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近代国家体系の形成-ウェストファリアの神話   ベンノ・テシィケ著/君塚直隆訳

近代国家体系の形成-ウェストファリアの神話

「社会的財産関係」をキーワードに階級闘争、経済発展、そして世界大のスケールで展開された地政学的な競合関係を精緻に分析して、 新たな世界史像を提示する。
2003年ドイッチャー賞受賞作品「The Myth of 1648」の全訳

  • A5判/上製/412頁
  • ISBN978-4-921190-51-4
  • 本体5200円+税
  • 初刷:2008年9月5日

著者の言葉

本書は2003年にイギリスで出版され、国際関係論(IR)や歴史社会学に対する批判的な書物としてまずは受け止められた。本書で私は三つの重要な課題を成し遂げようとした。

まず主題として、私は西暦800年から1800年までのヨーロッパにおける地政学的秩序の形成・作動・転換について、新たな解釈を生み出そうとした。このような歴史の再構築のために、我々はカロリング帝国から始め、中世封建時代の地政学と近世絶対主義=王朝的秩序の時代を経て、近代における国際体系の勃興まで旅を重ねていくことになる。歴史叙述でこのような試みを行うことは、IR理論の主流派(リアリズムやコンストラクティヴィズム)、標準的な歴史社会学(ウェーバー学派やネオ・ウェーバー学派の社会学と政治学)、そして規模・時間ともに巨大な社会・政治的転換を扱う正統派のマルクス主義史観に対する批判的な攻撃となろう。私の重要なテーゼのうちのひとつが、1648年のウェストファリア講和条約が重要であったと奉っているIRにお決まりの神話を否定している点にある。彼らはミュンスターとオスナブリュックというドイツの二つの町で結ばれたこの条約こそが、近代国家体系を築き上げたと論じているのだ。私はこれを「1648年の神話」と名づけた。彼らの主張とは裏腹に、私はこの「ウェストファリア体制」が、社会的には17世紀ヨーロッパ大陸の王朝主義的=絶対主義的な地政学に根ざしたものであり、そこで中核となる慣習は私物化された主権、王位継承戦争、王朝同士の連合、他者を食い物にしての均衡状態といった、近代の国際関係とはおよそかけ離れた風習であったと論じていく。私に言わせれば、近代の国際関係は、1688年以後のイングランドに登場した資本主義の勃興や近代国家の形成とともに徐々にその姿を現していったのである。近代国家体系とは、階級闘争、経済発展、そして「先進国」イギリスとヨーロッパ大陸の「後進国」とのあいだで世界大のスケールで見られた地政学的な競合関係という三つが、長い時間をかけて相互に作用しあった結果、生み出されたものなのである。

次に理論の面では、ヨーロッパの異なった地域ごとで見られた国家形成と経済発展の多様性を説明するために、本書は社会的財産関係と階級闘争の歴史的変動やその特有な帰結を強調する、政治的マルクス主義にその基礎を置いている。さらに、このような理論は、こうした変化が何世紀にも及ぶ国際紛争と協調のパターンに時代ごとでいかに違いが見られたかも示してくれよう。より具体的に言えば、中世後期から近世にかけてのイングランドに見られた、封建主義から資本主義への移行に関するブレンナー・テーゼこそが、1688年の名誉革命以後に登場したイングランド国家の近代性を論じる際の中心的な基準として役に立ってくれるはずだ。政治的マルクス主義の理論大綱に基づいているため、本書では社会的財産関係というものがいかに物事を左右し、他方で地政学的な圧力から影響を受け、また時には転換させられてきたのかを示すことになる。この点で本書は、社会的財産関係の有する国内的なダイナミズムが国際関係というより広い磁場といかに相互に関連しあっていたかも示すことになろう。理論的に新しい点は、国際的な領域の因果関連を、ヨーロッパ全体に見られたお互いに連動しあいながらも地域ごとで異なる発展の総合的な説明に結びつけたところにある。このような視点は、「社会的には不平等ながらも地政学的には連動しあった発展」という考え方に帰着する。これこそ国際関係の歴史社会学にとっての新しい理論の中心主題となるものなのである。

ヨーロッパ国家体系の起源と発展に関するこのような再構築に基づき、本書は、19世紀から20世紀にかけてヨーロッパさらには世界大のスケールで、資本主義と国家形成とが手と手を取り合って発展を遂げていったことを理解するための、新たなる研究課題の礎を築くことになろう。

「日本語版への序文」より

訳者の言葉

本書は、Benno Teschke, The Myth of 1648: Class, Geopolitics and the Making of Modern International Relations(London, Verso, 2003)を訳出したものである。

テシィケはこれまでに極めて精力的な研究活動を続けており、単著・共著・論文など多数あるが、その彼の代表作とも言うべきものが本書『1648年の神話』である。同書は、マルクス主義史学に基づく優れた研究に与えられる、アイザック・ドイッチャー記念賞を受賞し(2003年度)、2007年には新たな導入部を加えてドイツ語版も刊行された。

