資本主義とは何か:21世紀への経済地図 保坂直達著

資本主義はどこへ向かっているのか?
資本主義経済の改革は可能か?
先行き不透明な市場経済
実体経済と乖離して肥大化する金融経済
格差・貧困・社会的排除の広がり
出口の見えない経済の閉塞状況
ケインズ派経済学者が歴史と理論を再検証して、改革の処方箋を提示する!
- 四六判/上製/216頁
- ISBN978-4-905261-09-4
- 本体2400円+税
- 初刷:2012年9月25日
著者の言葉
目次
- まえがき
- 第1章 問われている資本主義
- 第2章 資本主義とは何か:定義と内実
- 第3章 資本制生産の概史と展望
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第4章 資本主義の発見と思想
- 第1節 資本主義思想形成の前史
- 第2節 資本主義の発見
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第5章 資本主義理論の展開
- 第1節 近代経済学の形成と展開
- 第2節 資本主義思想の検討
- 第3節 資本主義の調整・管理
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第6章 資本主義の変貌
- 第1節 戦後の経済と経済思想
- 第2節 資本主義の変貌の内実
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第7章 資本主義経済の構造と運動
- 第1節 資本主義経済の構成要因
- 第2節 資本主義経済の構造と運行
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第8章 資本主義経済の改革
- 第1節 歴史的経験からの教訓
- 第2節 市場経済の欠陥:失敗と限界
- 第9章(結章) 資本主義に代わるもの:21世紀の行方
- あとがき
著者
保坂直達(ほさか・なおみち)
関西大学、神戸商科大学での教職の後(定年退職)
流通科学大学教授を経て、学長(2008年退任)
兵庫県立大学(神戸商科大学)・流通科学大学名誉教授
経済学博士(神戸大学)
- 『流通と経済:一つの学際研究』(白石善章との共著)(2004年,晃洋書房)
- 『世紀転換期の経済と経済思潮:市場と金融』(2001年,晃洋書房)
- 『貨幣と金融:市場経済の基本問題』(1999年,研究叢書LXII,神戸商科大学)
- 『バブル経済の構造分析』(1994年,日本評論社)
- 『ケインズ革命の再評価と貨幣理論』(1978年,有斐閣)
大恐慌の折にも、大量の失業、相継ぐ企業の倒産、デフレの進行、などのために社会不安が生じ、国際的な不況の輸出となる保護主義が台頭した。残念ながら、その解決方法として「第二次世界大戦への道」が選ばれたのである。
しかし、大恐慌の時代には、資本主義はまだ若く発展過程にあった。なによりも、「資源制約と環境問題」が顕在化しておらず、不況さえ脱却することができれば、中長期的には経済発展が続く、という前提に立つことができた。人々の生活水準や企業の生産活動、それらを支える金融活動は、いずれも経済成長の基となる各種の技術革新を期待することができた。資本主義は、K・マルクスの不幸な予言を別にすれば、大恐慌を切り抜けて新たな発展へと進むことができたのである。
歴史的な比較をしてその正確な程度をいうことはできないが、2007年夏の米国のサブプライムローン・ショックに端を発した2008年秋からの世界同時不況は、市場経済の属性である「販路(市場)と生産の拡大」によるグローバリゼーションのもとで、そしてそれを支え、それに伴って進展する「金融の発展(肥大化)」のもとで、米国型資本主義-市場原理主義に代表されるもの-に主導される世界経済が、大恐慌時の経験を越えて、大変革の過程に突入していることを示しているといえるであろう。しかも、大恐慌時とは異なって、「資源制約と環境問題-特に温暖化」の顕在化という大枠の変更を抱えているのである。
「社会主義の実験」を経た中国やロシアの市場化-資本主義的手法の導入-による経済成長や、いわゆるNIEsの国々、インドやブラジルなどの新興経済が、発展途上国から「新興市場」へと発展して、独自の新たな成長点として注目され、米国をはじめとする先進経済から独立した動きをするようになったことを主張する「デカップリング論」が、一時、盛んになった。世界経済の新しい広がりが強調されたのである。
しかしながら、世界同時不況の進行が示しているのは、自由化(規制緩和)と市場化の浸透力は強大で、輸出依存と国際資本移動依存のもとで、それら新興経済は、すっかり世界同時不況の波に巻き込まれてしまっていることである。明らかに、デカップリング論は、成立しないのである。
「資本主義」をそれとして浮き彫りにしたK・マルクスの『資本論(Das Kapital)』(第1巻、1867年)は、1850年代に構想されたというが、まさに、資本主義は、一八五七年に最初の世界経済恐慌を経験しているのである(杉原四郎・真実一男編『経済学形成史』ミネルヴァ書房、1971年の巻末年表による)。
それ以来、資本主義は、時代の変化に応じて、そのエトスを説くM・ウェーバーや、金融の発展を論じたR・ヒルファーディング、さらに最近では一層広範な思想論など、様々な仕方で論じられてきた。しかし、資本主義を基底とする現実経済は、さらに急速かつ多様な展開と変貌を遂げつつある。
21世紀初頭の資本主義経済の歴史的な大変革の進行を前にして、改めて、それを生じさせている資本主義について、「資本主義とは何か」、「資本主義はどうなるのか」という問題の考察が必要であろう。そのためには、資本主義の本質にまで遡って、これらの問題を客観的・理論的・歴史的に考究することが必要である。本書は、それに向かうひとつの試みである。