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豊かさという幻想:「消費社会」批判   姉歯 曉(駒澤大学経済学部教授)

豊かさという幻想:「消費社会」批判 表紙

消費は豊かさの指標か
日本とアメリカの国民生活に焦点を当てて消費者信用に支えられた消費の危うさを衝く異色の現代資本主義論!

  • A5判/上製/256頁
  • ISBN978-4-905261-13-1
  • 本体3200円+税
  • 初刷:2013年6月25日

著者の言葉

研究を始めた当時の1980年代は、日本経済にとっても世界経済にとっても一つの転機となる年代であった。イギリスではサッチャーが首相の座につき、アメリカでは1981年にレーガンが大統領選に勝利し、新自由主義が、それまで労働運動や市民運動が獲得してきた権利を次々と労働者から?ぎ取っていく、80年代はそんな時代であった。それは日本でも例外ではなかった。福祉に対する攻撃は「生産し、支える年齢層」と「生産に参加せず、支えてもらうだけの高齢者層」の仮想対立の構図を生み出し、この対立の構図を利用して高齢社会危機論が展開された。「元気な」高齢者が病院の待合室をサロン代わりにしているといった報道が高齢者を追い詰め、長寿であることを罪に替え、経済弱者の声を奪っていった。

反面、この時期、日本では「豊かな消費社会」に関する専門書や小説が発行された。高度経済成長以来、誰の目にも身の回りに商品が溢れていることは明らかであった。高度成長が終わりを告げてもなお、80年代後半にバブルの時期を迎えると、このままの好景気が永遠に続いていくという幻想が日本中を覆っていた。この時代に、階級も格差も貧困の影も見えない「豊かな消費社会論」が示すバラ色の社会が一世を風靡した。

そこで描かれるバラ色の豊かな社会は、しかし、商品世界のプロパガンダに思えるほど現実感の乏しいものであった。

生産の理論から隔絶された「消費社会」論に共通する「豊かさ」と生活実感とのギャップがどこからくるのか、当時の私はこの問題に取り組む必要性を強く感じた。

「クレジット・カード」の普及を背景とした「キャッシュレス」「支払形態の多様性」「カード化社会」に示される消費者利益の問題から、ダニエル・ベルに代表されるサービス化社会の問題へと研究対象は移っていったが、それは、いずれも70年代から80年代にかけての「豊かな消費社会」論を構成する要素であり、その検証を行う必要があったからにほかならない。

この検証の過程で得たものが、1929年の世界大恐慌以来の経済危機とされる、アメリカのサブプライムローン危機を分析する際の理論的基礎となっている。消費者信用の理論と「サービス論」の研究なくしては、アメリカの消費者が置かれている現状を把握することはできなかった。40年以上の時を経て、この未曾有の経済危機、そして日本を襲った大震災を機に、あの頃と驚くほど似通った「消費社会論」が繰り返されている。さらに、アベノミックスによる景気回復幻想は、この動きを助長することになろう。本書を出版する意味は、この繰り返される「幻想」や、「幻想」と呼ぶにはあまりに定着してしまった「幻想」から現実を解き放つことで、ますます深まる苦界の姿を暴露することにある。この困難な時代だからこそ必要とされるのは表面的な優しさに満ちた夢物語ではなく、現状を認識する冷徹なまなざしである。

目次

  • 第1部 浪費という幻想(Over-Consumption Myth)
    1. 第1章 サブプライムローン問題の本質:アメリカにおける「過消費」構造と家計債務の現状
    2. 第2章 サブプライムショック後のアメリカにおける消費動向
    3. 第3章 アメリカ経済と消費者信用:その歴史的変遷
    4. 第4章 アメリカ経済における「過消費」構造と国際通貨国特権:日米貿易構造を手がかりに
  • 第2部「消費社会」の内実
    1. 第5章 消費者信用の一形態としての販売信用:販売信用の本質・成立条件・機能
    2. 第6章 消費のサービス化について:「豊かな消費社会論」批判
    3. 第7章 R. A. ウォーカーの「サービス経済論」批判:資本主義的分業の展開

著者

姉歯 曉(あねは・あき)

  駒澤大学経済学部教授
  1960年、東京に生まれる。
  1989年、國學院大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得。
  日本学術振興会特別研究員、県立新潟女子短期大学生活科学科専任講師、同助教授,
  イギリス・エセックス大学社会学部visiting fello,
  大妻女子大学社会情報学部助教授を経て現職。

主要著作
  • 『現代サービス経済論』(共著,創風社,2001年)