な存在意義は、生産や消費活動にかかわる偶然な事故による損失を専門的・社会的に集約し、原状回復を可能にする機能、すなわち「補償機能」にある。「一人は万人のために、万人は一人のために」がこの産業の基本理念であり、自然災害や不測の事故による経済的損失を補償する機能を発揮することが、社会的に求められている損保固有の役割と言えよう。しかし今、この基本的役割が揺らいでいるのではないか。規制緩和・自由化の流れの中で、人員削減や異種雇用(異業種からの雇い入れ)、非正規雇用の増大などで「雇用の劣化」が生じ、損保の発揮すべき機能の低下につながっているのではないか。(中略)
本書では、それぞれの企業・産業が固有にもっている「社会的役割」をまっとうに発揮することこそが「根源的な企業の社会的責任(CSR)である」という視座に基づいて、損保産業の原点、労働現場の状況、原発のリスクマネジメントの面から、損保産業におけるCSRを考察する。
推薦者(森岡孝二関西大学名誉教授)の言葉
日本の損害保険会社は、世界に例を見ない超大型の波状的M&Aを通して金融持ち株会社の下に経営統合されてきた。そのために、損害保険業界においては、株主重視経営が他の産業にも増して、雇用の劣化と労働条件の悪化に深刻な影響をもたらしている。このことを損害保険会社における長年にわたる職場体験にもとづいて明らかにしたのが本書である。私が本書から学んだのもまさにそのことにほかならない。
この研究は松浦さんにしかできなかった。それだけに本書が一人でも多くの読者の目に留まることを願っている。
四六判/上製/192頁
本体1800円+税
ISBN978-4-905261-21-6
初刷:2014年9月18日
目次
- はじめに
- 第1章「企業の社会的責任(CSR)」論をめぐって
- 第2章 損害保険産業の社会的役割と現状
- 第3章 損保代理店の現状
- 第4章 CSRと労働問題
- 第5章 損保における労働時間制度の実態
- 第6章 原発リスクとCSR
- おわりに
- 本書に寄せて 森岡孝二(関西大学名誉教授)
著者
- 1951年,愛媛県に生まれる
- 1974年3月,同志社大学法学部卒業
- 1974年4月,損害保険会社入社
- 2006年2月,損害保険会社を54歳で退社
- 2006年4月,兵庫県立大学大学院経済学研究科入学
- 2014年3月,同大学院博士後期課程修了・博士(経済学)
- 兵庫県立大学客員研究員
- 道修商事(株)代表取締役
- 大阪損保革新懇世話人