本書は、これまで国際関係論の世界で、近代的な主権国家体系がヨーロッパで形成される画期とされてきたウェストファリア講和条約(ドイツ語読みでヴェストファーレン講和条約)が、ヨーロッパに近代的な国家体系を形作ることも、また国家主権で分断された境界線を築き上げることもなかったということを、独自のマルクス主義史観から導き出した「社会的財産関係」の歴史的系譜を紐解くことで明らかにした作品である。当然のことながら、刊行と同時に、国際政治学や歴史学の学界で大きな反響を呼び起こした。

「訳者あとがき」より

目次

  • 日本語版への序文
  • まえがき
  • 序論
  • 1648年という神話
    • 理論の中核
    • 構成と論旨
  • 第1章  近代国家体系の生成と発展-国際関係論における論争
    • 第1節 導入-構造から歴史へ
    • 第2節 構造的ネオ・リアリズム
    • 第3節 歴史化されたリアリズム
    • 第4節 歴史化されたコンストラクティヴィズム
    • 第5節 ネオ進化論の歴史社会学
    • 第6節 ネオ・マルクス主義の国際関係理論
    • 第7節 結論-近代的国際関係の形成に関する新しい理論の構築に向けて
  • 第2章 中世ヨーロッパにおける地政学的関係に関する理論
    • 第1節 導入
    • 第2節 封建社会における経済と政治の関係
    • 第3節 封建時代における構造=主体問題
    • 第4節 中世における「国際」制度の現象学
    • 第5節 封建時代の「国際体系」-無秩序と秩序を超えて
    • 第6節 結論-社会的体系としての地政学的体系
  • 第3章 多重アクターからなる中世ヨーロッパの形成
    • 第1節 導入-秩序から無秩序へ
    • 第2節 カロリング帝国
    • 第3節 帝国的秩序から封建的無秩序への移行の説明
    • 第4節 新たなる搾取の様式
    • 第5節 地政学的な蓄積としての危機の時代以後の封建的拡大(11〜14世紀)
    • 第6節 結論-多重アクターからなる中世ヨーロッパの形成
  • 第4章 近代への移行か移行でないのか-他のパラダイム批判
    • 第1節 導入-西欧の勃興?
    • 第2節 地政学的競合モデル
    • 第3節 人口学モデル
    • 第4節 商業化モデル
    • 第5節 資本主義・近代国家・近代国家体系-解決策と問題点
  • 第5章 朕は国家なり!-絶対主義国家の形成論理
    • 第1節 導入-理想化された絶対主義
    • 第2節 絶対主義に関する論争-移行か移行でないのか?
    • 第3節 フランス絶対主義の発展と特質
    • 第4節 結論-絶対主義に見られた近代性の限界
  • 第6章 近世における国際政治経済学-重商主義と海洋帝国の建設
    • 第1節 導入-「長い16世紀」と重商主義
    • 第2節 理論的前提-商業資本主義としての重商主義
    • 第3節 海上交易の階級的性格とその地政学的含意
    • 第4節 重商主義は資本主義を誘ったのか?
    • 第5節 閉鎖的な通商国家-統一された経済的領土?
    • 第6節 結論-「国家の富」対「諸国民の富」
  • 第7章 ウェストファリア国家体系の謎を解く
    • 第1節 導入-地政学的体系の生成・作動・転換の理論化
    • 第2節 ウェストファリア秩序における構造と主体
    • 第3節 ウェストファリアの地政学的関係-王朝の家業としての外交政策
    • 第4節 流動化する領土・流動化する王侯たち
    • 第5節 他者を食い物にする王朝の均衡と勢力の均衡
    • 第6節 ウェストファリア講和条約の謎を解く
    • 第7節 結論-1648年の終焉
  • 第8章 近代的国際体系への道-絶対主義から資本主義への国際関係
    • 第1節 導入-「構造的不連続」から「様々な事件の寄せ集め」の脚本へ
    • 第2節 イングランドにおける封建主義から資本主義への移行
    • 第3節 名誉革命と近代的主権国家
    • 第4節 イギリスの特殊性-資本主義・近代主権国家・積極的な均衡化
    • 第5節 地政学的には連動しながらも社会的には不均等な発展
  • 結論 国際関係の弁証法
  • 訳者あとがき
  • 索引
  • 文献

著者

ベンノ・テシィケ(Benno Teschke)

1967年西独オスナブリュック生まれ。ロンドン大学政治経済校(LSE)で博士号を取得。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)給費研究生、ウェールズ大学国際関係政治学部講師、ジャワハルラル・ネルー大学(ニューデリー)客員教授を経て、2003年からサセックス大学国際関係政治学部の上級講師を務める。専攻は国際関係理論、国際関係史、歴史社会学。

訳者

君塚直隆(きみづか・なおたか)

1967年東京生まれ。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。博士(史学)。東京大学客員助教授等を経て、2007年から神奈川県立外語短期大学教授を務める。専攻は近現代イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際関係史。